06.the exposure of magic
「話があるから今度の休み、午前部活が終わったら付き合え」通常練習を終え居残りの自主練も終え、部員が帰る準備を済まし部室を出て行くのを待っていると、隣で部日誌を書いていた森山がしゃべった。何て言ったかきこえなかった訳じゃないが、その上からの物言いに「はァ?」と不機嫌な声が漏れる。ロッカーにもたれたままチラッと見やれば、森山のほうもベンチを机代わりに日誌を書いていた手を休めてチラッと俺に視線をやる。何言ってんだこいつ。別に話があるんなら今いえばいいじゃねぇか…「学校でするにはちょっと込み入った話なんだよ」口には出していないはずなのに、俺の目を、しかめっ面を見ただけで何を思ってるのか察しがついたのか、俺から視線を外しまた日誌にペンを走らせながらにやりと笑う森山。面倒くせぇやつ…「ま、いいけど」「さっすが!…おし、日誌終わったぞ!」

海常青春白書

「で、こんなとこまで来てなんだよ」

約束通りその週の土曜は部活が終わったそのままに、森山に連れられるがままに駅近くの喫茶店に押し込まれた。話って別に何処でもできるだろ?学校が嫌ってだけで、別にどっちかの家行けばいいんだし、外にいて凍え死ぬって季節でもない。むしろまだまだ残暑は厳しい…から、屋外は、それはそれで反対しただろうけど…。とにかく、この喫茶店にたどり着くまでの道のりに、レギュラーメンバーでよく使うファミレスとか、小堀と森山と3人で集まる馴染みの喫茶店だってあったじゃねぇか。なんでわざわざ初めてはいるような店…いや、こいつは初めてではないかもしれねぇけど…

「ってかなんでお前、俺の隣座ってンの?向こう座れよ」

通されたのは4人がけのテーブル席。俺と森山が隣り合わせる必要は無い。むしろ隣にいて欲しくない。こういうテーブル席で2人の客が隣り合わせるって気持ち悪ィだろ…どう考えても…しかも男同士って…「まぁ気にすんなって、なんか食うか?」最近はまったらしい(ネットで見たとかどうとかの)シトラスの制汗スプレーの匂いをさせながら話をごまかすようにメニュー表を差し出す森山。いや、なんか食うに決まってっけど…なんだこいつ…なんか、悩みでもあんのか?部活中は別にいつも通りだったし、クラスでなんかあったって感じもしねぇ…ナンパとか他学年の女子にフラれるなんて日常茶飯事だからいちいち落ち込んだりしねぇし…そもそもこいつから「話がある」なんて呼び出されること自体すげぇ稀なことだ。店員を呼び、俺はオムライス森山はサンドイッチを注文した。料理がくるまでの時間、森山から口を開くことは無く、ただいつもより少し時計を気にしているように見えた。…自分から誘っておいて、門限でも気にしてんのか?このまま何も話さないつもりだろうか?付き合えとか、自分から言っておいて、学校では話しにくいとわざわざ他所に呼び出して…それくらい、深刻な話なんだろう?森山から話し出すのを待ってたら、いつまでたっても切り出さないで…もしかしたらそのまま話すのを、相談するのを諦めちまうんじゃないかってくらい、静かだ。俺はもともと気の長いほうじゃない。料理が運ばれてきたのをきっかけに「話ってなんだよ」と切り出し、そのまま聞き役に徹するつもりで、とりあえずオムライスを大きく一口含んだ。

「笠松さ、席替えどうやって阻止したの?」
「…ッぶっふぉぉッッ!!!!」

大口開けて一口を欲張るんじゃなかった。頬杖をついて涼しそうにこっちを見る森山。口に含んだオムライスを噛むこともせずすべてテーブルに吐き出した俺。「あららー」なんてのん気な声だして、森山がおしぼりで俺が汚したのを片付けようとするから、急いでそれを奪って自分で清掃作業を進める。な、んで…こいつ!!知ってるんだ?!オムライスでむせた所為か焦りの所為か恥ずかしさの所為か、何がなんだか訳が分からない汗が噴出す。まだ治まらない咳を左手でおさえ、右手でおしぼりを握りしめ乱雑にテーブルを拭いながら森山をにらみつける。担任が、口を滑らしたのだろうか…いや、口止めはしておいたはずだ…じゃあ、なんで?!

「なんで知ってんだって顔してるけどさ」
「うっ、げほッげっェ!」
「俺、笠松くんがみょうじちゃんのこと大好きなの知ってるし」

あと、察しいいし?ふざけたウィンクをよこすその顔を張っ倒す。なっな…話ってまさかそれか?!お、俺とみょうじの話なのか?!そうなのか?!

「笠松なんだろ?席替え阻止したの」
「うっ…ま、まぁ…そうだけど?だったらなんだよ?!」
「いや、怒るなよ。純粋にどうやったのかなー?って気になってさ」

夏休みの、あのファミレスでの一件以来森山は俺にみょうじの事をとやかく言わなくなった。偶然だったが、あの現場をみょうじに見られたことで俺はひどく動揺したし、それでも森山は心配ないだろうとは言ったが…それがさらに、個人的に俺の存在ってのはみょうじに影響してないのか…とか、マジでみょうじ自身、俺が合コンしてたって事についてなにか特別な感情を抱いてる風でもなかったわけだから…結局俺の1人相撲だったわけだが…。自分で言うのがムカつくが、森山が察しがいいのは確かだ。そういうの、全部、気づいてたのかこんちくしょう…。

「俺は笠松の恋路応援し隊だから」

とがんなよって笑われる。…まぁこいつに隠し事したってしかたねぇか…オフにわざわざ呼び出してまで聴きたがって、そんだけ興味あることだったら俺からきけなくても、最終どうにか担任から聞き出しちまいそうだしな。はぁっとため息をついて観念する。間違いない。2学期はじめの恒例行事である席替えを中止にしたのは俺だ。中止したというか、正確には中止させるよう促した、だけど…

あの日、朝練のあと部室の鍵を職員室に返しに行って、担任に捕まり席替え用のくじの準備を手伝わされていた時だ。奇跡でも起きなきゃ、くじ運がアホみたいに強くなきゃ、もうみょうじの隣の席ではいられなくなるんだと思ったら、いろいろ、考えて、考えて考えて…結論、そんなのは嫌だと思った。強く。…好きになったんだ、みょうじを。女子高生サイズのウルトラマンコスモスが、隣にいてくれなきゃ、困るんだ…俺は、もう。ぎゅっと手にしていた折りたたまれたくじを握り締め、俺は担任に向かって口を開いた。激情と緊張と恥じらいに体がぶるぶる震えだしそうだった。

「先生っ、あの…席替え、なんすけど…」
「えっもうちょっとで準備終わるから頑張って笠松っ」
「いえ、ちょっと、みょうじの事でお話がッ!!」
「…え?みょうじ?うちのクラスのみょうじ おなまえ??」

席に座っていた担任が立ち尽くしている俺をぽかんと見上げる。手の中のくじをぎゅっと深く握りこんで、話を続けた。

「みょうじがクラスや3年館でお面つけてるの、先生も知ってますよね?あいつ、昔から転校ばっかり繰り返してて、もう出来上がったクラスのコミュニティに慣れるのに大変な思いとかもしてて、それで、軽く、人間不信っていうか…普段明るく振舞ってますが!実はあいつまだ自分がクラスの一員になりきれてないって悩んでて…お、れ…俺はッ席が隣だから…ちょっと、心開いてくれたっていうか…そういう話もしてくれて…だから、まだ、あんまり席とか替えて、替えたら…みょうじが不安がるっていうか…俺たち今年受験生だし、あんまり、そういう変なストレスになるような事は、控えたほうがいいと、思うって言うか…今の席のまま、もう少し、みょうじの様子、見てもらえたら…俺としては…嬉しいって言うか…その、はい…」
「はー、笠松は偉いねー!そうだね!ようし!席替えやめよう!面倒だし!!」

みょうじはいい友達もったねーって笑う担任に、今度は嘘がバレなかった安堵とみょうじの隣の席でいられる安堵のダブルパンチで震えと汗が出てきて、悟られまいと急いで職員室を後にした。

「って訳だ…」
「笠松ちょうかっこいいじゃん」
「ばかにしてんだろ?」

思い出すだけでも恥ずかしい…必死だったから仕方ないけど、本当に担任がアホでよかった…。照れ隠しにオムライスをがつがつ平らげ森山をにらみ付けると、森山は「そんなに好きなら大丈夫だな」とか意味分かんねぇけど意味深なこと呟いて、また腕時計を覗いた。

「なぁ、お前さっきから時間ばっか気にしてっけど「あッ!森山くん早いー!!おまたせー!!」な、んか…あん、の…か?」

喫茶店の入り口が開く音。聴き慣れた女の子の楽しそうに弾む声。隣の男のにやにや笑い。握ったスプーンの感覚が無くなってきやがった…

「あっ、れ?!2対2って!!連れの男の子って笠松くんだったの?!」
「う、わ…みょうじ…」
「みょうじちゃんやっほー!お友達さんも座って座って!飲み物選んでー」
「ありがとうございます、私アイスコーヒーで。おなまえは?」
「え、あ!私ロイヤルミルクティー!アイスの!!ってかなんでこのイスめっちゃご飯粒ついてるの?!何が起きたの?!」

何が起きたかというより俺は突然現れたみょうじとその友達と「2対2」って言葉の響きに、これから何が起こるのかって方が不安でたまらなく、とりあえず女の子2人を直視でき無いようにそっと両手で自分の顔を隠した。

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