04.僕の絶対理想論
俺という男は女の子が好きだ、大好きだ。なんで好きなのかは自分でも分からない。俺の体を成す細胞が、遺伝子レベルで女の子(特にかわいい女の子)を求めてやまない。それはもちろん手をつなぎたいとか抱きしめたいとかキスしたいとか更なる親密行為を成し得たいとかそういうことセットの込み込みでお付き合いしたいって願望もあるんだけど否めないんだけど、とりあえず今のところはバスケが楽しいし勉強もみっちしだし部活のメンバーとかクラスの友達とかがなんだかんだと面白くてむしろ女の子だけに、俺がそうするべき女の子(つまり恋人)のために時間を割いてあげる余裕はないので、人生の大きな目標、少年が抱く大志として「モテたい」「彼女欲しい」と声を荒げるものの、本当は現状に満足してたりする。みょうじちゃんは可愛いし面白い。みょうじちゃんが構ってくれれば、いつの間にかみょうじちゃん繋がりで今まで親しく話したことのない層の女の子達ともなかなか楽しい休み時間を過ごせたりする。うん、つまり何が言いたいかというと、あの日の敗戦は俺にとっちゃ経験値になったわけだけど、そして夏休み明けの学校生活になんのわだかまりもなくひと夏の思い出としてそっと胸の奥に潜んでいてくれてるんだけど・・・どうやら誰かさんにはそうじゃないようで・・・いや、そう・・・だよな、ごめん。ごめんなさい。つまり、俺、反省してます。森山由孝、(たぶん)初恋の相手に合コン(失敗)してるのを見られてべっこべこにヘコんでる我らが主将、我が友・笠松幸男くんのためにひと皮剥けてみせちゃおうと思います。

海常青春白書

夏休み中ロッカーに教材おいといちゃダメだよー没収だよーって再三注意されてたから、ちゃんといい子にでっかい資料集やら重たい辞書やらなにやらをお持ち帰りしてた私は、2学期開始早々、肩が壊れちゃいそうな重量の、女の子が一度に運ぶ量じゃないでしょ?!ってクラスの子に驚かれるくらいの量をカバンにぎゅうぎゅうに詰めてまだ残暑厳しい通学路をえっさほいさと経て、ようやく学校についたぞー!校門をくぐったぞー!いえーい!!って荷物放り出して小躍りしたくなってたところで、体育館の渡り廊下から朝練上がりの森山くんが「みょうじちゃんおはよー」ってキラキラスマイルを輝かせ、小走りに昇降口で外履きに替えて私のところまで駆けてきてくれた。バスケ部大変だなァ!こんな早くから朝練やってるのかー!ってか昨日始業式終わったばっかりでもう朝練?!すごいなァ!!武内先生スパルタだなァ!!日本史の授業の時とかはそんなことないのに!!「森山くんおはよ!朝練お疲れ様だねぇ」労って、褒めてつかわそうと思ったのに、私のパンパンのカバンを見た森山くんが「いや、みょうじちゃんもなかなか自分いじめに余念がないね」だいぶ重いでしょ?って笑う。そりゃあ重いよ!全教科持ってきたもん!!まだ授業は始まらないけどね!忘れ物すると嫌だからね!長期休み明けとかさ、資料集とかロッカーに入ってるしーって思い込んでてなかったりするでしょ?あれが困っちゃうんだよねェ!重いよすごくリンゴ何個分って数えたら辛いけどね!ゾウの何分の何?って考えるとなかなか気分楽になるんだよ!!なんて言ってる間に、いつの間にか森山くんが「っしょ」って小さな声を漏らすくらいで、ひょいっと私の重たい重たいカバンを片手で持ち上げてしまう。なんてこった。これが男の子か。森山くんほっそりして見えてなんだ結構力持ちじゃないかさすがバスケ部副キャプテン様だね!!伊達に5番はしょってないね?!

「って、あれ?笠松くんは?一緒じゃないんだね?」
「笠松は鍵当番だから、職員室に寄ってからくるよ」

あー、そうか、笠松くんは鍵当番なんだー。職員室に寄ってから来るんだねーへー大変だなァ管理職。教室に着いて、荷物持ってくれた森山くんにお礼を言って常備してるキャンディを1つあげる。ありがとうって笑って、森山くんは私の隣の席に腰を下ろした。私の隣の、笠松くんの席に座った森山くんが、隣でカバンから教科書を取り出してる私をじっと見てるから、どうかしたのかな?って思ったけど、とりあえず荷物を全部出しちゃおう。最後に教科書ぎゅんぎゅんのじゃないカバンからコスモスのお面を取り出して、そのゴム部分をくるくるしたり引っ張ったりしながら、どうかした?って森山くんの方に向いて訊けば、森山くんはぽつっと「そういえば今日たぶん席替えだな」とこぼした。

ほ・・・席替え、あー!席替えかァ!そうか、そうだよね!だいたいどの学校でも学期ごとに席替えするんだよね!私前の学校は席替えとかなくってまるっと1年同じ席で過ごしてたから、席替えなんて学生的大イベントのことすっかり忘れてたよ!!あーそっか席替えか!!「さっき隣のクラスの黒板に、席替え用のあみだが書いてあってさ」へー!となりのクラスはあみだなんだ!うちのクラスはなんだろう?黒板にはまだ何も書いてないけど、あみだなのかな?それともクジかな?なにで決めるんだろう?!中学ぶりの席替えに、なんだかわくわくしてきて「席替えしたらもしかしたら森山くんと隣になれるかもね!」って隣に座ってる森山くんに向かって笑いかける。あ・・・そうか、そうだ。この景色に、なるかもしれないんだよね!私の隣の席が森山くんの席になって、つまり森山くんの隣の席が私の席になるっていうことだ。隣を向けば森山くんが居て、授業のノート見せあったり、消しゴム落としたりしたら拾い合って助けあったりするんだ。笠松くんとはそういうの無いけど、きっと森山くんとだったら授業中におしゃべりとかいっぱいしちゃうんだろうなァ!それで休み時間には笠松くんが森山くんの席に、席に来たり・・・来たり、する・・・かな?笠松くん結構休み時間うつぶせて寝ようとしてたり、だけど私とか森山くんが話しかけるから、それに付き合ってくれてるってだけで、もしも私と森山くん2人だけで隣り合ってしゃべって、笠松くんの席がはなれちゃったりしたら・・・笠松くん、わざわざ私の・・・私たちの?わたしの?とこまで、来てくれ・・・ない?だろう、な?そ、それはちょっと・・・いや、だいぶ、さみしいな。さみしいぞそれはすごく。

「席替えといえば、合コンだよね」

すごく真面目な顔で、映画のワンシーンみたいな顔で森山くんがそんなこと言うから、本当に、真面目に言ってるのかふざけてるのか分かんなくて「へ?」なんて間抜けな声が出た。え、合コン?ああ、あの『席替えターイム!』的な?女の子がお化粧直しと銘打った作戦会議で『A子はB介くんが気になるからC美ちゃんと席変わってェD也くんE香のこと気にしてるっぽいからァそこはあえて席離して様子見ね?』的なアレね!でもだけどよくもまぁクラスの席替えから合コンの席替えまで脳内シフトチェンジできたね?!森山くんすごい発想力?!女子力?!え、それは女子力?!

「みょうじちゃん、俺のために合コンセッティングしてくれない?」
「おおう!私なんかでいいのかい?!」
「みょうじちゃん転校多かったってことは、それだけ顔広いってことでしょ?つまり友達が多い!!女の子の友達が多い!!友達の女の子のバリエーションが豊富!!ってことでしょ?!俺もバカだった・・・黄瀬を餌にナンパなんてリスク高い賭けにでるんじゃなくって、もっと早くからみょうじちゃんに相談してればよかったんだよなァ!!ってかさ、俺の何がいけないの?俺どこがダメだと思う?自分で言うのはなんだけど、顔は悪くないと思うし、一応気遣って髪とか服装とかもちゃんとしてるつもりなんだけどさー女の子との対話には前もってネットで予備知識おさえておくし・・・何がいけないのかわかんないからさ、できたら教えて欲しい・・・っていうか、みょうじちゃんにフォローして欲しいんだよね!もしも相手の女の子と何話していいかわかんなくなってもさ、女の子とも俺とも共通の友達のみょうじちゃんいてくれればさ!なんかたのしくわいわい話せそうでしょ?!それってなんか普通に楽しくない?!」

えー!!それって普通に楽しそう!!私も久しぶりに友達と会いたいし!!転校先の新しい学校でこんなに楽しくやってるよ!心配しなくていいよ!ってこと教えてあげたいし!!わー!!なんだそれすごく楽しそうじゃないか!!私の友達が私の友達と友達になって友達の友達は友達・・・すごい、なんかすごい使命感感じちゃうなァ!地球の平和をどうこうってウルトラマン的ではないにしろ、なんかすごい重大な任務を任されちゃった感じだ!!いやぁ、頼ってもらえるってのは嬉しいことだなァ!もてあそんでたコスモスのお面の、ゴムをぐっと引いて、威勢良く(するつもりだったけど実際は大して派手でもなく)ぱちんと弾く。えへへっ

「ようし!!森山くん!!このみょうじにすべて任されよ!!」

「おっ、遅かったな笠松」
「笠松くんおはよー!お疲れちゃーん」
「職員室でちょっと捕まってた。おはよ」
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -