03.続・コスモプラック少女
無事に夏休みがあけ・・・た、とか、言いたいけど全然無事じゃねェのに夏休み終わっちまって、もうどうすればいいのか頭抱えながらだからといって俺に何ができるのかも見いだせないままいつの間にか始業式が始まって教室集まって課題提出してその日は午前で終わって部活もなくて、もうみょうじの「おはよう!」とか「読書感想文の図書なににしたー?」とかそういう他愛もない話どころか学生として事務的にこなすべきであろうコミュニケーションは愚か挨拶すらまともに出来ないというか、こうぎこちなくなってしまうと言うかそもそもなんでみょうじはそんな普通に俺に話しかけれんの?って疑問もおかしいんだろうがよ!!別にそうだよな!!俺がただみょうじに一方的な好意を抱いててそれなのにグループナンパに駅まで繰り出してなんか緊張で到底公共の場とは思えないような発言をぶちかまし面目を丸つぶしのぐちゃぐちゃのめっこめこにしたあげくえ?なにこの集まり?あ〜そこら辺で捕まえてきた女子と即席合コンしてました高校生の分際で?!でお店の方にへこへこ平謝り通すしかない情けない姿を見られちまったって俺の印象が悪くなるくらいで特にみょうじが拘泥するようなことは何もないもんな?!ちくしょう!!絶対にみょうじに誤解されてるだろこれ、いや誤解とかそういうのないけど、みょうじが見たままのあれが事実だけどなんか、あの出来事は俺には不本意だったということを知って欲しいというか本当にただの付き合いで参加してたんだということを理解してほし・・・い、って・・・別に、付き合ってる恋人が内緒で合コン行ったとかのシュチュエーションじゃねぇのになんなのこの俺のこの罪悪感と繰り返す謎のフォローは・・・。後ろめたいからです好きな子いるのに合コンとか不埒な事した自分自身が許せないんですみょうじに幻滅されたくないんです、でも俺が合コンしてたからってみょうじは別に幻滅とかしないんじゃねぇの?ってポジティブと同時に、そうだよな別に俺のことなんてどうでもいいもんなってネガティブが混在してて完全に躁鬱状態に悶え苦しんでたらいつの間にか夜だった。

海常青春白書

翌日はいつも通りの朝練があり、目立った問題もなくそれをこなした。あの合コンについて森山は「経験値が上がった」と驚く程のポジティブを見せつけるし、みょうじのことについて訊いても何を根拠に「大丈夫だって、みょうじちゃんなら」とか笑うし。大丈夫なのが大丈夫じゃねぇんだってば・・・。例えば逆の立場だったら多分おれすげぇショックだし、自然にみょうじと喋れなくなると思う。それってつまり俺がみょうじを気にしてるって証拠だろ?って事はだな、逆が成り立たない場合つまりみょうじが俺の合コンについて深く関心を持っていない場合というのは、つまり・・・つまり、つまりそういうことなのか?

部室の鍵を監督に返すため教室に戻る前に職員室によると担任が自分の机で何かこちゃこちゃ作業しているのが見えた。何してんだろ・・・様子を見ていると、ふと顔をあげた担任と目が合い「何してんすか?」と聞いてみれば「笠松は偉いなぁ!進んで先生の手伝いをしてくれるなんて!!偉いなぁ!!」と返された。・・・先生それは称賛ではなく命令です。担任に手招きされるまま近づけば、机にはたくさんのクジがあった。黒い数字と赤い数字が順番に書かれた紙切れを、細かく折りたたむなんて作業をしていたようだ。

「2学期入ったからな、席替えの準備してたんだよ」
「あー、席替え・・・せッき・・・替え?!」

差し出された分の紙切れを折りたたんでいて気がついた、そうか、これ席替えのクジか?!だから黒と赤で男女わけてあんのか!そう、だよな・・・担任の方針によるけどだいたい他のクラスも学期ごとに席替えしてるもんな。席、替え・・・したら・・・みょうじのとなりじゃなくなるんだよな。今ここで俺がこのクジに小細工(つったって何をどうすればいいのかもわかんねぇけど)するか、森山の言う運命か何かでもない限り・・・みょうじと隣の席じゃいられなくなるんだよな・・・しし座って今日星座占い何位だったろ?・・・とか、そもそも見てねぇよ占いとか!!朝練の時間に間に合わねぇし!!ど、うなんだ?みょうじは、俺がとなりじゃなくなったら、どうすんだろう?どうすんだろうっておかしいけど、いや、普通に「あ、席離れちゃったねー笠松くんお達者でー」とか言って平気で席移動しそうだよなあいつ・・・。いや、それが普通だし・・・。俺、は・・・むちゃくちゃ、心底・・・残念なんだけど・・・。席替え・・・、みょうじ。となりが俺じゃなきゃ、きっとコスモスの面だってつけなくっていいんだろうな。ってか、普通につけなくなるよな、たぶん。必要、なくなる、わけだし?そんで新しく隣の席になった奴と「メアド交換しよー!」とか「こんど一緒に鬼ごっこしよー!」とか、言うんだ・・・ろ、うか・・・俺に、じゃなく。あの日、みょうじが握ってくれた自分の手の平を眺める。今ちょうど折りたたんだばかりの小さな紙切れが生命線のくぼみにちょこんと収まっているのを、意を決してぎゅっと握り締めた。




「おっ、遅かったな笠松」
「笠松くんおはよー!お疲れちゃーん」
「職員室でちょっと捕まってた。おはよ」

教室に戻ると、現在俺の席に森山が座ってて、当然その隣にはみょうじが座っていた。さっきまで2人で話し込んでたんだろうな、こいつらスゲェ仲いいし。みょうじはもうすでにコスモスの面してて、そういえばあれ借りたことあるんだよなーと思えばバカみたいに顔が赤くなるのがわかった。森山にもみょうじにも悟られまいとわざと大きな声で「おらどけ、俺の席だ」とかなんとか言いながら森山を小突く。どこまで察してか、こいつ粘着質なにたにた笑いで見上げてきやがって、自分の膝をぽんっと手で叩いたと思えば「お膝座るゥ?」とかぬかしやがった。「ふざけんな要るかッ!」とデコッパチにデコピンくれてやれば、悪乗りしたみょうじが「じゃあこっちにするゥ?」とか森山を真似て膝をぽんぽんと叩いて注意を呼ぶ。こいつは、本当に、何を・・・知ってて、俺が女子ダメだってことちゃんとわかっててやってんのかとか冗談なんだろうがふざけてやってるんだろうが単なる森山のマネのつもりなんだろうがそんな簡単に膝とか出してこいつはッ

「俺が座ったらみょうじ潰れんぞ?」
「きゃー私の将来性に満ちた太ももがっ」
「笠松座らないなら俺が座るよみょうじちゃん!!」
「森山ッてめぇの方が俺よりウェイトあんだろうがッ!!」
「あ、じゃあさー森山くんが床に正座して私がその膝に足乗せればいいんじゃない?」
「何がいいんだよそれ?!森山が自分の席戻ればいいだけだろ?!」
「みょうじちゃんそれいいっ!!正解ッ!!」

マジで森山が床に正座しようとしたところでやっと担任が教室に入ってきた。森山はまた後で(また後でなんなのかは知りたくないが)と言い残して自分の席に戻った。ばいばーいと手を振るみょうじは森山が着席したのを見届けると、くるっと俺を振り返る。「なんだよ」机の中身を時間割の教科に切り替えながら視線だけみょうじに遣る。

「ねぇねぇ、うちのクラスも席替えって今日なのかな?」
「・・・さぁ、どうだろうな」

楽しみか?と訊けない。
残念だな、と言えない。

みんなが教壇についた担任を見つめる。それはあの担任の人徳とか教育のたまものとかではなく、単にみんな「席替えするぞー」の一声を今か今かと待っているんだ。小学生みたいなわくわくの気持ちで席替えを望んでいる奴はいない。みんな授業中に寝ててもバレない席に移りたいとか、教師の目に付きやすい席から逃れたいとか、ケータイいじっててもバレない席に移りたいだけで、きっと誰も俺のような確固たる意志なんて持ってない。・・・みょうじは、どうだ?仲いい女子の近くになりたいとか、あんのか?俺らは一番後ろの席なわけだから、悪い席ではないわけで・・・

「あー、そうだ席替え。席替えね、あんまみんな先生の事を猛禽類の目で見ないでね。今年はうちのクラスすごい仲良いでしょ?成績的にもずば抜けて悪い子いないし、特別指導要るような子もいないし。だからね、席替えね、しないでおこう!!と先生は思います!!みんなは誰がとなりでも仲良くやっていけるでしょ?!たとえ親友と席が離れていても心の距離は0だよね!!先生はみんなの友情、信じてるよ!!それに、せっかく誰がどの席なのか覚えたのに替わっちゃったら覚えなおしだしね。じゃあみんな今日も張り切っていこうね!!はい起立ー」

インディアンの蜂起の様なクラスの大ブーイングの中、起立の号令に従って席を立つ。ちらっとみょうじをみやれば、みょうじの方も俺を見た。フランス革命みたいな騒ぎだ「先生くじ作るの面倒だったんでしょ?!」「ほかのクラスは席替えするのにー?!」「先生もみんなを愛してるよー」みんな思い思いの不満をぶつけるが、担任も本人たちもわかってる。真面目に、うちのクラスは仲がいいから席替えしたところで何がそう変わるわけでもないんだ。だからきっと1限目が始まればみんなぴたっと鳴り止むんだろう。そんな、担任と生徒の漫才の様な騒音の中だったから、その言葉が正しく聞き取れたのかわからない。ただ、嬉しいとか恥ずかしいとか嘘だろ?とか色々頭の中で混ざり合って言葉を失う。とにかくやっとのことで返せた「・・・ああ」は、みょうじと俺の初めての会話(と呼んでいいのか怪しいほど拙かったけど)を思い出させた。「笠松くんと隣のままだね、よかった」俺の聞き間違いじゃないよな?
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