13.融解必至三分間
笠松くんの顔を…直視できない…。だって、絶対に「なんて無神経なヤツだ…」って私に呆れてるし…一瞬見た笠松くんの顔が、すごく…ものすごく泣き腫らした顔してて…目はまだ潤んでてまぶたはちょっと腫れてて、涙が通った後がこすって真っ赤になってるし…なんといっても気だるそうで…!!そんな、こんな風に思うの!!とっても、その…不謹慎なんだけど…!!なんか、い…色っぽいって、いうか…か、かっこよくて…かっこよすぎで…!!ドキドキして顔をしっかり見れなかった…!!ああ!!ごめんね笠松くん!!本当に私はとんだ迷惑な同級生だよね?!だって笠松くんのこと邪魔しておいて、なのに笠松くんかっこいいなぁわー!!ってなってるなんて失礼にも程があるッ!!私なんてバルタン星人にどうにかされてしまえッッ!!

「…あー、えっと…まぁ、入れよ」
「あ、えっと…あぁ…うん、失礼します」

プールに置いてあるみたいな長方形が並んだ長いすに隣り合って座る。座ったって、笠松くんが特に何かしゃべってくれるわけでもなくって、さっきから思い出したように首からさげた大きなタオルで顔を拭いては「はぁー」ってため息をつくばっかりだ。何もしゃべる権利を持たない私は、とりあえず隣には座ったけど口は開けずにまっすぐロッカーの方を見ていて…それでも、ロッカーの前の床に、涙のてんてんがたくさんこぼれて居るのを見つけると、どうにも居心地が悪くて仕様が無いので、高い位置の窓とか、たまに笠松くんの事をちらちら見てたりした。…笠松くん、私のこと邪魔じゃないだろうか…?ここは、ジュースを渡しに来ただけなんだッ!お疲れ様っ!!夏休み明けにまた学校でねッ☆ミ…みたいにさっさと消えてしまったほうがお互いのためなんじゃないだろうか私…

「か、笠松くん…」
「あのさ、ちょっと話きいてもらっていい?」

両手で顔を隠して、小さく「三分だけでいいから」って続ける笠松くん。ぎゅうっと体中が緊張した。一瞬声が出なくて「うん」って言えなくって、それでも頷いて…だけど、笠松くんは私の事見てないから気がついたかどうか分からない…。コスモスの中で顔がどんどん熱くなる…。

「今年はさ、どうしても優勝したかったんだ…ってか、優勝しなきゃならなかった…」

小さな声で、じっと耳を澄ませてなきゃ聴こえないようなか細い声…笠松くんって、こんな声も出すんだ…。意外だ…。笠松くんがこっちを見ないから、なんだか私の方でも笠松くんの方を見づらくって、笠松くんの靴ばっかり見てた。大きい足だなァ…大人の人の足みたいだ…

「みょうじは転校してきたばかりだから、知らないだろうけど…去年、海常のバスケ部ってすげぇいいメンバーで、IH優勝だって狙える強いチームだったんだ。でも、俺のミスで初戦敗退…先輩達に悪くって、卒業生からも散々叩かれて…部活、辞めようとまで思ったんだけど…監督は俺にキャプテンやれって言ってきてさ…むちゃくちゃだよなァ」

フンって鼻から息が抜けるような笑い方をする笠松くん…。単純に笑っただけなのかも知れないけど、なにか…自嘲的って言うか…ちょっと、悲しくなるような笑い方だ…

「でも、それで決めたんだ…絶対に今年はIHで優勝するって…、それで去年のミスが帳消しになるわけじゃねぇけど、それでも俺はけじめとして…キャプテンやっていく覚悟として…IH優勝って目標に存在意義を見出した…。…暑苦しい、とか思われっかな?」

今度はちゃんと、それでも珍しく…ニコッと笑ってこっちを向いてくれた。だから私は、全然そんな…暑苦しいだなんて思わないし、むしろそういう事しっかり考えてがんばれるのって素敵だし、かっこいいし、一生懸命な笠松くんはすごく魅力的だし…なんか、言葉を並べようとすればするほどこんがらがって、余計に笠松くんに考えさせてしまいそうで…でも、自分の意思を伝えるために首を振った。

「部員には、そうやって…なんかかっこいいこと言って、見栄張って…がむしゃらにやってきた…けど、本当はすげぇ怖くて…俺なんかにキャプテンなんて務まるわけがねぇっていつも不安だった…」

ちょっとだけ、笠松くんの体が小さくなったように感じる…小さい子が、叱られるときに萎縮して体をちぢこめちゃうような…そんな風に、寂しそうで…つらそうな笠松くんを見るのは初めてだ…

「それでも、俺が不安に思ってるだなんて…チームメイトに見せられねぇし…見せたいとも思わねぇ…。信じてないとかじゃねぇんだけど…心配させたくない…とも、なんか違って…、俺が不安がってるからって、だからって…他の奴らまで巻き込みたくなかった…いつも最善を尽くしてくれてるメンバーにそれ以上を求めようとか思えなくて…背負わせれなくて…だからって、1人じゃ不安で…ずっと、我慢してきた…部員じゃない奴らにだって、言えなくって…それは、単に…弱いとことか…見せたくないって、ガキみたいな勝手なんだけど…」

ぽろっと涙を零す笠松くんは、ほっぺたも鼻も真っ赤で、それでもぎゅうっと眉間を寄せて一生懸命に鼻水だけはたらさない様にがんばってて…すごく弱ってるみたいで…がんばって築いてた威厳…みたいなのが涙と一緒にぼろぼろこぼれていくのが分かって…こ、こんなのって…やっぱり…すごく、失礼で…不謹慎で…怒られる、べきなんだけど…笠松くん、今…とっても…可愛くって…!!私まで体が震えてきてしまう…、ああ…私…やっぱり好きなんだ、笠松くんの事…。かっこよくて、面白くって、でもたまに暴力で…それでもバスケしてる時はびっくりしちゃうくらい迫力があって怖くって、でもやっぱりかっこよくて…それで、それだけじゃなくって…こんなにも可愛くって…!!体が、ドキドキするのにあわせて震える…ど、どうし、よう…?!抱きしめたい…!!だなんて、変態だッわたしそんなことしたらただのスケベだよっだめだよっ!!そもそも笠松くんは女の子苦手なんだから…そんな事したら…もしかしたら…嫌われちゃう、かも…な、わけで…

「…あぁ…、なんか、悪ぃな…こんな話…。…なんてか、みょうじなら…話せるかもって思ってさ…」
「かっ、笠松くんっ!!」

無防備に、膝の上に置かれていた笠松くんの大きな手を…奪い取るみたいに強引に、ぎゅうっと握ってみる。それだけでも、体に電気が走るみたいにぎゅぎゅぎゅっと痺れた…。あったかい、大きくて…たくましい手だ…。反射的にぎゅって握り返されるだなんて、ドラマみたいな事起きなくって笠松くんの手は驚きに、指先まで定規みたいにぴーんと伸びてた。

「なッ?!…えっみょうじっ?!あ、あの…?!」
「か、かえろう!!笠松くん!!あ、あと!メアド教えてくださいっ!!」
「…このタイミングでかッ?!ぶっ、はっはっはははは!!」
「笑ってないでっ早く支度してっ!!」

泣き腫らした顔で、大きな声で笑う笠松くんの笑顔はウルトラマンのスペシウム光線だって顔負けの大変な威力を持っててそのまま心臓が破壊されちゃいそうだった。コスモスのお面を片手でいじりながら心底思う。笠松くんとだと、三分間じゃあ足らないよ…
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