11.受動的四十分間
お…うわぁ…、ば、バスケの大会って…こ、こんな、こんな…なんだ?お祭り…?お祭りみたいな感じなのか?!これが普通か?!すごいよだってテントとかいっぱい出てる…!!ほとんどジュースだけど…!!ってか人もすごい…!!駅から歩いてきたけど、ポンコツケータイのナビ機能だけじゃ心配だなー大丈夫かなーって思ってたけど、なんか人の波が途絶えない…!!案の定くっついて来たら会場に無事に着いてしまった…!!あ、海常の試合会場ってギャグだっ!!

お呼ばれした身だから、笠松くんや森山くん、他の部活の子たちに少しでも何かできないかと思ってスポーツドリンクの差し入れを持ってきたんだけどコレ重たいっ!!腕ちぎれるっ!!なんかもっと菓子パンとか軽いものにしとけばよかった!!そして差し入れ渡そうと思って早めに会場に来たつもりだけど、もうほとんど席が埋まってて笠松くん達探してる余裕なんて無い…!!さっき森山くんに『着いたぜ☆やっほい\(^O^)/』見たいなメール送ったけど『どこに居るか』は訊かなかった私ばかっ!!たぶん控え室的な裏っ側があるんだろうけど、私1人じゃ入っていっちゃ行けないだろうし…そもそもどこにあるかも分からないし…と、とりあえずは観戦席を確保しなければ…!!予約席とかがあるわけじゃないんだから…!!ってか…暑いなァ…人の熱気でもう既に汗が…、笠松くん達、こんな中でバスケするのか…す、ごいなァ…あ、うちわ持ってる人が居る!!いいなー…私もうちわとか持ってこればよかった…!!それに『笠松』とか『森山』『海常』って書いてキラキラつけて持ってこればすごい応援になったのでは?!…ってこんなに広くちゃ見えないか…残念…

どこか見やすい場所は無いものか…、て思うんだけどイマイチどこがいい席なのか分からない…真ん中の方が見やすいのは、当然だよね…でも、ゴールはふちっこだし…、でも、笠松くんってどっちのゴールにゴールを入れるんだろう?あれ?それって時間で交代になるんだっけ?それともずっと片方のゴールなんだっけ?あーダメだ!!昨日一応バスケのルール勉強してきたけど、なんか3歩歩いちゃダメーとか何回もドリブルしちゃダメーとか小学生みたいな事しか見てこなかったー!!あーどうしよう?!こんな所で突っ立って立ってしょうがない…!!

「あ、あのーすみませんお隣よろしいですか?」
「構いませんよ、あ…その制服って、海常の?」
「はいっ!今日は応援に参上した次第でっ!!席が見つからなくって困ってて…」
「お1人で?私も今日は1人で…よかったです、お仲間が居て」

うわー!綺麗な子だなー!!結局歩きに歩いて西側の一番はじまで来ちゃった…でも、前から三列目で結構観やすいところだ!!よかった!!うーん、それにしても美人な人だなァ!!きっとみんな美人さんに遠慮して隣に座れなかったんだなー!!いやぁそれにしても綺麗な人だなァ!!って、あ…なんか人が…コートに人が出てきたっ!!え、もう始まるの?!始まるのか?!なんか、こう…選手紹介ーどんどんパフパフー!!見たいなのはないのか?!もう本番?!かと思って焦ったけど、なんかまだ練習みたい…よ、よかった…だけど、スポーツドリンク渡せなかったな…。足元にはスポーツドリンクがたくさん入ったビニール袋と、カバンにはコスモスのお面と財布と鏡と化粧品と色々…会場の雰囲気からして…首にぶら下げたブブゼラの役目は来そうに無いなァ…

「あ、よかったら…これ、スポーツドリンクでよかったら召し上がってください。余らせちゃって」
「いいんですか?じゃあ、ありがとうございます」

うーわー笑った顔も可愛いなー!!スポーツドリンクを渡すと、こんな汗が吹き出るような熱気に満ちた会場の中で、この人の周りだけが爽やか高原物語見たいにきらきらしてさらっとしてて素敵だ…。なんだか恥ずかしくなってコートに視線を移すと『海常』って書かれたユニフォームが見えた。お、あ…!!笠松くんは居るんだろうか?!ちょっとお尻あげて覗き込んでみたけど…なかなか…顔が分かりづらい…、うーんと、笠松くんって4番のユニフォームなんだよね…うーん、あ?あれか?んー?双眼鏡とか持ってこればよかったな…あ、でもアレだなっあれっぽい!!おー、なんかそう思うと、すごい凛々しい面立ちに見えてきたなァ…

「彼氏ですか?」
「ぶっふぁッ!!」
「ご、ごめんなさいッ!違いましたか?」
「違います違います!!ちょ、驚いたー!!まっさかー!!」

でも一生懸命だれかを探してるように見えたんで…そう言って笑われてしまった…。いや、探してたけど…彼氏じゃなくっても探すでしょうに!!うーわー驚いたっ!!すごいむせてまわりの人が驚いてるよ参ったー!!

「海常の生徒さんなんですよね?だから、もしかして彼氏の応援なのかな?って…」
「いいえー!!友達の応援です、海常の笠松くんってキャプテンの人と森山くんって人のクラスメイトで」
「黄瀬くんは?」
「…え?は…えっと、キセくん?」
「はい、黄瀬涼太くん…ご存知ですか?海常の7番エースのモデルの黄瀬くん、お知り合いだったりしませんか?!海常の学生さんならおしゃべりした事とか無いですか?!その、もしかしてバスケ部の方と仲がいいならメアドとか!!控え室とか入れたりしませんか?!」
「や、ご…ごめんなさい、ちょっと知らなくって…あー、でも笠松くんなら知ってると…」
「ほら、あの人です!ほらほら今!ダンク決めた、っきゃああああ!!!!!黄瀬くぅううううんんん!!!!レジェンドぉぉおおおおお!!!!!」

…?!な、なんか…すごい人の隣に来てしまったんじゃないだろうか、私ったら…


試合が始まると、隣の黄瀬くんの大ファンである美人さんの熱狂的な歓声も奇声も、まわりの人の歓喜の声も痛嘆の声も…何も感じられなくなった…。バスケって…こんなにすごい、…圧倒的な競技だったっけ…?座ってるのに足が震えた。私も本当は「笠松くんがんばれー!」とかひゃあひゃあ言いながら立ち上がって応援する気満々だったのに、そんな事出来なかった…すごい迫力…難しいことは分からないけど、ボールがあっちからこっちに行ったりするだけでドキドキして、ピタッと時が止まったみたいに空気が痛くなったり、と思ったら火がついたみたいにコートの上がむちゃくちゃに騒がしくなって目で追うのがやっとって感じになる…正直、見てるだけでも疲れる…。隣の美人さんが黄瀬くんの応援をしながらほとんど放心状態の私の手を握ってわいわいしてる…黄瀬くんはもちろん、すごい…なんか、もうプロ(は日本には居ないんだっけ?)見たいで…ああいう動きがバスケットやってる人たちにとってどれほど凄いものなのかも分からないけど、とにかくすごい…でも、笠松くんも…すごい…気迫が…必死なのが、すごく伝わってきて、怖かった…。

海常がタイムアウト(作戦会議かな?)をとって、いったんみんなが席に戻った頃に、やっとちゃんと息ができた気がした…。な、なんか…笠松くん、全然いつもと違った…す、ごい…キラキラしてる、っていうかは、ギラギラしてて…こ、わい…けど…怖いからじゃない、ドキドキするのが止まらないのがすごくよく分かった。心臓の辺りを触ってみると、今までないくらいにドキドキいってる。壊れちゃいそうなくらいに…。こ、これは…えっと…マジですか…

「かっこよかったですねー!!黄瀬くんっ本当にああもう!!絶対に勝って欲しいっ!!」
「勝って…欲しい、ですねッ!!同点なら、このまま勝てるかもっ!!」
「あーヤバイですね!!黄瀬くんっかっこよすぎて…!!あ、でもキャプテンの人もすごいですよねっ!!なんだか、チームの支えになってるって言うか、貫禄ありますよね!!」
「え…ああ、そうですね」

そうですね、とか言っておいて…全然そんな風に思えなかった。私の知ってる笠松くんって、なんかもっと…情け無いって言うか…。女の子とまともにお話できないし、授業中ぼうっとして先生に怒られたりするし…昨日だって思いっきり尻餅ついてたし、結構すぐ拗ねるし…。でも、笠松くんって…それだけじゃなかったんだなぁ…私、笠松くんと仲良くなった気でいたけど、まだまだ全然笠松くんのこと知らなかったんだな…


咄嗟に立ち上がってしまった。お尻を鞭で叩かれた動物みたいに。握ってた美人さんの手もはなして。声も出なかった。階段から落ちそうになった時の、氷の塊が背中を伝っていくような気味の悪い感覚が、まだ続いてた…

ピーっと鋭い笛が鳴って、審判の人が叫んだ…『チャージング、黒5番』どういう意味かは分からないけど、笠松くんが押し飛ばされた。笠松くんよりもずっと大きな相手チームの子にぶつかって、床に叩きつけられた…。私が痛いわけじゃないのに…体が震えて仕方なかった…。手を引いてもらって立ち上がった笠松くんは平気そうだったけど、これから試合の中であんなのがもう1回でも起こるなら…もう、観てたく無かった…。怖かった…心臓が弾けて、そのショックで涙が出た…。

隣の美人さんが背中に手を添えて座らせてくれる。私よりもずっとバスケに詳しいんだろう彼女が「さっきのキャプテンさんのプレイは本当にすごいナイスプレイでしたよ、あれで桐皇の5番の子はファウルもらってます!」って慰めてくれた。…笠松くんが、私の事見てるわけじゃないのに…両手で顔を隠してしまう。…笠松くんが平気そうなら良かったーとかじゃないんだ、笠松くんがどんな気持ちでこの試合をしてるのかとか、私には分からないけど…さっきの笠松くんの行動が勇敢だとかかっこいいだとかナイスプレイだとかだなんて…どうしても私にはそんな風に思えなかった。

長い休憩に入ると、隣の美人さんはもしかしたら黄瀬くんに会えるかもしれないからって外に出て行ってしまった。私は…ケータイを取り出して、森山くん宛てに新規メールの作成画面を出したまま…何も見てなかった。…笠松くん…。今はどうしても、ユニフォームを着てコートに立ってる笠松くんじゃなくって、制服を崩してブランコからずっこけちゃうような笠松くんに会いたかった…。心じゃ、そんな風に考えてるくせに…頭の中では、ゴールを決めてチームメイトと喜び合って汗をかいて走り回ってる…そんな笠松でいっぱいになってた。うう、笠松くん…笠松くん!!ずっと心臓がぎゅうってなるのが止まらなかった。

後半が始まっても、私はほとんどボールの行方を目で追うのがやっとで…もう訳がわからないうちに、ブチっと切り取られちゃうみたいに無情に、試合は終わってしまった。隣で美人さんが泣いてて、みんなが拍手をしてて、笠松くんたちがコートを出て行った。何か分からない感情に体が震えて、衝動的に荷物を引っつかんで私は走り出した。
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