スコプトフィリア
常伏高校の安田貢広に頼むとどんな種類どんな女優さんどんな内容どれだけ細やかな設定を申し付けられようとどんな要望にも応えられるまるでオーダーメイドのような依頼した人のためだけにその行為が収録されたような完璧なアダルトビデオを探し出してきてくれる。

そういう話が学年だけではなく、学校中へたすれば他校にだって流れていた。どうせ安田くんが近しい友達とそういういかがわしいDVDの貸し借りをして居る間、安田くんのその在庫量ったらないんだよすごいんだよレンタルビデオ屋かよYASUDA?ぎゃははははって腐ったみかんの段ボール箱の中で生まれた下品な話に汚い尾ひれとフンがひっついて流れた噂なんだろう。僕はそう思っていた。

僕だって年頃の男子だ。どれだけ顔が可愛いだとか女の子みたいだと言われ様と僕の陰毛は真っ黒でごわごわだし、ペニスは扱けば勃起してグロテスクな筋が浮き上がり精液を放出して布団やらパンツやらを汚したりする。同級のまだそういう経験の無い女子には想像もつかないような酷いにおいがするんだ。鏡に映った自分からはまさかこんなものが出てくるだなんて自分でもちょっと信じられないけど、そのくらい僕だって男の子で年頃で平均的な頻度でマスターベーションだってする。女性の性器が丸見えな雑誌だって2冊持ってるし友達と一緒にSM物のアダルトビデオだってみたことある。

それなのにみんな僕はそう言う事に、つまりはマスターベーションだとかセックスへの渇望だとか女子のパンツの中に手を突っ込んでむちゃくちゃにいじくりまわして末には自分のペニスを突っ込んで膣内で射精してやりたいだとか言う高校生男子の所以たる性欲に対し淡白であるだとか勘違いしている節がある。そんな事無い。僕はきっと彼らと同じくらいのペースでマスターベーションをして居るし、それなりに女子の性器について考えたことだってある。ただ、それを学校や友人関係にあまり持ち込まないだけの話であって、自分の部屋では普通の男子なんだ。みんなが見境無さ過ぎるんだよ。

「アシタバはなんかねぇの?」

なんでか放課後に教室で居合わせてしまった安田くんと僕。僕はただ忘れ物をとりに来ただけだったのに、見慣れた教室では夕日に染まった空間で安田くんが自分の席で机に足を乗っけてさらにはイスを後ろ向きに倒れそうで倒れない位置まで背中で揺らし絶妙なバランスを保った格好で高校生には似つかわしくない額のお金の勘定をしていた。僕のほうをちらっと見るといやらしい口を更にへし曲げておかしな笑い方をした。よう、って言ってまたお金の勘定を続ける。

「なんかってなに?」

さっさと帰ってしまえばよかったんだけど、僕は机の中に忘れてしまったはずのケータイがどうしても見つからなくてずっとがさがさと教科書やらプリントやらが詰まった先にあるはずのケータイを求めて引き出しの中をさぐっていた。安田くんは僕のほうを見ることも無くまた口を開く。ぺしっぺしっとお金を数える音がした。

「AV、なんか要望ねぇの?」

中学からの付き合いだし、安くしてやるよ。そう言った安田くんの声は僕よりもずっとずっと大人っぽい声に聞えた。アダルトビデオに、何を求めろって言うんだ。それはただ、誰だっていい。男女(あるいは女性同士)が特に雰囲気も無い空間で大げさなリアクションをとりながら性器をこすりつけあって居るだけでいいんだ。どんなシチュエーションだろうと僕には対して意味なんて無いんだ。ただ、最後のシーンで恍惚とした表情の女性の顔に男性の精液をたっぷり掛けてフェードアウトしていく簡素な終わり方が僕は好きだった。

「要望なんてないよ、市販ので十分」
「お、言うなァ」

そこで安田くんはお金の勘定をやめてイスの上で回転していまだケータイを探し続けている僕のほうに振り返った。やっぱりいやらしい笑い方をしてる。嫌いだなこの顔。

「アシタバ、みょうじの事好きなんだろ?」
「…好きじゃないよ」

正直、みょうじって名前が出て心臓が跳ね上がる想いだった。嫌なにおいのする汗が肌を刺すようにぷつぷつと湧き出てきて口の中が乾いた。みょうじは同じクラスの女子だ。僕が彼女の事が好きだというのは事実で、2日に1回くらいのペースで雑誌に映った誰か知らない女性の性器をみょうじの物と見立てて写真を撫でたり舐めてみたりしながらマスターベーションをして居る。見たことも無いみょうじの性器は僕の妄想の中で柔らかく濡れそぼってあたたかく僕のペニスを受け入れた。愛を囁いたりお互いの存在を確かめ合うための行為ではない。それはただ僕からの一方的な好意が乱暴なペニスと化してみょうじの性器に突き立てられ、若すぎる律動と計画性の無いアホで稚拙な膣内射精が存在して居るだけだった(実際には存在すらしていない)(僕のただの妄想だ)。

「明日、持ってきてやるよ」

もうお前、俺に注文するしかなくなるぜ?そう言ってのどの奥でくつくつ笑う安田くん。本当に可笑しくて可笑しくて仕方ないって感じに肩まで揺らして笑っている。本当は何か言おうと思ったんだけど、要らないよとか持ってこなくていいよとか言おうと思ったんだけど、なんでか喉の奥が乾いて何かが引っかかっちゃったみたいにからからして声が出なかった。なんだかそれが情けなくってぎゅうっとズボンを手で掴んでいると、そんな僕を見た安田くんがもっともっと可笑しそうに笑った。まるでマンガとかに出てくる悪魔とか死神みたいないやらしい目で笑う安田くんはじゃあなって手を振って教室から出て行ってしまった。

そのあともちゃんとケータイを机の中に探してみたけど見つからなかった。はじめからポケットに入っていた事を忘れていたのだ。


「はいよ」

安田くんとのビデオがどうとかって話をしてからちょうど3日後、安田くんが何のラベルも貼ってないコピー用の真っ白なDVDを渡してきた。僕は受け取らずにじっと安田くんの事を睨んでいた。僕はあの時要らないって言ったつもりだったから、何でもって来るんだって怒っていた。でもよく思い出せばあの時僕は結局、安田くんに要らないって言ってないんだから怒る道理なんて無いんだ。それでも僕はかたくなに受け取ろうとはしなかった。安田くんはそんな僕にいらだったり怒ったりせず、ずっとニヤニヤしながら僕がDVDを受け取るのを待っていた。

「初回、無料だし」



結局、受け取ってしまった。学校でそういういやらしいDVDを持って居ると思うととってもいけないことをして居る気持ちになってとっても後ろめたい気持ちになってとっても緊張した。授業に集中しているつもりでも全然、意識はカバンの中でじっとレコーダーに自身が挿入されるのを待っている名無しのDVDに囚われてしまっている。嫌な汗が吹き出てくる。授業中にとったノートは黒板に書かれたそれを完璧にうつしてはいたけど、読み返しても授業の一遍も思い出せなかった。

急いで家に帰って自分の部屋に閉じこもっても、服を着替えてもケータイをいじっても飲み物を飲んでも何をしても落ち着かなかった。まだカバンから出さずに居るDVD。そこには何がうつされて居るんだろう…?興味が無いわけではない。むしろ観てみたい気持ちでいっぱいで、どんな行為が収まっているのかなんて考え始めている僕の股間は若干固くなり始めていた。でも、安田くんに渡されたDVDなんて、どうしても見たいと思わなかった。だからこそ、それへの関心は増していく一方で僕は八方塞の万事休す状態で、仕方なく寝る準備を済ませたところでDVDレコーダーを起動させた。

普通のアダルトビデオよりもなんでかずっと音量が小さい。変なノイズも多くて、テレビ画面に映し出されたどこかの校舎の教室の風景はざらざらと斜めに動いたりずれたりを繰り返してから、ようやく納得の行くアングルに収まった。画面は黒板の少し下を移していてまだ無人だった。そのうちに、一人の女性が学生服と言うアダルトビデオの類としては定番過ぎ、そして実際問題変態的過ぎる服装でゆっくりと申し訳なさそうに画面上に入り込んできた。

瞬間、僕は首を絞められたかのような恐ろしい衝撃を覚えた。熱い目玉がふたつ、僕の顔面からごろりと脳みそに押し出されて零れ落ちるのではないかと心配になるほど、体の内側から色んな感情が僕の事を圧迫した。感情に衝動に押し出される僕の体はもちろん、まだ脱いでいないズボンを押し上げるように息苦しそうにペニスも勃起を始めていた。

みょうじおなまえに見えた。

画面上で自分のスカートの中に華奢な手を忍び込ませて引けそうになってしまう腰を我慢してカメラにそこが映るように健気なポーズをとる女性が、眉間の皺から髪の毛の先、すこしだけよだれが滲み始めた口の端から下着から少しだけ飛び出した黒い陰毛が…みょうじおなまえのもののように感じた。イヤホンの奥のほうでぎゅっと握り締められるような苦痛に耐えるような、喘ぎ声にはまだちょっと遠い切ない声が小さく不定期に漏れ聞える。ぼそぼそと男の声のようなものが聞えて、どうやらそれはみょうじおなまえらしき女優に何かの指示をして居るようだった。それを聞いたみょうじおなまえのような女優はすこしだけカメラを睨んだ。すると、なぜか聞き覚えの有るくつくつといういやらしい笑い声が、聞えたような、気がした。

自身で乳房を露出させわざと大げさに揉んで見せるみょうじおなまえのような女優。カメラ側から投げ渡された淫猥過ぎる色をしたグロテスクな形容のバイブレータを銜え込んだみょうじおなまえのような女優の陰部がこっちに向けられて、若すぎる肉を引き裂かん勢いで乱暴で無慈悲な振動を続けるバイブレータがまるで自分のペニスであるかのような可笑しな錯覚を起こしてしまうような完璧なカメラアングル。あっあっあっと泣きそうな声を必死に抑えようと必死な割りに漏れる声は快楽の色しかうつしてなくて、僕はズボンを汚した。

まるでみょうじおなまえ本人の痴態を見ているようだった。みょうじおなまえが、僕の知らないみょうじおなまえが、僕が知らないところで僕が知らない人間とセックスをして居るように見えた。あのバイブレータはただのおもちゃではなくって、本当は誰か知らない奴の本当のペニスで、誰か知らない奴のペニスが僕の知らないみょうじおなまえの性器を乱暴に突き立ててかき回してその膣の温かさとかやわらかさとか滑らかさを味わいながらむちゃくちゃになっているんだ。そう思うと、僕はとても離れたところで僕とは無関係な事故とか事件とかを覗き見している卑劣で無神経な野次馬のようだった。それでも僕はそれが心地よくて、気持ちが良くて、たまらなくて、そのDVD(42分)を見終えるまでに2回まともな射精をして、最後にいっそ画面のみょうじおなまえのような女優の顔面に僕の精液をかけることは出来ないだろうかと思い立ち上がって部屋を汚しながら短い射精を済ませた。

DVDのみょうじおなまえのような女優は一滴だって精液を浴びる事は無かった。それはみょうじおなまえのような女優の一人遊びのDVDだったから。



「安田くん」

次の日すぐに安田くんにそのDVDを返した。安田くんはめずらしくみょうじと一緒におしゃべりしてて(みょうじは全然楽しそうじゃないのに安田くんだけはうんと楽しそうに笑ってた)なんとなく声を掛けづらかったんだけど、もう1秒も長くこのDVDを持っていたくなかった僕はみょうじになんだか後ろめたい気持ちを感じながらあのDVDを安田くんに渡した。すると安田くんは1日でいいのかよって笑ってみょうじは何処かに行ってしまった。

「ねぇ、このビデオってさ…」

疑問だった。おかしかった。あんなにそっくりな人間って世の中にそう簡単に存在するものだろうか?いろいろな疑問があった。その疑問は僕を憤慨させ混乱させそして興奮させた。安田くんは僕を見て、とうとう鼻息が漏れるだけの小ばかにしたような笑い方をした。

「企業秘密だぜ?」

初回は無料…。悲しいかな僕の下半身は安田くんの行ったとおり2度目のリクエストを心待ちにするかのように熱を帯びていた。


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