デコとボコ
「俺さ、おなまえちゃんに言いたいことがあるんだよね」
「ん、何?あ、今日の夕ご飯なら貢広くんの好きなもんじゃだよ!ビールも冷やしてあるよ!」
「え?!ほんとッマジで?!やったー!!」
「へへへ!喜んでもらえると嬉しいなッ!あ、ご飯の前にお風呂済ませちゃう?もう実は沸いてるんだ!」
「え、そうなの?じゃあそうしようかな…」
「うん!その間に私はプレートとかの準備しちゃうからッ」
「いや〜本当におなまえちゃんは良く気の利く…っじゃねェエエエエ!!!」
「え…お風呂はご飯の後が良かった?」
「え、あ…いや…そうじゃなくてね?…って違ぇぇぇえええ!!!」
「なら、よかった!」

2

俺の恋人、みょうじおなまえちゃん。大学在学中に同棲はじめたんだけど…なんていうか…おなまえちゃん…いろいろ出来すぎ。マジで。何?今の?夕飯の前に風呂入れて、しかも風呂も既に沸いてて、風呂出たらすぐに冷えたビールと夕飯(好物)と彼女が待ってるって何?天国?なにその幸せいっそうの事怖いわ。怖いわ…!!だがしかし大好きなんだよッ!!

今朝、ベッドで寝てると(同棲はしてるけど寝具は別、今のところはね)鼻をくすぐる、なんだか香ばしい匂いがしてきて、自然と目が覚めた。いや、けっこう頻繁にあることなんだけどさ。おなまえちゃんが朝食作ってる匂いで起きんの。で、パジャマのままリビング行くと、もう服もちゃんと着替えて髪の毛もしっかりさらさらになってるおなまえちゃんが「おはよう」ってあっつーいコーヒー淹れてくれるわけだよ。そうやって、俺の爽やかな一日が始まるわけだけどさ。飯も美味いし、雰囲気もいいし、おなまえちゃんはニコニコしてて本当に毎日素敵な日々を送って居るわけなんだけど…!!

あれ?俺、これ…ちょっと幸せすぎるんじゃね?…そうやって、たまに怖くなるんだよね…なんてぇの?マリッジブルーの青に近い青さがさ、俺にはあるよね?

「それじゃあみょうじさん、安田の『お母さん』になっちゃうんじゃない?」
「は?いや、おれ母さんとセックスしねぇし」

本好に言われた一言。聞いた時はあんまり深く考えなかったけど、よく考えると…ちょっと危ないよな…。俺、いまいちなんでおなまえちゃんが俺にこんなに尽くしてくれるのか…理解できねぇし、自分で認めたくないけど、そんな女の子がZOKKON☆LOVE!!になっちゃうほど格好良くもなければ、性格もいいほうじゃない。事実、昔…おなまえちゃんと付き合い始めたばっかりの頃、は…実はおなまえちゃん意外にも居た…っていうか…体の関係だけでね?!ホント1ヶ月くらいだけね?!居た…し…。おなまえちゃんとそのことでケンカしたし…いや、ケンカって言うか俺が悪いんだから、怒られただけなんだけどね…

いやいや…ちょっと、自分の行いを振り返ってみると、本当に…ね?なんで俺なんかにこんないい子が?って思うモンね。俺別に、おなまえちゃんに、お金とか払ってないよ?!家賃だって半分こだし、生活費も…。なのに、俺の面倒見てくれるし…なんで?

おなまえちゃんに、訊こうと思っても、なんでか訊けない…。正直、もう、恋人って言うよりも本当に、家族みたいな感覚で…。おなまえちゃんに、もしそんな風に言われたら…俺立ち直れないし…「弟みたい」とか、さ…言われたらショックじゃん?でもそんな事態を匂わせるんだよね…最近の俺とおなまえちゃんって…。

だから!!今日は、久しぶりに(って言っちゃってる時点で危機だよな)うんと!うーんっと!!恋人らしいことしようかな?!しよう!!って思い立ったわけです俺。あと、おなまえちゃん、しっかりしてる分甘えベタだから、俺がリードして甘やかして、キュン…!とさせちゃおう!!って企んでます。そしてもちろん夕飯の後はベッドで甘やかすつもりです。

…つってさ、本当はさ…夕飯とかも、おなまえちゃんの負担にならないようにーって外食に誘おうかな?って思ってたのに…夕方の5時にもう夕飯の準備できてるって何?!実家じゃないんだから…。俺の作戦失敗…そして結局…おなまえちゃんに甘えちゃって、風呂まで入ってるし…俺って甲斐性なし…。


ようし!!ならば、夕飯時のシミュレーションをしておこう…!!

「おなまえちゃん、もんじゃなら俺がやるよ」
「え、いいよ!貢広くんはおつまみとか食べてて待ってて!」
「いやいや、俺だっておなまえちゃんのお手伝いしたいんだ」
「えへへ…ありがとう、でも本当にいいよ。私がやるから」

お、なんか自然。簡単にやらせてくれそうに無いのが(なんかこの言い方いやらしいな…)おなまえちゃんッぽいぞ?そこでいつも食い下がっちゃう俺ですが…!!今日はね!おなまえちゃんを甘やかしてあげようってアレだからね!!そこで、コテ奪い取っちゃうっていうか、ボウルごと奪っちゃう?感じで?強引に?

「俺、いつもおなまえちゃんにやらせてばっかりだろ?それじゃあ、心苦しくてさ」
「貢広くん…そんなに私の事想ってくれてたの…?」
「当たり前だろ?大事な大好きな彼女なんだから…」
「貢広くん…」
「おなまえ…」



ちょっとストップ。ちょっとそれは超展開すぎじゃね?メシ喰う前にベッドインって俺どんだけがっついてんの?それ甘やかされてんの確実に俺じゃね?違うじゃん!もっと優しくゆっくり…!!あ、いや…そういうのじゃないけど…うん…

良い加減の温度の湯の中でゆらゆら揺れる俺のちんこ。じっと見てると、なんだか自分の体の一部って感じがしなくなってきた。俺と、ちんこがたまたま同じ空間に居合わせたような…よう、久しぶり!みたいな…?まぁ、とにかく…いろいろ自分の不甲斐なさとか、それに不釣合いなまでに良く出来たおなまえちゃんの事とか、俺の悲しいまでの性欲とかにコテンパンに参ってしまった俺は、とうとう自分のちんこに話しかけた。

「どうすればおなまえちゃんに頼らずにやってけるのかな…?」

もちろん、返事は無い。いや、むしろ返事したらビビるし…

「おなまえちゃん、いつか俺に飽きちゃったりするのかなァ…」

俺はおなまえちゃんに、何もしてやれない。そのくせ、甘えてばっかりだし…。おなまえちゃんに「貢広くんの事もう好きじゃないからサヨナラ」って言われても、なんの疑問もわかないし、止める口実…止められる自信もない…。…せめて俺のちんこがロシア人並みにデカければ、おなまえちゃんもそれを理由にお別れは考え直してくれるかもしれない…。

「…はぁ、なんか言ってくれよ…聞いてんのか?おい」
「…ご、ごめん」
「?!」

一人だったはず、おなまえちゃんはリビングで夕飯の準備をしてるはず…なのに…

「さっき貢広くん、何か言いかけたみたいだったから…なんだったか訊こうと思って…」

ちょっとだけ、泣きそうな顔をしたおなまえちゃんが、服を着たまま浴室に入ってきた。完全に無防備だった俺は、文字通り言葉を失って、バカみたいにおなまえちゃんに見入ってしまった。まさか、さっきの独り言も…いや、俺的にはちんこに話しかけていたわけだけど…

「貢広くん…さっき言いたかったことって、それ?」

浴室に響くおなまえちゃんの声はすこし震えてて、消え入りそうなくらい小さなものだった。お腹の前できゅうっと自分の手を結んで、何かに耐えて居るような表情。

「わたし…貢広くんに、なんか…不安にさせるようなこと…した?それとも…貢広くん、もう私の事…」

あ、やばい。全然はなしがこじれてる。おなまえちゃん、話の全貌を知らないから、俺の独り言をおかしな方向に捉えちゃってる…。

「あ、いや…!!違くて…!!」

ざばっと浴槽から上がる。あああ、こんな風にするつもり無かった…。弁解しなきゃ、さっきの独り言の誤解を解かなきゃ…考えれば考えるほど言葉が詰まる。おなまえちゃんは、とうとう鼻を鳴らし始めてしまった。

「あ…の、おなまえちゃん」
「私に、至らないところが、あるんなら…気をつける、から」
「え?」
「だから、嫌いに…ならないで…」
「いや…!全然、嫌いになんてならねぇし!!というか、むしろ、俺の心配は…言いたかったことって言うのは、逆でして…」

俺は何にも出来ないし、バカでエロくて、バカで…どうしようもないのに、何でも出来て、優しくて可愛いおなまえちゃんとつりあってないんじゃないだろうか?いつか、おなまえちゃんに飽きられてしまうんじゃないだろうか?そんなことが心配で…これからは、もっとおなまえちゃんに釣り合う人間になりたい…見たいな事を、おなまえちゃんに伝えると、おなまえちゃんは間抜けな顔をして、笑った。

おなまえちゃん、付き合い始めた頃の浮気が、未だに心配だったらしい…。だから、何をしようにも俺優先、絶対に嫌われないようにしたかったそうで…い、いやあ…俺って罪な男だなァ…。

とりあえず、誤解を解いて飯を食おうってなって、リビングにつくと、おなまえちゃんはいきなり、服を脱いで俺をベッドに押し倒してきた。え、ええ?!

「よく出来て、良い子な私が…嫌なんだよね?」
「え、あ…嫌、とかじゃなくて…!!」

安堵からの余裕なのか、おなまえちゃんはいやらしく笑って、俺が腰に巻いていたタオルを剥ぎ取ってしまう。いやん…!!

「貢広くん、ご飯は後ね?私いますぐにえっちしたくなっちゃったから」
「え?!なにそれ?!どういうお仕置き?!ってかご褒美?!」
「うるさい、だまって私の身体に触りなさい」
「え?!」

緊張と興奮で、体ががちがちに固まって、変な汗が流れた。おなまえちゃんに押し倒されるなんて、初めてだし…というか、上に乗っかられるのだって、初めてで…なんか初めての女の子の心境だ。じとっと意地悪な顔をしていたおなまえちゃんが、ゆっくり顔に近づいてきて…あ、キス…って思うと、何が怖いのか、目を瞑ってしまう…なんだこれ?

「貢広くん」

予想していたキスは無くて、超至近距離でおなまえちゃんが話しかけてくる。

「私だって、無鉄砲でエッチなところあるんだよ?…嫌われちゃうの嫌だから、貢広くんには黙ってただけ…。こんな私いや?」
「…?!ぜッぜんぜん嫌なんかじゃなッ」

最後の言葉は、初めての彼女からのキスでふさがれてしまった。


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