オンリー・ユー!!
せっかくの夏休み。天気がよければ課題の事なんて忘れて、大好きな人とわくわく外に出かけたくなるのは当然の事だと思う。だから、私も大好きな安田くんを、いわゆるデートにお誘いした、つもりだったんだけど…

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「え…?!海?!」
「えッ?!」

意外だった。正直、海とかプールとか…安田くん大好きだろうなって思って誘ったつもりなのに、安田くんは…ちょっと今まで見たことも無いような、絶妙に嫌な顔をした。

水着とか、可愛いの買ったから、安田くんとそれで遊べたらなーって思ったのに…。安田くん海嫌いなのかな?意外、で…ちょっと寂しかった…。安田くんがこんな風に私のお誘い嫌がるのなんて初めてだったから…

「あ、いや…安田くんが、嫌ならいいんだ…ごめんね」

ショックだったけど、嫌がってる安田くんを無理やり誘う事ない。シンヤちゃんやミクちゃんと行けばいいんだもん…。…ショックだけど…。

「…、いや、いや…でも、ねぇんだけど…!!っていうか、みょうじと海とか…いや、みょうじの水着とか…めちゃめちゃ見たいんだけどさ、遊びてぇんだけど…」
「じゃあッ!!」

安田くんは、すごく深刻そうな顔をして、腕を組んでうむむむ…って悩む。え、えー…。そんなに悩まれると、余計に傷つく…なぁ…。でも…もし本当に一緒に海行ってくれるなら、そりゃあもちろん嬉しい…。し、安田くんも、水着着たりするのかな…?それって、ちょっと…恥ずかしいな…

「う、ん…!!うん!行こう!!海ッ!行こうぜ海ッ!!!」
「本当?!やたー!!」

安田くんは、さっきまでの『考える人』が嘘、幻だったかのように…なんだかふっきれた感じに、急に海に対してのりのりになった。私としては、嬉しい事だから、素直に喜んで、安田くんとスケジュールをあわせるべく、春に新調した手帳を広げた。安田くんとのお出かけは、ベタだけどピンクのペンでしるしをつける。家に帰ったら、シールも張っちゃおう…!!






カンカン照り…!!太陽ってこんなに大きいのかー?!こんなに無慈悲に熱いのかー?!そうやって無意味に叫びだしたくなるくらいに、海は暑いし、私は興奮しきっていた。

だってだって!青い空!白い砂浜!そして更に青い海…!!と私の横には安田くん…!!ハーフパンツにシャツだけってシンプルな服装なんだけど!!なんだけど…!!ああ、神様…これが海のイリュージョン?!なんでこんなわくわくドキドキしちゃうんだろう?!

浜辺には、本当に、数え切れないくらいの人、人、人…カップル、カップル、ファミリー、カップル…!!!みたいな…!!わあ!なんだ!!私、ありえないくらいに浮かれて居るぞ?!わは、わはははは!!

「みょうじ…」
「ふぁ…」

浜に下りると、安田くんがきゅっと私の手をつないでくれた。わ、今すごくどきっとした。

「や、すだくん…」

さっきまで浮かれていたのも忘れて、繋がれた手にきゅんきゅんしてしまう。う、わ…こんなにたくさんの人が居る前で、手…繋ぐのはじめてかも…。安田くん…大胆だ、なぁ…

「迷子になんなよ?」
「イエッサー」

なんだそれ、からからっと乾いた声で笑う安田くん。夏の太陽マジック。安田くん、いま、めちゃくちゃかっこいいです。やっぱり一緒に海これてよかった。太陽の所為じゃない顔の熱さを、安田くんに悟られまいとかぶってた帽子を深くかぶった。


一緒にかき氷を食べて、焼きそばを食べて、サイダーを飲んでると、安田くんの様子がなんだか可笑しいことに気がついた。なんかずっと…ずぅっときょろきょろしてる…。う、わ…もしかして…。安田くん、他の水着のお姉さんの事目で追って居るのだろうか…。というか、そうなんだろう…。だって、凄いもん。お姉さんたちの水着。どこを隠したいの?って位に面積小さい水着とか、ほとんどおっぱい出ちゃってる人とか…たくさん居る…。しかもみんな美人だし、スタイルいいし…大人っぽい…うーわー。女の私だって見惚れちゃう…

「な、なぁ…みょうじ」
「…んむぇ?」

パラソルの下、安田くんが浜辺のフェロモン女性に釘付けになって居る横で、ふてくされてチューペットちゅうちゅうしてると、安田くんが深刻そうな顔をして私を呼んだ。なんだよう、別れ話なら聞かないぞう…

「ズボンはけば?」
「…え?」

水着の上にパーカーを羽織ってるだけの私。日焼け止めはちゃんと塗ってるから、ズボンなんてはかなくても…あ?!もしかして…安田くん…私の生足なんて見たくねぇんだよッ!!そんな貧相なもん仕舞え…!!的な…?!ねぇそうなの?!そこまでフェロモンお姉さんに毒されてしまったの?!

「や、やだ…」
「え?!…じゃ、じゃあさ…パーカーの前、閉めない?」
「ええ?!やだよ、暑いし…」

安田くんは、たらたらと汗を流しながら私に迫る。く、くそう…!!安田くんめ…私の身体にはそんなにも興味が無いのか?!ショックです!!彼女として、ちょっとエッチなことで有名な安田くんの彼女として…ショックです…!!ちょっとだけ、安田くんが私の水着褒めてくれる事期待してたのに…!!

「安田くん、そんなに…私の水着見たくないの?」

また、浜辺に釘付けになってる安田くん。つぶやいてみると、急いでこっちを振り返る安田くん。顔を真っ赤にして、でも可哀想なくらい焦って…その反応も…今さらだよね…はぁ…落ち込んできた…

「あ!!いや!!あの、さ!!そういうんじゃ無くてね?!あの…!!いやいや!!みょうじの水着はすげぇ見たい!!みたいよ!!そのための海だけどね!もちろん!!海と言うよりみょうじがメインな訳だけどさッ!!」
「…いいよ、なんか言い訳聞いてるみたい…」

口をパクパクして、何か弁解しようとしてる安田くん。どんどん悲しくなってくる…。お姉さんの事見るなとは言わない、言えないけど…私の事そこまで邪険に扱われちゃ…私だって落ち込む…。ちょっと黙ってから安田くんは、汗を流しながら、秘密の話するみたいに私に顔を近づけてきた。

「あ、あのさ…あそこの、男子学生の集団…さっきからこっち、っていうかみょうじの事、いやらしい目で見てる気がするんだよ…」
「へ?」

安田くんがこっそり指を指す先。ほうほう、確かに。男の子の集団がいらっしゃるが…どう見たって、普通に海を楽しんでいる様子だ。全然私たちのほうなんて見ていない。

「あと、あっちの人たちも…」
「あっち?」

反対の方向、こちらにも男性だけのグループ。だけど、やっぱり私たちのほうを見て居るようになんて見えない。というか、むしろ、女性だけのグループに声をかけて、ナンパしているように見える。…ん?

「なんかさっきから、いやらしい目線ばっかり感じて…ああ!!だから海嫌だったんだよ…!!ああ、みょうじと一緒に海に行くのがいやだったんじゃなくてさ、海ってなんかいやらしい目線が多いじゃん?!だからみょうじの水着姿、見たいけど、見たいけど…!!見せたくは無いって言うか…!!俺が我慢すれば、そっちも守れるんならっていうか…!!あああ、多分理解してもらえないと思うけど…勘違いしないで…!!俺はむしろみょうじの水着みたいです!!どんな水着なのか気になるし、普通に水着にパーカーってだけでも、なんかこう…ぐっと来るものがあるって言うか…!!さっきのチューペットだって、なんかちゅうちゅう…ちゅうちゅうして居る様はまるで…!!」

「安田くんうるさい…!!」

興奮しきって、なんだかおかしなことを喚きだした安田くんを砂浜に押さえつける。わ、な…なんて恥ずかしい事を…!!安田くんてめぇ…!!ああ、いや…私も、安田くんが私の事心配してくれてるんだなって思うと…う、嬉しいけど…もちろん嬉しいけど…!!私だよ?!私ごときの水着姿に、世の中の男性陣が視線奪われるわけ無いじゃん!!ないない!!もう!どんだけ心配性なんだ安田くん!!あああ!!でもそれって凄くうれしいんだけど!!っていうかじゃあ、安田くん、フェロモンお姉さんの事見てたわけじゃないのか…

「わ、みょうじ…」
「安田くん…あ、の…」
「谷間が…」
「う、うるさい…!」

思わず押し倒したけど、安田くんがこれ以上おかしなこと言う前に姿勢を戻させる。服に付いた砂を払ってあげると、安田くんは少し照れたようにほっぺたをぽりぽり掻いた。な、なんだ…私まで照れてきたじゃないか…。

「あ、の…安田くん」
「う、うん」
「私の、水着…ね」
「うん」
「安田くんにしか見せたくない…です、から…」


後日、なんでか安田くんのおうちのお風呂で、水着で水浴びすることになりましたが…。いやらしい予感しかしません…。


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