恋は猛毒
あ、ほら。まただ。目線が追ってる。ずっと見てるから分かるよ、モロばれ。あーあ、なんでかなー…

「ろくすけべぇ!!」
「んなッ!おなまえ…!!」

弾かれたように私の方を振り向くろくすけべぇ。オサナー(幼馴染)の私とろくすけべぇは幼稚園、小学校、中学校ずーっと一緒だった。彼はどこにいても目立つ。イケメンだからだ。イケてるメンズだからだ。イ・ケ・な・いメンズでもあるからだ。顔面が生物兵器(すごく高度な錯乱作用を持ったバイオハザード)で、クールで、一匹狼で、でも女の子にはそれ相応に優しくて、でもやっぱりクールでイケメンレベルで言うと全盛期のそりまちたかしくらいイケメンだと思う。ろくすけべぇの方が100万倍くらい肌が白いけど…。なんかろくすけべぇは絵みたいだ。肌は真っ白で余計な毛はえてないし、かみはさらさらつやっつやの金髪だし、手足はすらーっと長いし、家系があれだからなんとなく立ち居振る舞いも清楚って言うか…色っぽい?とは違うけど…凛とした感じ。かっこいんだ。なのにどっか抜けててぐうたらで、サボり魔で。女の子が気にしないわけが無い。そして漏れなく私もそのろくすけべぇに夢中な女の子の一員なので、本当は「きゃあ!藤くんかっこいい!!抱いてー!!」みたいな集団に混ざりたいんだが…いかんせん幼馴染と言う立場は…こう…態度が変えづらい…。いつからろくすけべぇのことを好きになったのかなんて覚えてない。ずっと見てきた。ずっとだ。ずっと。一から話せば私は確実に嫉妬に燃えた藤ファン女生徒たちにぶち殺されてしまうであろう…。それくらい、ろくすけべぇの一番近くに居たんだ。いちばんろくすけべぇの事知ってる。いちばんろくすけべぇのことわかってるんだよ…

「いーじゃん!!言論の自由だよ!!知らないの?!ろくすけべぇ!!」
「おなまえ、名誉毀損って知ってるか?」
「知らないもーん!なんだようッすけべぇのケチ!遊べ!構え!」
「『ろく』忘れんなよッ!!ただの悪口になってるじゃねぇか!!」

ぽかっと頭を叩かれる。ろくすけべぇはこれ、私にしかやんないよね。他の女の子叩いたりしてるところ見たことないもん。でも、そんな事に優越感感じるほど馬鹿じゃないんだよ、私。女の子として、見てもらえてないんだろうなーって心のどっかで寂しい関係が伺える。でも、こうやってろくすけべぇとしゃべるのが好きなんだ。楽しいんだ。あんまり女の子に大きな声出したりしないもんね?これもやっぱり私だけ。いい意味じゃないけど、特別扱いじゃないけど嬉しいんだよ。

「あー!叩いた!!ひどー!」
「不名誉な呼び名つけるからだよ」

例えば、お腹が空いた時。あれが欲しいなーって時。あの人に会いたいなー、寒いからあったかくならないかなー、確実に赤点であったであろう私の答案用紙…なんかのミスで破棄されちゃわないかなー、今日の夕ご飯ハンバーグがいいなー、今日は帰り道近所のわんこにほえられないといいなーっていう何でもいいからお願い事があるとき私は両手を空に振りかざして唱えるのです。小さなお願いから大きな望みまで、かなえる力があるって信じてます!

「テトロドトキシン、テトロドトキシン!山ちゃんの危ない生え際、ろくすけべぇに移動してこーい!!」
「またその呪文かよ!」
「効くもん」
「効かねぇよ。しかも生え際とか血筋の問題なんだからあんま不安にさせんなッ!あとテトロドトキシンってふぐの毒だぞ?」

えー!テトロドトキシンは私の魔法の言葉だよッ!だってろくすけべぇのお家、テトロドトキシンの魔法を瓶につめて、厳重に保管してあるんでしょ?!だからずっと昔からお金もちなんだッ!!

「ちげぇよ!それは板長がふぐの内臓をしかるべき方法で処分してんだよ。魔法じゃない。『テクマクマヤコン』と間違えてるんだろ?」
「えー?!違うよ!!テトロドトキ…」
「あ!そういえば!!」
「なに?」

ちょっと怒った顔でろくすけべぇが私のことを睨んだ。なんだ?急に顔が変わって怖くなったぞこいつ。あー、いやだいやだ。中二ってすぐにキレる、沸点低すぎ。ふところ狭すぎ。

「おなまえ、お前…安田と付き合ってるってほんとか?」
「…はぁ?」
「保健室で女子がしゃべってるの聞いた。なぁ、マジで?なんで安田?」

よく意味が分からない。私やすだくん?って子あんまよく知らないし…A組の子だよね?私C組だから会った事すら…あ、いや、まてよ?安田…あー!!しゃべったことあるッ!!ろくすけべぇのありもしない下品な噂を流そうとしたときに快く手伝ってくれるって言ってた男の子だッ!!背の高いなんか目つきのいやらしいあの子だ!でも、付き合うとかそんな…ぶっとび急展開にはついていけないな…女の子の妄想力と、うわさの尾ひれってほんとにパネェ…パネェレベルで言うとまつこでらっくすの体脂肪率くらいだ。

「なぁ、マジで安田だけはやめとけって!アイツ絶対浮気とかするから」
「ほう…」
「ほんと、安田以外なら誰だってとめねぇけど!マジでアイツだけは無し!」
「ろくすけべぇは安田くんのこと嫌いなの?」
「嫌いとか好きとかの問題じゃなくてさ、アイツは絶対に女子を不幸にするって言うか…説明できねぇけど…」
「じゃあ、いいじゃん。別に」
「ダメだって!安田以外ならほんとに文句とか言ったりしねぇから!!安田だけはやめろ!」
「…ふッふじくんッ!」
「あ!みくたーん!!」
「…花巻…どした?」
「おなまえちゃん、こんにちわ!」
「みくたん今日も可愛いなー」
「絡むなよ、で。何?花巻」
「あ、うん…さっきみのり先生がね」

ろくすけべぇが私からはなれて、廊下の向こう側へ行く。真っ赤になって口パクパクさせてるみくたんは今日も眩しい白ニーハイ。可愛い。控えめな性格も、顔も、一生懸命なところも、いつも余裕がなさそうでびくびくしてるところなんて小動物(可愛い)みたいで守ってあげたくなっちゃう。壁にひじをついて、みくたんを隠すように立つろうすけべぇはとっても絵になる。かっこいい。まるでお姫様を守る王子様みたいだ。廊下を歩く生徒がみんなぼやけてて、みくたんとろくすけべぇだけが、世界中で2人だけ。はっきりくっきりしっかし私の眼球に映り、脳に焼き付く。ああ、気を抜いたら吸い込まれそう。

「ろくすけなら、よかった?」
「は?」

みくたんとの話が終ったろくすけべぇに向かって訊いてみたけど、聞こえなかったみたいだ。もう、ろくすけべぇは耳も頭もお花でいっぱいなわけだ。でも、聞こえてたとしても、お前はどうしようもなかったよね?私だってどうしようもないんだ。大好きな麓介が好きになった女の子は私の大好きな友達で、ついその恋路を応援してしまいそうになる。みくたんと一緒に居るときの麓介が好きだ。きらきら光っててかっこいい。目が、優しくて好きだ!好きだ!って言ってる。私のものになってなるはずが無いんだ。なっちゃいけないんだ。

例えば、何かを消したい時。大好きな人が他の女の子とずっと好きあっていて欲しいと願う時、大好きな友達の恋が叶って欲しいと切に願う時、溢れそうになる涙を止めたい時、胸を締め付ける熱や戒めから開放されたい時、私は両手を空に振りかざして唱えるのです。テトロドトキシン、テトロドトキシン!その猛毒で、一刻も早く私のかわいそうで悲しい恋心を殺してやってください。テトロドトキシン、テトロドトキシン…


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