07
はぁ〜っと息を吐き出すとぼんやりとだけ白いもやが見えて、となりを歩いていた がおおお!と歓声を上げた。寒さに凍える鼻の頭がきんと冷える外の空気は、暗くなり始めた空の色に似合うよう少しずつ、確実にその温度を下げていった。

コールド・アウト

「寒いねぇ、安田くん」
「寒いっすなァ、 さん」

 は寒いとかいいながらもいつもどおり短いスカートをひらひらさせながら、体の大きさに見合ってないような大きなもっこもこのマフラーを何度も巻きなおした。ポケットに突っ込んだままの手が、指の先が動かなくなりそうなくらい寒い。ああ、そのうちにマジで冬になるんだなー…

「どうだった?最後の」

俺のほうを見て、珍しくいたずらにニヤリと笑う 。憎たらしいそのニヤリ顔を冷たい指でぎゅうっとつねってやろうかと思ったけどやめた。俺も に負けないくらいのいやらしい笑顔で応えてやると はきゃらきゃら子供用の音の出るおもちゃ見たいな声で笑った。

「なにその顔ッ安田くん、やばッ!」
「いやいやいや、 さんもなかなかッ」
「えー!うそー!」

二人で寒さに肩をすぼめた格好でふざけてぶつかり合ってるとその所為でだんだんと体があったかくなってきた。最後のってのは補習のこと。とうとう今日で終わったその補習は、どうだったと訊かれても答えようが無いって言うか…まぁ普通にみっちり勉強だったわけですけど…俺の場合、暖房のあたたかさと先生の催眠呪文の所為で補習の3割はうとうとしてたけど…そして怒られてたけど…まぁ、赤点は免れるんじゃないかなー?そこそこいけるんじゃないかなー?って位の漢字とか数学の公式とか年号とか化学記号とかは脳みそに入ってる。

「おれ よりもいい点取っちゃうから」
「マジですか?!私だって結構がんばったんだよ?」

知ってます知ってます。っていうかさ、今回の補習マジで俺がちゃんと放課後残って受けてったのって100%、1000% さんのおかげですから。教室から窓の向こうの校舎の一番上の一番ふちの大き目の教室。ほかは真っ暗なのに『図書室』だけ明るいのを見ると、人影がちらちら動いているのが見えると…口にするとすげぇ陳腐な感じになっちゃうんだけど、心臓があったかくなるような…がんばろうって思えるような、 もがんばってるんだって思ってなんだか俺もがんばれた。うわ、俺キモイ…。

「二人っきりの帰り道も、今日でおしまいだねー」
「明日からはみんなと帰る時間おなじだもんなァ」

明日からとうとうテストが始まる。そうすればこうやって特別な時間に二人で帰るって事もなくなる。俺的には寂しいなーって思うんだけど、それって には失礼なのかな?だって、 は俺に合わせてわざわざ恒例だった花巻との勉強会まで中止して慣れない図書館でずっと一人で勉強しててくれたんだろう?しかも帰る頃には暗いわ寒いわ時間遅いから遊べるわけでもないわ…結構、迷惑だっただろうな…

それでも暗くなった静かな帰り道で、俺のとなりでニコニコしてる を見てると申し訳ないなって気持ちよりもやっぱり寂しいなって気持ちのほうが強くなる。二人っきりの特別が心地いい。 が俺を特別扱いしてくれるのが嬉しい。だってさ、花巻よりも深田よりも(深田はもっと次元が違うんだろうけど…)俺を選んで、優先してくれたわけじゃん?しかも好意でッ!好意のみでッ!それってすげぇよな?!あああ!だからそう思えば思うほど、こういう特別な感じに帰れるのが終わっちゃうのが寂しい。そしてもうすぐばいばいする所だ…足取りがちょっとだけ重くなる。

「安田くん」

もっこもこのマフラーに顔をうずめた が俺のわき腹にむぎゅうっとうずもれてきた。うおッ?!横からぎゅうっとされた俺は、体制を崩しそうになってとっさにポケットから手を取り出して、 の肩を支えに掴んだ。見た目よりもずっとしっかりした、でもやっぱり細い肩。

「実は補習終わっちゃったの残念だ、って言ったら…怒る?」

わき腹から覗いた の顔がいたずらに、試すように笑った。こいつ、真性なのかな…? の言った事が嬉しくて、ああなんだ俺も も考えてる事一緒なのかって思うともっともっと嬉しくなっちゃってなんだかもう…抑え切れない衝動?この熱情?みたいな物があふれ出てきて、勢いに任せてもこもこマフラーごと の事を頭からぐわっと抱きしめた。もがっと が押しつぶされた鳥みたいな不細工な声を出した。

「ぜんッッぜんッ怒んないッ!!」

腹の底からこみ上げてくる意味わかんねぇ笑いが口元にたまってすげぇにやにやする。ぎゅうってしてる はあったかいし、一生懸命ぎゅうってし返してくるのが可愛い。マジで 可愛い好きマジ好き好き好き放したくねぇええ!!

「やすだくッ!安田くんッギブですッ」

んぱっと、俺の腕の中から顔を出した は、まっかになってて髪もぐしゃぐしゃで鼻も寒さと摩擦で恥ずかしいくらい赤かった。痛かったよーって文句言いながらもにこにこしてる とこんなの2割だぜってにやにや笑う俺。ああ、こんな風に道端でいちゃいちゃ出来るのだって、今日で終わりなんだなー明日からはせいぜい手ェ繋ぐくらいしか出来ないんだなーって思うと本当にこの時間が惜しくなってきた。

「ねぇ さん」
「なんですか安田くん」
「ちゅう、していいっすか?」
「ちゅう、していいっすよ」

あー、マジで補習期間あと3ヶ月くらい続いてくれッ!!!!

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