06
昼休みに、自分の机で教科書と蛍光ペンを持って一向にテストモードになろうとしない頭を叩きながら少しでも何かたくさん覚えれるといいんだけどなーって思ってると深田に思いっきり頭を殴られた。自分でもビックリするくらい情けないうめき声と、後頭部に染み渡る鈍い痛みに耐える僕の言葉にならない声に深田が意地悪く笑った。

「あら、叩かれたかったんじゃないの?」

旧友は味方じゃない

「痛いよ、深田…」
「だってあんた自分で叩いてたじゃない」

僕の席の前の席に腰を下ろす深田が、余り余るその長い足を組むと教室の淵で数人の男子の声が上がった。僕はちょっとその男子達のほうをちらっと見てみたけど、別に…注意?とかが、できるわけでもないし…いや、そもそも僕が注意する言われは無いんだけど、やっぱりその…なんというか、いい気持ちはしないわけで…僕としては深田とその…恋人、な、訳だから…

…その、あんまり他の男の子の目をひくような事をして欲しくないって言うか…あああでもそんな独占欲があるわけじゃなくって…!!しかも深田自身はその足を組む行為が教室の男子の心臓をどうにかするって言う行為に直結してる事なんて知らないだろうし、それに気づいたからってそれを直したり控えたりは…しなさそうだ…いまだって男子の事も僕の事も気にせずに教科書をぱらぱら捲ってる。

「家でも勉強してんの?」
「え?!あ、一応…でも、あんまりはかどらなくて」
「妹もうるさいし?」
「そうなんだよねー」

うなだれる僕を見てくすくす笑う深田。顔にかかった髪が口に入らないように小指でそれを避ける仕草がとってもきれいで、テレビとかに出てくる女優さんを見て居る気持ちになった。きれい…なんだよな…深田って。 はどちらかと言うと可愛い感じだけど…対照的だよなぁ…。小学校の頃からまともに話を出来る女子って深田と だけだったんだけど…実は僕って他の男子から羨ましがられるような人たちに囲まれてるのかも…?

「おい、深田」
「藤…」
「藤くん」

深田と二人で教科書を見てると、僕の背後にいつのまにか藤くんが居て深田に声をかけた。ちょっとイラついたような…焦ってる?感じの、藤くんらしくない様子だ。

藤くんは僕と深田が挟んでる机にどっかから持ってきたイスを寄せて座った。こうやって深田と藤くんを並べてみると本当になんかおしゃれな雑誌でも読んでいる気分になる。


「なぁ、 ってその…本当に安田と付き合ってんのか?」
「「は?」」

親指をくるくる回しながら、居心地悪そうに目を泳がしている藤くんの口から出た言葉に、僕と深田は声をそろえて驚いてしまった。だって、安田くんと が付き合ってる(キスするような仲)ってのは、正直…常中で知らない人なんて居ないんじゃないのかなーってくらい常識…というか…うん…だって、あんな新聞掲載されちゃったら誰でも…分かるでしょ?…実際二人ともすごく仲良いし…

「なに?藤あんた変なもんでも食べたの?」
「真面目に訊いてんだよ。本当なのか?」

深田と藤くんの間の空気がすこしぴりぴりし始めた。藤くんを見る深田の目がすごく鋭くて、僕がそうやって深田に睨まれてるわけじゃないのに萎縮してしまうくらい…だけど、藤くんだってそんな深田に負けないくらい真剣な目でにらみ返してて…ちょっと、逃げたくなったけどこの二人だと、放っておくと本当にこのまま険悪なムードを膨らましてつかみ合いのけんかになっても可笑しくなさそうだから…逃げたくても逃げられなかった…何かあったら僕が、止めなきゃ…

「安田と が付き合ってるとなんなの?」
「なんなのって…お前ら知ってたのか?」
「あんただって知ってたんでしょ?」
「だから確認してんだよ」

二人とも、すごいけんか腰だ…特に深田が藤くんに対してすごく挑発的で…深田って藤くんとこんなに仲悪かったっけ…?いつも間に が居たから全然気がつかなかったけど…

「 と安田、スキー合宿の前から付き合ってんのよ」
「…マジかよ」

いらいらした様子の深田がそういうと、藤くんは驚いたような…呆れたような顔をして、少しの間動かなかった。それでも僕が声をかけようとすると黙って席を立って、借りてきたイスを返さずに教室を出て行ってしまった。

「深田…」
「あいつ、 の事好きなのよ」
「…うん」

それはきっと、ずっと昔から…

「だけど は、藤と付き合ったって絶対に幸せにはならない」
「絶対って…そんな」

何も無いところをきゅっと睨んだ深田の目は、本当は何を見て居るのか僕には到底分からなくて、どう声をかけていいのかもわからなかった。ただ、つぎいつ動くか分からない深田の唇をじっと見つめていた。

「はぁ…安田とだって、本当は認めたくないんだから…」
「 と本当に相性いいのって誰なんだろうね?」

表情が砕けた深田に安心して僕が笑ってそういうと、深田は頬杖を突いて指先でほっぺたをふにふにとつつきながら考え出した。僕も が一緒に居て楽しく…平和に暮らしていけるのって僕たちの中で誰なんだろうなーって考える。ちょっと、ずれた考えかもしれないけど、一人の男のこの顔が浮かんだ。

「深田は誰だと思う?」
「タバサは誰だと思う?」
「…もしかしたら同じ事考えてるかも」
「まぁ、うちらの中だったらやっぱり…」

本好くんだろうなァ…

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