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うっわ…もう外めっちゃ暗いじゃん、って今何時だよ…7:16…中学生をこんな時間まで居残りさせていいと思ってんのか?!ばかやろー!!いや、そりゃあまぁ…補習で居眠りした俺もまぁ…1割くらい、悪いかもしれないなーって思わなくもねぇけど…だからって…だからってこの時間…!!てか寒ッ!! 帰り道の味 吹きつける風が冷たい…カーディガンのすそをいっぱいまで伸ばして自分の体を抱きしめるように腕を巻きつかせて、気を抜くとかちかち鳴りだしそうな歯をぎゅうっと黙り込ませるように口をつぐんだ。さむい…気温も、そして心も…北極とか南極とまでは行かないけど、オーロラとかが見えちゃう野生のアザラシが見れちゃう北欧・アラスカ・カナダくらいの寒さが俺の心を撫でるように削る。 ああ、 やっぱり帰っちゃったかー…花巻と一緒に勉強するって言ってたしな…あったかい部屋とかで花巻と一緒にうふふあははおしゃべりしながらたのしくお勉強したのかなー…いや、怒ってるんじゃなくてさ…まぁうらやましいけど、やっぱり俺(彼氏)よりも花巻なのかなー?って思うと一人ぼっちの帰り道はいつもの50倍くらい寂しく感じた。 まぁ、でも…何時に終わるかも分かんない補習受けてるアホな彼氏よりも花巻だよな…そうだよな…まぁ、一人で待たせるくらいなら全然花巻と一緒に居てくれたほうがいいよな。うん、そうだな。あ、でも… 学校の誰も居なくなった夕暮れの教室で が一人ぼっちで俺の補習が終わるの待ってて、俺が急いで走ってきて「悪ぃ、待たせた!!」『もう!安田くん遅いッ!!置いて帰っちゃうとこだったよ』って言っといてにこにこしながら俺に駆け寄ってくる …そして俺は に軽く謝りながらその両肩に手を伸ばし、 は頬を赤らめながら少し背伸びをして…廊下まで伸びたふたつの影がゆっくり重なり合う…みたいなのはアリだよな?!おいおい!!全然アリだなッ!! って興奮してるのはいいけど…実際今の季節じゃすぐに暗くなって本当に帰り道とか危ないんでなし。自分の好きなシチュエーション叶えようとして にちょっとでも危ない事させるなんてありえないから。俺じぶんがやりたいシチュエーションとかはちゃんと事前に に面と向かってお願いできる男の子だから。 「あ、安田くん…!」 「… ッ?!」 噴水公園の前を通ったところで声をかけられた。真っ暗だから公園のブランコに座ってるのが誰なのか、はたまた公園に人なんて居たのか…しっかり目を凝らしてやらなきゃ全然わからなかった。でも、ちゃんとじっと見てみるとそこにはまだ制服のままの が居てブランコを足先でぼうっと漕いでた。え? 「なにしてんのお前…もう遅いのに…」 俺が公園の中に入ると、 はブランコから降りて地面においてたカバンを拾ってからちょっと小走りで駆け寄ってきた。う…わ、可愛いけどさ…こんな真っ暗な中一人で公園とかいちゃダメだよ、お家近所かも知んないけどダメだよ、そして花巻と勉強してるはずじゃなかったんすか? 「あのね、ごめんね…本当は安田くんと一緒に帰ろうと思ってたんだけど…」 図書室閉められちゃって…。残念そうな声で頭をうなだれる 。花巻とは公園に差し掛かるまえの道で別れたらしい。図書室ってだいたい何時に閉められるんだろう? はどの位この寒くて暗い公園で一人で居たんだろう… そっと手を伸ばした の手は、いつもよりずっとずっと冷たくて少しだけ固くも感じた。俺の手は別に の手よりあったかいって保証は無いけど…ってか、俺の手だってきっと冷たいんだろうけど、どうしても の手をあっためてやりたくてぎゅうっと握って一生懸命こすった。 「安田くん、痛いよ…皮むけちゃう」 「むけろむけろ、脱皮しろ」 「ええー私って脱皮とかできるのか?!」 へらへら笑ってるバカな 。本当は嬉しいんだ。 がこうやって俺のこと待っててくれたのも、俺と帰ろうって思ってくれてたのが…でも、素直に嬉しいよありがとうって に言えない理由がある。嬉しい 可愛いマジ好き可愛い可愛いって気持ちと一緒に腹の奥から少しずつ漏れ出てくる感情。 「 のバカっ!!こんな時間に一人で居たら危ねぇだろッ?!」 「…ご、ごめん…」 「バーカバーカ!!お前マジで、こんなとこでハデス先生みたいな人でてきたらどーすんだよ?!あぶねぇんだぞ?!わかってんのかよ?!」 「え、あ…いや、ハデス先生なら…危なくはないんじゃ…」 「危ねぇんだよッ!!もう、本当にもっと!ちゃんと!危機感もってくださいッ!包丁でずぶり!とか嫌でしょ?! さん、ジェイソンのチェーンソーの音嫌いじゃん?!」 「お、おお!!それは嫌だ…ね…」 あああ!!の!!俺としては本当に危惧してるのは、あいやもちろん包丁でずぶりなんてのもめちゃめちゃ困るんだけどさ!俺の脳みそにしてみればその包丁って言うのはお野菜とかお肉とかトントン切っちゃうアレじゃなくって、男性の股にぶら下がったか弱き少女の純潔を切り開いてしまうエグくて固くてアレな包丁なんだけど…!!どっちにしろ、 にそんな危ない目にあって欲しくないし、怖い思いだってさせたくないんだから…!! 「明日、から!俺の事待たなくていいんで、ちゃんと明るいうちに帰っちゃってくださいッ!!」 俺がそういうと はちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに笑って「わかった」といった。えええ、マジでわかってんのかな?わかってるようには思えない顔してんですけど…まぁ、本人が分かったって言うんなら…うん、信じるけど…うーん 「安田くん、やっぱり優しいよね」 そう笑って が俺の手を握り返した。いや、優しくは…なくね?これは一種の独占欲というか…むしろ性癖と言うか…いや、どちらにしろ褒められるようなものじゃないんだけど…俺の手を持って軽くリズムでも取るように遊んでる を見てると、まぁいいかーって思う。 「あ!そうだ!私、安田くんにお土産があるんだ!」 「みやげ?」 が嬉々としてカバンから取り出したのは缶のコーラだった。え、これがみやげ? 「お勉強お疲れ様っ!」 「お、おう…ありがとう」 受け取って、飲んでみると…それはちょっと驚くくらい…え、コーラってこんな感じだったけ…?ってくらいに、まずかった。炭酸の癖にいやにぬるくて、砂糖の所為で飲み込んだとたんに喉に粘りつくような感覚が続いて舌にまでもなにか…何って言っていいのか判らない何かが残った。ぬる…い…な、これ…。本当はせっかくだから の前で飲み干してやりたかったけど、3口目くらいで止まってしまった。 「…安田くん?」 不安そうな顔の が缶を口につけたまま動かなくなった俺を覗き込んだ。あーいやーそのー のご褒美が嫌なわけじゃないんだぞ…ただ、ただ…これ… 「ごめん …このコーラ、ぬるい…」 「…あッ!!ご、ごめんねッ」 は俺にとコーラを買ってから図書室で勉強していたらしく、その暖房の熱にコーラが押し負けたらしい…。いや、まぁ… が悪いわけじゃねぇよ…だからって…誰が悪いわけじゃ…ないので…すみません、残していいですか?あるいは家帰って氷入れてから飲みます…。 「ごめんね、安田くん…本当は喜んでもらおうと思ったんだけど…」 冷たい風が吹いて俯いてしまった の髪を揺らした。やっぱり外、寒いな…って思ったけど一人で居た時ほどすさんだ寒さはなくって、コーラがぬるかっただけでこんなに落ち込んじゃう が可哀相で可愛くて、噴出してしまいそうになってしまう。 「なぁ 、口直ししてくんねぇ?」 「くちなお…え?」 あったかい君の温度を抱きしめて、引っ付けあったくちびるの甘さったら…何物も勝る物は無いでしょうに。 |