01
スキー合宿から帰ってきて、私はすぐに部室に走った。先輩に写真を見せなきゃいけないからだ。先輩は私のことをとても怒った。だって、先輩の望んだ写真は私の写真の束の中には1枚だって無かったから…つぎ、部室に来るときは絶対に先輩が納得するような、誰か学校の人気者のスキャンダル写真を撮った時だ。って言われて、部室を追い出されてしまった。はぁ…なんで私ってこんなに役立たずなんだろう…

序章

夕日が真っ赤に教室を燃やす。あぁ、きれいだなあって思ってカメラを向けてみるけど…先輩が欲しいのはこんな写真じゃない。一人っきりの教室で私は今日自分が撮ってこっそり部室で現像した、出来立てほやほやの写真を机に並べて先輩にほめられるようなものが撮れていないか観察してみる。あぁ、だめだ…どれもこれもただの学校の景色だ。しかもぼけてるのがおおい…私ってやっぱり才能が無いのかな?うむむ…50枚くらいある写真の束をとんとんときれいにそろえて処分してしまおうか、それとも顧問に渡して卒業アルバムにでも使ってもらうか悩んでいると、遠くから歌が聞こえてきた。ん?誰だろう?こんな時間…運動部の人以外はみんな帰ってるんじゃないかと思ってたけど…。

「トゥートゥートゥー、トゥートゥートゥトゥトゥ」
「あ、安田くん!」
「んあ?お、山田じゃん。何してんのこんな時間に」
「安田くんこそ…もうすぐ下校時間だよ?」
「ああ、みのりちゃんの手伝い」
「あ…」

安田くんはスキー合宿の女子の大浴場を覗いた罰として帰ってきてからずっと、放課後残ってみのり先生の罰を受けてた。窓拭きだったり、職員トイレの掃除だったり…そういえば、私も手伝ったはずなのに…先生には何も言われてない…。もしかして、安田くんが黙っててくれてるのかな?…けっこう、優しい人なんだな…意外だなあ…安田くんってもしかしたら、ふたを開ければいい人なのかもしれない。ふたの柄はきっとひどいんだろうけど…

「で、山田は?なに?彼氏待ち?ははっ」
「そこで笑うのって失礼だと思うですけど…」
「悪ぃ悪ぃ、で?何してたの?隠しカメラでも仕込んでたのか?」
「違います!!今日撮った写真、見てただけです」
「へー、いいの撮れたの?」

安田くんはきっと悪気なんかないんだ。普通に、お家帰ったらお母さんに「今日の夕飯なに?」って聞くみたいに、そんな感じで「いいの撮れたの?」って聞いたんだ。でも私にはその言葉がとっても重たく感じて、苦しくて…どうせいいものなんて撮れませんよっ!!って自虐的になってもうほとんど逆ギレみたいに持ってた写真の束を教室のゴミ箱に向けてばあああって放り投げてやった。あああ…ほら、へんなことするから…安田くんびっくりしてるよ…

「なんだよ?!急に?!」
「す、捨てるつもりだったから!!いいんです!!」
「えー?!お前…せっかく撮ったのに…捨てんの?!」

ひっくり返ったり表向いたり、重なってたり散らばってたりするたくさんの写真を一枚も踏まないように慎重に安田くんが一枚一枚拾い上げていく。

「拾わなくていいですよ!!そんなの、どっか飛ばされちゃえばいいんです!!」
「んな事言ったってよー…あ」

安田くんが一枚の写真を持ったまま喋らなくなったから、ちらっと安田くんの顔を見てみると…ビックリするくらい…優しい顔で、笑ってて…不覚にも写真に収めてしまいたいと思った。夕日に優しく照らされたその顔は、普段の安田くんからは想像できないような穏やかな顔で…見惚れた…

「いい写真じゃん。これ、俺好きだよ」
「へっ?!」
「捨てんなら、もらってい?」
「え?!あ、ああああ!!うん!!」
「っしゃ、ラッキー。じゃあな!山田、気をつけて帰れよ」

私の写真が、いい写真だなんて…私の写真が、好きだなんて…初めて言われた…。残りの写真をきれいにそろえてから安田くんは「捨てんなよ」って言ってから私に渡して、またさっきの歌の続きを歌いながら帰ってしまった…。写真を持った手がじくじくと汗をかく。心臓がばくんばくん、破裂しそうになる。顔が赤くなる。ああ、私はしてしまったのかもしれない…安田くんに、恋を。

帰る準備をしようとしたときに、中庭のほうから人の声がした。楽しそうな二つの笑い声だ。

『あ!安田くん!』
『おう! もう花壇終わった?』
『うん!!今日はね!ビニールハウス作ったよ!!もうすぐ冬になるから!』
『なにそれ?!もう花壇じゃなくて菜園じゃん!!ぎゃはは!』
『あ、本当だねっ!!菜園だ!!へへへ!でも私野菜好きだからいいや!』
『いや、そー言う問題じゃねぇし!! おかしいだろ?!』
『えー?!そんなことないよう!!』

ああ、ダメだ。私は叶わない想いを抱いてる…安田くんには さんが居る。 さんは私と違って可愛くて、明るいし…なによりも安田くんとよく似合う。私には入りこめない…ばかだなあ…人の彼氏のこと気になんかしちゃって…はぁ…

『なら、奪ってしまいなさいよ』

え?

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