07
部屋に戻ったのはいいけど…寝れねぇ…。美作と本好と同じ部屋なんだけど、もう2人とも寝ちまってる。…布団には寝転んでるんだけど、目がさえて寝れそうにない。窓からくっきりした月が見える。あぁ…俺ってだめな奴…

あまいおやすみ

「でも、彼女に嘘までついて…」

ハデス先生の言葉が頭から離れない。そりゃ俺だって好きで に嘘ついたわけじゃねぇよ…でも本当のこと言って嫌われたくねぇし… に幻滅されたくねぇ…あんなに俺の怪我のこと心配してくれて、よくわかんねぇけど泣き出しちゃうし、とっさの嘘にころっとだまされてにこにこして…はぁ…。 の裸みたくて覗きに入ったら見つかってぼこぼこにされたなんて…言えるわけねぇ…!!でも、嘘ついた罪悪感で潰されちまいそうだ…。はぁ…どうしよう…。ふぅ…でも、このまんまじゃ寝れねぇよしなぁ…はぁ…何度目だ?このため息…俺ってたまに、けっこう乙女っぽいとこあるよな。気色悪ぃ…

俺はバカか…。いやいや、バカだよな。知ってる。うう…。部屋でぼうっとしてたはずなのに、俺はいつの間にかしおりを取り出して の部屋を探して、今。気付いたらしおり片手に の部屋の前に突っ立ってた。…なにやってんの俺。もう電気が消えて、廊下では非常用の緑やら赤のランプの明かりが等間隔にぽつり、ぽつりとぼやけてひかってるだけだった。…まじで俺、なにしてんの?バカなの?夜這いなの?どっちにしろこれ先生に見つかったら俺殺されるよな…。…部屋戻ろうぜ、俺。なんで来ちゃったの? に謝りたいとかダメだからね?だってどうせ謝れねぇじゃん、100%俺が悪いんだし、 嘘信じきってるんだから…。だめだめ、今謝ったら嘘ついたって事で幻滅される…。もう、なに?この悪循環…帰ろう。寝よう。

「…っ!!ひゃっ」
「!! …!!」

帰ろうとしたら、かちゃりと静かにドアが開いてこそっと が顔を出した。な、なんで?! とか、もう寝てるタイプじゃねぇの?!もう夜中過ぎてるような時間だぜ?!

「や、やすだくん?!どうしたの?!」
「あ、いや…ちょっと散歩…」
「えー?こんな時間に?ふふっ、変なの!」
「 こそ、なんで…」
「あ、ロビーの自動販売機にリンゴジュース売ってたから、飲みたいなあって思って…」
「あ、ロビーの自販もう止まってたぜ?省エネ?」
「ええ?!まじで?!そ、そうか…ありがとうね安田くん!ロビーまで行って落ち込むところだった…」
「あ、いや…いいよ」

こそこそちっせぇ声でしゃべってると はまたにこにこ笑って俺にお礼を言った。あぁ、いつもなら可愛いなあって思うだけなのに…信じられないけど胸がズキンって痛くなった。…あぁ、なんか女の子みてぇだ…。ぐうってこみ上げてくるやりきれない罪悪感にはぁってため息が出る。

「安田くん、もう怪我はいいの?いたそう」
「あ、ああ。ハデス先生が鎮痛剤?打ってくれたから…」
「そっか、よかった…でもなんか、元気ないね?やすだくん。大丈夫?」
「おう、ちょっと疲れただけだから… は気にしなくていいよ」

左手で の頭をぽんぽんってしたら、またくすぐったそうにくすくす笑った。あー、ダメだな。可愛い。ほんと好き。ごめんな俺、こんな甲斐性無しで…。もうぜってぇ嘘とかつかねぇ。ほんと、 好き。 の頭触りながらそうやって、懺悔にちかい決意を固めてると、 があ!って言ってぱっと顔を上げてちょっと待ってて!って部屋に戻ってった。…?

「はい!やすだくん!」
「…いちごみるく?」
「うん!なんか安田くん、元気ないみたいだから…!!安田くんにもらったやつだけど…」

ちっちゃい三角の飴を差し出す 。あ、ほんとだ。俺がバスん中であげたやつ。くびをかくんって横に傾けてへへって笑う が、もうただ純粋に可愛くて、ほんとうに…!!もう!!なんだこいつ?!天使の属性なのか?!ってくらい可愛くて…大事にします。マジで。神様みたいなのに誓ってもいい。

「ありがとう」
「へへっ…あ、あのね!安田くん」

飴を乗せられた左手を がちっちゃい両手できゅうっと握り締めてぐいって下に引っ張った。うお!って体がバランス崩して前かがみになると、でこにふにゃってなんかが触った。…え、マジですか?

「おやすみっ!なさい…!!」
「お、おう…おやすみ・・・」

 は急いで部屋に戻ってった。…でこちゅーされた…。じわりじわり手に汗かいてきて、今度は違う意味で寝れなくなりそうになる。… お前…悪い女だなあ…。俺、お前から抜け出せなくなりそうだよ…。てかもう、末期かも…。いちごみるくを口ん中に放り込んでころころさせながら部屋に戻る。ロビーの自販はやっぱりもう電気が消えてて、フロントにも誰もいなかった。ガラス張りの窓から見えるゲレンデはずっと奥まで続いてて日中になんか事故があったらしいけど、そんなの気付かせもしないくらい静かだった。俺的にはそんなことよりもさっき にでこちゅーされたことのほうが大事件だ。…おやすみって、なんかえろいよな。

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