日常に潜む愛と下ネタ
少し前を歩くあなたに右手を伸ばせば、振り向いたら覗くいやらしいにやけ顔。

「なに?扱いてくれンの?」

自分の右手で下品なジェスチャー。その洗練された無駄の無い手首のスナップは、下品なはずなのに人体の構造を美しく凄みのあるものなんだと思わされるほどに滑らかで、怒りよりも関心や呆れが勝ってしまう。ああ、コイツ本当にアホだなーと思いつつ口元がにやりと歪んでしまう私、を見る彼は(お前も好きだよなァ)とでも言いたげに、意地悪に、さらに口元をゆがめた。いっておくけど、私のこれは貢広の所為だよ。そしてあなたのは真性の物でしょ?先天性のバカ、手のうちようも無いほどに愛おしい。

「バカなこと言ってると、夕飯のメニュー変更しちゃうよ」

貢広の好物のもんじゃ焼きの材料が、たんまりとつまったエコバッグが左肩に食い込む。キャベツって重いんだよ?きっと貢広の脳みそより重いよ。ぴっちり葉っぱ同士が詰まってるのがいいキャベツなんだって、どっしり重みのあるのがいいキャベツなんだって、知ってるのかな?知らないだろうなー、私がどんな思いで、さっきのスーパーでキャベツを選別してたかなんて。耳ほじりながらウインナーの試食してた貢広は、これっぽっちも分かんないんだろうね?そういうところに、うんざりしちゃう時ってあるよ?一緒にお買い物に行ってくれるのはもちろん嬉しい。ただね、付いて来る、だけじゃなくってね?買い物カゴの中身が増えてきたら、代わって持ってくれるとか、カートをもってきてくれるとか、そういうのを夢見ちゃうのが女の子って物なんだよ?ほら、こうやって。帰り道に右手出したら手を繋いで欲しい合図なんだよ?なんにもわかっちゃいないくせに、それにすら気が付かない、バカでダメな人だなァ

「ええー?!ダメダメダメ!!お荷物お持ちしましょうか?!おぶりましょうか?!おなまえさまァ!!」

さっきまでの余裕のいやらしい顔は何処へやら、必死の形相で地面に這いつくばる貢広。タイミングよく角を曲がってきた子どもに指差されて、その子のお母さんに怪訝そうに睨まれてやんの。なんでもします!裸でおどります!ケツの穴も捧げます!!なんて大きな声で叫んで騒いで、そんなにもんじゃ焼きが食べたいのか、だんだん自分でもノッてきて楽しんでいるのかわかんないけど、必死な彼が、おかしなことを言う彼が可愛くて面白くて、何度と無く下らない意地悪をしたくなる。公衆の面前だというのに、彼に土下座をさせて、楽しんでいる私が、常識はずれ、可笑しいというのなら、それは絶対に貢広の所為だ。だって相手が貢広じゃなきゃあ、きっとこんなにも面白くないでしょう?

「表をあげい」
「はっ!!」

どうしてそこまでなりふり構わずの精神なのか。地面にぶつけたのか、鼻の頭が赤くなってる。本当にバカだなぁ…。道路に正座のままで私を見上げる貢広に、もう一度右手を伸ばす。テイクツー。

すっと伸びてきた貢広の左手が、ぎゅっと私の右手を握ると、ぐわっと引っ張られて地面に突っ伏した。驚きと衝撃に小さく悲鳴を上げたけど、実際は貢広に抱きとめられて、痛みなんて全く無かった。あたたかくて嗅ぎなれた彼の匂いでいっぱいになる。左肩にかけていたずっしりキャベツ入りのエコバッグが、時差攻撃で貢広のわき腹に一発食らわせれば、格好のつかない「ふげぇッ」なんてうめき声。

「ぜってー、今晩はもんじゃだからな?」
「わかってるって」

くすくす笑ってお互い差さえあって立ち上がれば、自然に私からエコバッグを受け、歩き出す貢広。自分で持つよって言えば、お前に持たせると凶器になるってムカつく震える演技をされた、ムカつく…。さっきのキャベツアタックはそもそも自業自得でしょう?!貢広の後ろで怒りのゴリラポーズをしてたら、くるっとこっちを振り返って左手を差し出された。

「早く帰ろうぜ、腹減ってきた」
「…さっきバカみたいにウインナーの試食してたくせに」
「いや、やっぱアルトバイエルンだわ、てかお前買ってたし」
「いや、だって、美味しかったし…」
「だーろー?!上手かったろ?!あ、でもおなまえちゅあんは俺のウインナーの方が」
「わはは!ソーセージじゃないんだ?ウインナーサイズなんだ?」
「わッ!ちょ、待って!!訂正させて!!」
「貢広さんのウインナーで受理されました、訂正は認められません」

アホな事ばっか言って、私の気も知らないで、買い物に付いて行っただけで良い彼氏でいる気になって、バカでアホでスケベでバカだけど、私が貢広のために美味しいキャベツの選別してる間に貢広は、近くは無いウインナー売り場から試食のウインナーをわざわざキャベツコーナーにいる私のために走って持ってきてくれたり、よくわかんないタイミングで優しくしてきたり、せっかく格好いいのに平気で下ネタに走っちゃうし、握った手はあったかくて大きくてしっかりしてて扱くのが上手で…

「貢広のバカ、お前の所為だ」
「え?!唐突ッ!!なにその罵倒?!なんのご褒美?!」

ごちゃごちゃ言ってますが、つまりは単純に貢広の事が好きなんです。

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