あこがれの形跡
俺は人を殴った。スーツを着てメガネをかけていかにも仕事できます、稼いでますって感じの中年男だった。駅で電車を待っている間にその男は俺の前で合計6本タバコをポイ捨てした。4本目くらいで俺は男に声を掛けたけど男は仕事の電話をしているのか俺の言葉に耳を貸そうとはしなかった。小さな子どもだってこの駅を使う。大の大人がこんなことして恥ずかしくないのか…。俺だって大人だ。中学の頃はどうしようもない馬鹿だったけど高校はいって、働く気もしなかったから入って出れそうな大学を選んで去年卒業した。大学入ったのはいいけど夢とかとくに無いから大学まで出てフリーター。今日だってバイト先探して履歴書とケータイと財布だけ持って出かけてた。そんな人間だけど今目の前のポイ捨てがとても大きな社会の闇みたいなもん見えて俺は話しを聞かずにいらいらした風に6本目のタバコを地面にたたきつけたその男を思いっきり殴って、殴って、殴って、殴って、殴ってやった。警察が来て事情聴取を受けた。なんやかんや説教を喰らったけどどうでもいい。結局無職の俺が悪いんだ。相手の男の迎えが来た。物腰柔らかそうな、その男にはどう見たって不釣合いに若い綺麗な奥さんだった。綺麗で柔らかそうで頭をおかしくさせるような甘い匂いまでした。顔を見て声を聞いて俺は心臓を握りつぶされたような気がした。

「みょうじ…?」
「安田くん?!」
「みょうじだよな?!みょうじおなまえ!!」
「え、あぁそうよ」

その女はみょうじおなまえだった。かつての俺の憧れ。俺の初恋。学生時代の俺の全てだった女だ。名前を思い出し、声を聞いたときから俺はもうダークグレイのジーパンの下で苦しいくらいに勃起していた。みょうじは男によりそって交番を出て行こうとしたが男がそれを断ってみょうじを置いて一人でタクシーを呼んで帰ってしまった。午後11時52分。俺とみょうじはまるでそうすることが自然の流れで誰も逆らえないんじゃないかっていうくらい、時間が流れるのを誰もとめる事ができないのと同じくらいの調子でホテルに入り部屋に入るか入らないか位でセックスを始めた。俺はこの時をどれだけ夢見ていただろう…。学生の頃は見たことも無い彼女の裸を思い浮かべ何度マスターベーションをしただろう。想像の中でどこまでも淫らになって俺の前だけで痴態を晒す彼女に何度絶頂を迎えさせられただろう。目をつむれば今でも鮮明に学生の頃想像したみょうじおなまえがまぶたの裏側で俺を求めている。実際に体は本当のみょうじおなまえを触って、聞いて、嗅いで、感じている。頭がおかしくなりそうなほど気持ちがいい。今まで付き合ってた女や付き合っていなくても知り合った女と数え切れないほどセックスをしてきたが、こんなに夢中になったのは初めてだ。2回目の射精を終えて俺はようやく今のみょうじの裸をみた。いたるところに痣や怪我がある。白くて形のいいやわらかい二つの胸には切り傷がなおった後がうっすらと走っている。なんだこれ…

「やすだくん」
「なにこれ?」
「旦那さんがするのよ」
「なんで?」

息があがる。怒りがこみ上げてくる。かわいそうなみょうじ俺の大事なみょうじポイ捨て男に虐待されても笑ってる馬鹿なみょうじ裸になると結構ふくよかに感じて着やせするタイプのみょうじおかしいくらい突き上げられるとすごく色っぽい声を出すみょうじ学生時代の俺の憧れだったみょうじ今だっておかしくなるくらい好きだみょうじ!みょうじみょうじみょうじみょうじ!!!

「みょうじ!みょうじ!みょうじ!みょうじ!みょうじ!!」
「んあっ!!やっ…はぁッ」
「みょうじ!みょうじッ!!」
「や、すだくッ!!んっ…もうッみょうじじゃッ…ないのよ」
「おなまえ!!おなまえ!俺の憧れだったのに!俺の全てだったのにッ!!」

泣きながら3回目の射精を迎えた俺の頭をぎゅうっとその柔らかい胸をつぶして抱きしめるみょうじも、ぽろぽろ涙を流していた。違う…こんなの俺のみょうじじゃない…。

「いつまでも、学生のままじゃいられないのよ安田くん」

俺とみょうじはもしかしたらとてつもなく暗くて深くて寂しいところまできてしまったんじゃないのだろうか。もしもそこから抜け出せる方法があるんだとしても、俺じゃみょうじを救い出せてやれないし、きっと俺を救い出してくれるのだってみょうじじゃない他の誰かなんだろう。あるいはそんな事が出来る人間は居ないのかもしれない。そうか。あの男も俺たちと似たような所で苦しんでいるんだ…

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