誕生日イヴを
見てしまった、見てしまった。ねぇねぇ私見ちゃったんです見てはいけないもの見たくないもの見たら大変な事になっちゃう物をええそうです見ちゃったんですこの目でしかと見ちゃったんです。それは私の網膜に焼き付き眼球をとろかしそのどろどろをその熱いどろどろをまぶたが押し退けて血の引く冷たい頬にどろりと零れ落ちたんですええ、そうです間違いなく私は見てしまった見たくないものを見てしまったそして泣いてしまった涙を零してしまっただってその日は寒くて頬が鼻がちんと痺れるような日だったんです。そうそれは11月29日の出来事…


「うううううわあああああああ!!!!安田のばっっっかやろぅううおおおおおおお!!!!」
「ちょっとおなまえちゃんッ!もっと静かに出来ないの?!」
「ううううおおおおおごめんなさあああああああいいいいいうおおああああんにゃろう安田くっそおおおおおおお!!」
「おなまえちゃんッ!!」
「ぶっっっとぶぁああああすぅうううあああああだっらぁあああ!!!!」
「おなまえッ?!」

私はちょうど3時間前まで確かに私の彼氏であった安田貢広の大好きだったバカで愛しい安田貢広の大事な大事なお誕生日のプレゼント用に愛情たっぷり甘いクリームたっぷりのバースデーケーキをプレゼントしてやろう驚かしてやろう喜ばせてやろうと思って安田に一緒に帰るの断って1人で買物に行ってケーキの材料を買って…ケーキってねタダじゃ作れぬのよ…小麦粉とか砂糖とか卵とかってある程度お家の冷蔵庫に備蓄してあるんだけどね、さすがに生クリームとかイチゴとかなんかチョコスプレー?とかチョコペンとかそういうのってもちろんなくって自腹で購入を余儀なくされるんだけどあれってちょう高ェの!え?!こんだけの量でこの値段?!ええ?!って値札確認しちゃうくらい高ェのッ!!

でも大好きな安田のためなら仕方ない喜んで金払ってやろうじゃねぇかいちっくしょおおお!!!!って思ってたくさん材料を買い込んでスーパーを出ると目の前の交差点に安田と女の子が居た。一緒に居た。手を繋いでるわけじゃないけど、キスしてるわけじゃないけど、抱き合ってるわけじゃないけど…一緒に居ておしゃべりしてて笑ってて楽しそうだった。空っぽの財布を生贄に得た心のほんわかしたぬくもりに深く広いひびが入って11月29日の夕方の冷たい空気がよく沁みた。で、家に帰ってきて今鬼の形相でとりあえずケーキを作って居る私はストレス発散といわんばかりに喚き散らしボウルの中につばが入るのも気にせず(だって食べるのは安田だ)殴りつけるようにクリームをあわ立て、引き裂くように生地を混ぜ込み、叩きつけるように型に生地を流し込み、怒号と共に灼熱地獄にそれを送り込んだ。テーブルには卵の殻が飛び散りクリームが飛び散り食器が散乱しまぁとにかく私の心情としては地獄絵図?地獄絵図的な悲惨さだったけどいまむしろ私が地獄の人、あの悪魔的な?鬼的な感じであって…うん、あああああくっそおおおおおお安田ああいいいいつうううああああああ!!!!


腕とか足とか顔についてた汚れを落とすためにお風呂に入ってる間に焼けた生地をお母さんが冷やしておいてくれたので、比較的常人に近い精神状態でスキンケアをして髪を乾かしてあったかい格好をしてまたキッチンに立つ。安田、ねぇこれ安田のためのケーキなんだよ分かってんのかな?こんなに美味しそうな色して甘い匂いもしてふかふかに綺麗に焼けててこれから私が愛のデコレーションを施すんだよ『YASUDA LOVE』とか描いちゃうんだよピンクのチョコペン3本も買ったのそのためなんだよハートいっぱい描くためいっぱいいっぱい大好きだよって伝えるために買ったんだよなのにお前は他の女の子と楽しそうにしてたんだよなぁおいなにこれ?どういう事?私こういうときしおらしく「うわあん、安田くんひどいわッ私悲しい…うう、しくしく…」みたいな出来る可愛い女の子じゃねぇんだよマジで…

「お母さーん、ケーキにジャム使っていい?」
「ジャム?おなまえちゃん生クリーム冷蔵庫に入ってたよね?」
「うん、やっぱやめた。明日スープとかに使っていいよ生クリーム、だからジャム頂戴」
「あ、ほんと?!やったー、いいよジャムどうぞー!いちじく?」
「ううん、いちごッ!!」

冷えたケーキにべじゃッどちゃッ!!と酷い音を立ててイチゴジャム(果肉入り)をスプーンに1杯ずつ投げつけて染み込み方がまだらになるようにケーキの大をくるくる回す。くるくるくる回しながら今度は水色のチョコペンででたらめに絵を描く。ぐじゃぐじゃになった赤いジャムが染み込んだケーキの表面に溶けて沈み込んでく水色のチョコは不気味な色になっていく。ケーキの上でイチゴを握りつぶしてぶちゃぐちゅぼとぼたじゅぶぶぶ…スウィーティーてフルーティーでフレッシュな素敵な香りがキッチンを満たしたけどもちろん私の心は満たされなかったので、箸たてから7本くらい無差別に箸をとってぎゅっと握り何度も何度もケーキを刺した。刺して刺して刺して泣いて刺してちょっと鼻水が垂れて刺して刺してぐじゃぐじゃにした。

なんだこれ、私やばい人みたいじゃん…。むかつく。なんで私ばっかりいらいらして悲しんで泣かなきゃいけないの?元はといえば…ってか根本的に10:0で安田が悪いむしろ12:0くらいで安田が悪いのに私ばっかり…思い知らせてやる…へっへっへっへ、あいつマジ安田…今まで経験したこと無いような素敵な誕生日にしてやるぜ…へへへうひひひッ!!

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