すなわちそれは平和の象徴といっても過言ではないだろう

『1108』

死体発見現場に書き残された死者の言葉いわゆるダイイングメッセージ…のように見えるけど、これは全然そんな悲しい重たい冷たい物ではなくって公園のベンチ私の隣に浅めに座った安田がそのへんの棒切れで冷たくて硬い黄土色の地面をゴリゴリ掘って描いた文字。すごく真面目な顔して書き始めるから何を書くのかと思って私のベンチから少しだけお尻浮かせたりなんかして安田の書いてる文字を覗き込んでみたけど、解読不明。

「1108年?歴史のなんか?」

私が安田の顔を覗きこんで訊くと安田は「歴史か…」って重々しくつぶやき返して木の棒を持っていないほうの手で少しだけ顎を擦った。今までに見た事が無いほどの真剣な顔になんだか少し緊張する…。なんだろう?1108なんて私には見覚えもないし、特に重要そうな数字の組み合わせだとも思えない…

「ある意味じゃ、歴史なんて概念をも凌駕するほどの意味を持つ」

真面目な声が冬の寒さを忍ばせた乾いた空気に良く響いた。なんだ、安田じゃないみたいだ…

安田はベンチからすくっと立ち上がって、ちょうど3歩すすんでぴたっと止まった。木の棒を持っていなかったらまるで戦争に行く前の兵隊みたいにその背筋はピンとしていて痛々しいくらいに真摯だった。夕日が朱色に安田の姿を冷たく焦がす。絵みたいに綺麗なその姿に、現実味のありすぎる非現実的な安田の言動・雰囲気にただならぬ寒気を覚えた私はそっと誰かに背を押されるように安田につられるようにベンチを立ち上がった。

「1108、すなわち11月8日」

11月…8日?今日の事じゃないか…。まだ安田が何を言わんとしているのかがつかめない私は眉をひそめる。それでもそんな私を気にせず安田は自分の世界に入り込んでるみたいで、1度顔を伏せ重々しいただならぬため息を吐き出した。それからまたきゅっと力強く前に向き直る。なにしてんだこいつ…

「いいおっぱいの日」

木の棒をぶうんッと振りかざしてこっちに向き直り、枝分かれしたその木の棒を私に突きつける。いいおっぱ…は?

「は?」

「だがしかぁし!!俺にしてみればおっぱいに良いも悪いもないんだッ!!それは意思を持た無い、それは思想を持た無い!それには策略も私欲も!陰謀も裏切りも絶望も苦悩も苦痛も無い…!!そんな純粋無垢で透明な存在に…誰が良し悪しを決められようか?!決めることを許されよう?!おっぱいってのは女の優しさ、あたたかさ、柔らかさ、強さ、美しさの集合体であり、同時に!男の夢、希望、ロマン、生きる喜びの集大成なんだッ!!おっぱいは誰も傷つける事は無い。あんなに柔らかいものが何を傷つけられるといえよう?!あんな尊い存在を誰が傷つけるなんて思えよう?!サイズも色も形も多少の難があろうとそれがおっぱいと言える認められるものであるのならば!!そこには良しも悪しも無い!!ただ純に!…おっぱいが、あるのだ…」

身振り手振り何かにとり憑かれたみたいに暴れまわりながら恥ずかしいくらい大きな声で喚き散らした安田は、最後に私の方を向いてとびっきりのいい顔。びゅおおおって今日で一番寒い風が、私の安田の間を数枚の枯葉を巻き込んで吹き抜けていった。

「さむっ…私かえる」
「え、あ…ちょ、待って!待ってよおなまえちゅあん!!」
「やだ。熱狂的な胸部信者と一緒に帰りたくない」
「冗談!冗談だってば!!いいおっぱいってみょうじのおっぱいのことだから!俺この世の中で一番にみょうじのおっぱいが好きだから!!でかい声で宣言できるし!!俺はァ世界で一番んんにぃぃ!!みょうじのうぉっぷぁぁいがァ好きだァァアア!!!」
「そんな変態発言する変質者と一緒に帰りたくない」
「ちょ、みょうじ…そんな事いいながらちゃんと待っててくれんのマジでツンデレ…!興奮するッ!!」
「ばか」



1108=いいおっぱいの日だとか言うから急いで安田で書いてみたけど…なんじゃこりゃ…

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