終りましょう
おなまえさんはとにかくえろい。世に言う『人妻』である、と言う観点からだけではなくえろい。体つきとか、立ち居振る舞いとか、すべてが俺の性的欲求を、またにぶら下がるアイデンティティを湧き立たせる。出会いはいつだったか…シチュエーションはどうあれ、俺は始めておなまえさんに合った時、雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。…まぁ、雷に打たれたことなんて無いんだけどね。なんかそんくらいすごい衝撃を股間に覚えたわけなんです。俺のちんちん避雷針みたいな?

おなまえさんは俺より10個はかるく年上だ。旦那さんはお金持ちの会社員さんで、おなまえさんは専業主婦。子どもは小学生が2人、大きい犬が一匹。すげぇでかい家に住んでる。日中はそんなでかい家におなまえさん、ひとりぼっちだ。俺は大学2年で19と20の間をふらふらしてる。とにかくなんだ、そういう精力が有り余ってるお年頃なわけだ。いつだったか町でであった時、初めて会ったとき俺もおなまえさんも感じてた。ああ、この人とセックスがしたいって…。目を合わせた瞬間、そこには意識的な熱が込められていて、求め合っているんだって言う事が分かった。初めて会って、自己紹介もそこそこに名前も知らないままおなまえさん家で溶けるようなセックスをした。すげぇ熱風が竜巻をおこして、俺とおなまえさんを巻き込んでぐるぐるしてるみたいなそんな激しいセックスだった。素っ裸になって、あ、もちろんコンドームはしてました。セーフセックス。中出し、ダメ絶対。とにかく、こう…恋人同士が好き好き愛してるぅ!ってセックスした訳じゃないから終った後は結構淡白で、俺もおなまえさんもそそくさ着替えてキッチンでコーヒーを飲んだ。そこで初めて自己紹介。シンクの向かいの窓からこぼれる午後の日差しの中では、おなまえさんは本当にただの穏やかな女性になった。ベッドじゃあんな、信じられないくらいすげぇのに…。

それからもう、5ヶ月が経とうとしてる。俺とおなまえさんは週に2回(俺の大学の時間に合わせて)はセックスした。午前10時ごろにおなまえさんの家に行って、2回セックスをしておなまえさんが昼飯をご馳走してくれる。その後はやったり、やらなかったり。3時になる前には俺はおなまえさんの家を出て、その魔法にかかったような幻想的かつ官能的な神秘の空間から飛び出して味気の無い生活に戻った。そんな風におなまえさんとのセックスに依存しているような面はあったが、日常生活でおなまえさんの存在にとらわれるような事はなかった。大学の講義を聞いてる最中におなまえさんとのセックスのことを考えることも無ければ、シャワーを浴びてる時に自己処理するときもおなまえさんのことを思い浮かべる事はなかった。それは俺がおなまえさんに対して抱いている感情が決して『恋』やら『愛』などという、ふわふわと可愛いものではなかったからなんじゃないかと思う。俺はただおなまえさんに『性』を求め『体』をむさぼりあった。でもそのことに関しては何の罪悪感も無い。だって、結局のところ、おなまえさんだって俺に求めているのもは『精力』と『ちんこ』なわけだからだ。『恋』だの『愛』だのを求め、共感しあうのは家族だ。旦那さん、お子さん、でかいワンちゃん。でも、それが正解だと思う。

「貢広くん、大学はどう?」
「ん?ああ、一応は行ってますよ。学費分は学ばないと」

そうねっておなまえさんが笑う。今日は珍しく外にいる俺たち。おなまえさんがたまには外に出たいって言い出したて、つれてこられた公園。公園って行ってもすべり台やらブランコががちゃがちゃ置いてあるような公園ではなくて、ボートが貸し出されてるようなでかい池があって、その周りを木々に囲まれたジョギングコースがぐるぐる設けられてるような、そんな公園だ。時折タイムスケジュールに沿った噴水が飛び出して、池で泳いでいた鳥達を驚かせる。池のそばのベンチには彫刻のように動かなくなった年寄りが居て、たまにハトに餌を投げたりあくびをしたりして死んで無いという事を見せ付けた。冷たい水面が深い木々の色や、午後の強い日差しを反射して真っ白にぎらっと光る上をぎっこぎこボートを漕いでる俺は、大抵の恋人同士がボートに乗る時の一般男子同様、1人でオールを握っているし、向かい合った彼女の合わせられた膝の奥、スカートの中が気になり、正面を向けずにいた。ありがたいことに景色がいい。俺はそんな景色を楽しんでいるように見えただろうが、実際は勃起しないように(さすがに外ではまずい)おなまえさんのからだの事以外のことを考えようと必死になっていた。空を飛んでいる鳥の数を数えたり、全く持って興味の無い事(例えばこのオールはどこの国で取れた材木を原料にしているのか、など)を考えていた。おなまえさんの白い指が冷たい水面をなぜると水に映った木々が揺らぎ、底の石やらコケやらもぐにゃりぐにゃりと姿を変えた。流線型に景色は崩れ、またゆっくりと元の景色に戻っていった。おなまえさんは水面から手をあげ、清潔そうなガーゼのハンカチでそっと手をぬぐった。

「貢広くん」

おなまえさんの声に顔を上げる。ああ、なんていやらしい体をしているんだろう。ぴったりとした上品そうな水色の半袖の服に包まれた体。胸は大きくて柔らかい。若い人の胸も大きくて柔らかいものがあるだろうが、洗練された時が違う。若さ特有の張りのある肌が衰え始め、しっとりとした弾力の感じられないそのさわり心地に魅了される。熟れたいちじくのようだと思う。しっかりと手に包んでもあふれ出るそれは、俺の手のために作られたんじゃないだろうか、と錯覚してしまうほど思い通りに形を変えた。吸い付くような肌。全てのトゲが取り払われてしまったように体全体がしなやかで柔らかく優しい。2度の出産を乗り越えたくびれた腰、ふっくらとした尻、肉がそげて細くなりつつある足。歳を感じさせるものといったら、笑った時に目じりに出来るしわぐらいだ。でもそんなもの気にならない。上手に化粧をほどこしたおなまえさんの顔は、時の流れを自然に飲み込むように、何にも逆らうことなく早くも遅くもなく、その年齢をしみこませていた。それは1日をかけて朝焼けから夕焼けまでを映す空のように感じられた。白い手が髪をすくい、形のいい白い耳にかける。首筋がすらりと肩と頭を結ぶ。かぶりつきたい。思わずオールを握る手に力が入った。

「ここの池ね、いいところでしょ?」
「あ、そうですね。景色も空気も綺麗だしタダだし」
「ふふ、そうね」
「よく来るんですか?その、旦那さんと」

俺とおなまえさんは特別旦那さんや子どもの話しを避けたりはしない。ただの体の付き合いだけの俺たちにとって、その手の話はそんなに複雑な意味を持たないのだ。

「ううん、旦那とは来た事無いわ」
「ふうん」
「実は来るのも初めてなの」
「そうなんですか…俺はてっきり…」

そこで俺は言葉を呑んだ。何か衝撃な事態が起こったわけじゃないけど、なんとなく次の言葉を失ってしまった。きっと池に落ちて、深くて冷たい底まで沈んでいってしまったのだ。向き合ったおなまえさんはすぅっと背筋を伸ばし、手を綺麗にひざの上に揃えて俺を見た。決められた角度の流れるふくらはぎは真っ白で降り積もったばかりの雪のようだった。

「このボートね、恋人同士が乗ると必ず別れるって言うジンクスがあるの」

オールを漕ぐ手を緩めておなまえさんをじっと見据える。どういう意味だ?何が言いたいんだろう?何故かおなまえさんのその真摯な姿勢に俺の股間は熱くなった。

「もう、こんな事やめましょう」
「こんな事って…旦那さんにバレたんですか?」
「ううん、そうじゃないの。何もバレてないわ」
「じゃあなんで…俺、何か気に障るようなことしましたか?」
「ううん、そうじゃないのよ…そういうことじゃないの」
「もう、俺とはセックスしたくないって事ですか?」
「そんな事無いわ、今だって貢広くんに触って欲しくて仕方ないんだもの私」

じゃあなんで…そう立ち上がろうとしたとき、おなまえさんが俺より先に口を開いた。

「わたしたち、間違っていたのよ。こんなの普通じゃないわ」

もう、これっきりにしましょ?そう言って笑うおなまえさん。間違ってた?何が…求め合うことが間違いなのか?八百屋はお金が欲しくて野菜を売ってる、客は野菜が欲しいから八百屋に金を払って野菜をもらう。そんな関係じゃないのか?俺たちは。それが間違っているのか?何も理解できないままでいた俺におなまえさんは戻りましょう。と言った。…いったいどこに?


あれから、2週間が経つ。おなまえさんの体は、そりゃあ魅力的だった。あんなにもセックスが気持ちいなんて初めてだった。無条件に出される昼飯も美味かった。だからといって、俺がおなまえさんのことを引きずって、彼女の家庭を脅かすような事をして良い訳が無い。なぜ、おなまえさんが俺と会うのをやめようと言ったのか、俺にはまだわからないけど、なんとなく体裁が悪くなったんだと思う。旦那さんは優しそうだし(おなまえさんの家には色んなところにたくさんの家族写真が飾ってある。寝室でセックスする時は、その写真は伏せられていた)子どもは2人、可愛い盛りだろうし。昼間の自分を認めたくなくなったんじゃないかな?

今までおなまえさんと過ごしてきた時間をもてあますようになった俺は、バイトでも探そうかと、町をぶらぶらと歩き回っていた。そこで家族で買い物をしているおなまえさんとすれ違った。俺のほうはすぐに彼女がおなまえさんだという事が分かったのに、女の子と手を繋ぎ旦那さんに微笑みかける彼女には俺のことは分からなかったらしい。ああ、何度も頭の中で流れるおなまえさんの声。切なそうに俺を求めるそのいやらしい声、触れた肌のやわらかさ。どこで、どんなセックスをしたのか、どんな風に始まってどんな射精を迎えたか、そんな事をありありと思い出す。まるで手を伸ばせば、その頃の自分たちに触れることが出来るんじゃないだろうかと思うほどに鮮明に。家に帰ってその情景を思い出しながら熱くなったものを処理しようとシャワーを浴びた。ぞくりと体が熱に震え、いよいよ射精するという時に思い出されるおなまえさんの声。なんでもない、食事をしている時の会話の断片。『貢広くん』キッチンに立っているおなまえさんがこっちを振り返った時の優しい顔がよぎる。そのとたん俺のちんこは萎えてしまって、不完全燃焼に終った。シャワーの打つような音だけが響く。ああ、俺は。俺はこんなにも…貴女に依存していたのか…



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