私はいつまでも女の子で、貴方はどこまでも男の子だったから
高校に入ってから、お盆休みには藤くんのお家(すっげぇ広い…!!)で飲み会?っていうか、ご馳走囲んでジュース飲んでしゃべってしゃべって花火して暴露しあって笑ってしゃべってジュース飲んで笑ってしゃべってなんかお菓子食べてジュース飲んで笑って笑って空が明るくなってきた頃に眠って、お昼過ぎに起きて片付けをしてさようなら。って言うのを欠かさず毎年やってた。参加者はもちろん藤くん、シンヤちゃん、花ちゃん、明日葉くん、たまに美作くん本好くん、1回だけハデス先生。そして私と安田。中学を卒業するちょっと前から付き合い始めた私と安田は、この恒例行事内での唯一のカップルで、夜中の話題にはよく使われた。下品な話題にやにや笑いながらのっかってる安田と、そんな安田をぽこぽこ叩いて、でもやっぱり笑ってる私をみんなは「ビョーキカップル」って呼んだ。そんな風に呼ばれたって、私も安田も一度だって怒ったことなかった。だってそれは本当だったし、嫌だと感じたことも無かったんだから。みんなが眠たがる明け方にはこっそりキスしたり、お互いのおなかをさすり合ったり、ぎゅうっと抱きしめあったりしてみんなとは違う、もっと特別なことを確かめ合った。若くて、恥ずかしくて、とってもステキな時間だった。

私が久しぶりに常伏に帰ってきたのは夜中の2時。ああ、眠たい。お盆休み、たまには常伏に帰って来いとの母上命令。最後に帰ってきたのはいつだったか。ああ、成人式のときか。なつかしい。最後に飲み会(今度こそ本当の飲み会)をやったのはもう2年前の冬だったのか。なつかしい。花ちゃんは元気かな?シンヤちゃんはまだ裁縫をがんばっているだろうか?明日葉くんは背伸びたかな?藤くんは…彼はもともと大人っぽかったからな…面倒くさがりなところが直っているといいな…。がらごろと日用品を詰め込んだどでかいスーツケースを引いて夜中の暗い道を、歩きなれた実家への道を進む。見慣れた景色(夜だけど)見慣れた家並み(夜だけど)見慣れた風景(夜だけど)。そこかしこに懐かしくも恥ずかしい、みんなとの、安田との思い出が染み込んでいる。ああ、安田は元気だろうか?実際のところ安田のことしか考えていない。みんなのことも気になるのは確かだけど、9:1で安田の事ばっかり考えてる。最後にあったのは2年前。高校を出て、遠くの大学に行くことになった私は出発の日の朝まで安田とセックスし続けた。くっついて離れなくなっちゃうってくらいにぐちゃぐちゃがっついてしがみついてキスしてキスして腰振って抱きしめてキスして泣いた。遠距離恋愛の距離を、感じさせないよう、感じないよう。今日はもう寝て、明日の朝一で安田に連絡して会いに行こう。

成人式の日にお互い晴れ姿で久々の対面。ああ、お前は本当にかっこいいな。おなまえも、めちゃめちゃ綺麗。どの位?みのりちゃんくらい?今ここで押し倒して着物脱がせてみんなの前でむちゃくちゃに犯せるくらい。だめだよ。だめか。うん、だめだよ。…だめか。うん。中学校の体育館でシンヤちゃんや花ちゃん、明日葉くん、藤くん、美作くん、本好くんと会って、ハデス先生とおしゃべりして、藤くんのお家にお邪魔して飲んだ。飲んで飲んで、昔話に花を咲かせて、咲かせて、枯らして。今なにしてんの?これからどうすんの?いつむこうに帰るの?どのくらいこっちにいられるの?ひさしぶりだね。そういえばこんなことがあったよ!ああ、あんなこともあったね!なつかしい。そういえばさこいつ!あ、私なんかね?!笑って笑って笑った。2年の時間と距離を埋める。埋める。

夜中に藤くんにお手洗い借りるねって断ってから、みんながいる部屋から離れたところの暗い廊下で安田とセックスをした。私は振袖のまま、安田は袴のまま。廊下だから寝転べない、みんなが居るから声を出せない。制限ばっかりの中のセックス。久しぶりのセックス。安田とのセックス。あ、あ…やすだッやすだッ!おなまえ、あんまでけぇ声出すと…聞こえるぞ?やッあん、ぅあッやす、だぁッ好きぃ…うん、俺も…おなまえッ…俺もッぅ…あっあっ…だめッあっ!!2年の時間と距離と、寂しさと辛さと悲しさと心身ともにぽっかりと空いてた私のあなを安田が埋める。キスしてわけも無く泣いて。着崩した着物なんて直せるわけ無いから、二人ともぐちゃぐちゃのまま部屋に戻るとみんなに「ビョーキカップル」呼ばわりされた。ああ、懐かしい。安田はにやにやいやらしく笑って、私はそれをぽこぽこ叩きながらやっぱり笑った。2年前の冬、安田に最後にあった日。

「藤くーん!!ひどいよッ!!なんで私には連絡入れてくんないの?!」
「あ、おなまえちゃっ…!!ご、ごめんね藤くん!」
「花巻は悪くねぇじゃん。てかみょうじ、安田は?」
「はー?知らないよ?私今朝、花ちゃんからメールもらってついてきたんだもん。安田とはもう1年くらい連絡とって無いけど…?」
「えッ…ああ、そうなの…?」
「うん、おととしの春に電話したのが最後…かな?」
「藤くん、どうかしたの?」
「あ、いや…」
「あー!!おなまえちゃんッ!!みくちゃんもッ!!」
「あー!!シンヤちゃーん!!久々ぁ!!」
「わああ!!本当にッ!!」
「入って、入ってッ!!お料理運ぶの手伝ってよッ」
「もちろんッ!!」

藤くんはなんだか変な顔してたけど、安田と連絡取れなかったのかな?だったら美作くんとかに聞いたほうが確実だと思うんだけど…。朝一で安田に連絡しようと思ったらその前に花ちゃんから連絡が来た。なんだなんだ?藤くんのお家での飲み会が2年ぶりに今日やることになってるんですけど、おなまえちゃんは来られそうですか?来られますッ!!行きます!!でもさ、このメール当日にするメールじゃないよね?さすが花ちゃんと言うか…うん。やっぱり花ちゃんだなあ。久しぶりに会った花ちゃんは相変わらずふわふわ可愛くて、藤くんはさらにイケメンオーラが荘厳なものになってて、シンヤちゃんは髪をさっぱり切ってTHE・さわやか!!お座敷でくつろいでた美作くんは相変わらずぽちゃぽちゃで、でも紳士だった。久しぶりー!!って言うとなんかみょうじちゃん、また可愛くなっちゃったんじゃねぇ?!ってほめてくれた。本好くんは?来てねぇよ?。ええ?なんで?!本好くん大学だよね?!じゃあお盆休みじゃん?!ああ、来たがってたけど教授の手伝いがあるんだと。すげぇえ!!教授の手伝い?!本好くん常伏の生んだ最後の天才だねッ!!ん?うん、まぁ、最後かどうかはみょうじちゃんが決めていいことじゃなくね?

「なぁ、おい花巻、鏑木!」
「ん?花ちゃんなら母屋のほうに大皿取りに行っちゃって居ないわよ?」
「じゃあ、鏑木だけでいいからさ…!!」
「どうしたの藤くん、なんか慌てちゃって…らしくなーい」
「いやいや、あのさこの間俺が安田に今日のこと電話したとき『彼女連れてっていいか?』って聞かれたんだよ」
「ふんふん。ん?おなまえちゃんのこと?」
「だと思うだろ?だから俺『当たり前だろ』って言ったんだよ。」
「うん…え?でも安田くん、まだ来てないわよ?」
「…みょうじは、花巻から連絡来るまで今日のこと知らなかったって…」
「えッ…それって…!!」

美作くんとおしゃべりしてると氷水が入った大きな桶に缶ビールいっぱい冷やしたのをよいこらよいこら、明日葉くんが運んできた。おお!!明日葉くん背伸びてるッ!!そして気が利くッ!!藤くん達には失礼して先にいっぱい頂きます…!!ぷしゅっ!!

「おっじゃまっしまーす!!」
「こぉんにちわぁん」
「げッ安田…」
「安田くん…」
「え?なになに?なんで藤と鏑木玄関で俺のこと待っててくれてんの?そんなに俺のこと好きだったっけお前らッ?!」
「きゃっははあ!!みっくんおもしろぉいッ」
「あ、ほんと?今のウケた?」
「うんッ!!みっくん超おもしろぉい!!だぁい好きッ」
「おいおい、友達の前だって!まず紹介ッ!あっちのイケメンが藤で、こっちの背高い女の子が鏑木。で、この超可愛い俺の天使が、俺の天使!エミちゃんでぇーすッ!!」
「エミでぇす!みっくんの彼女でぇす!よろしくねぇ」

「ふ、ふじくん…」
「…俺…なんか、大変なことしたかも…」

花ちゃんはおばあ(藤くんのお家のお手伝いのおばあちゃん、昔から仲良くしてる!)についてって大皿取りに行ったままなかなか帰ってこないし、藤くんもシンヤちゃんもどっかいっちゃって寂しいから、明日葉くんが止めてるの無視して美作くんとがぶがぶお酒飲んでると、しゃッとふすまが開いて人が入ってきた。安田と、その腕に大きなおっぱいをむにゅうんと接触させている唇ぽってりえ、お前それ服?ああ、下着かと思ったよあっはは!って言う格好した女の人?おっぱいの化身?みたいな人が立ってた。え?あれ?私もう酔ってる?美作くん、ねぇ、私酔ってる?酔っ払ってる?今あの女の子が安田の彼女でぇす!みっくんの彼女でぇす!安田の性欲の処理してむぁあす!見たいな事言ったように聞こえたんだけど、ねぇ美作くんッ!!私酔ってる?!酔っ払ってる?!幻聴幻覚が見えてる?!…?!ねぇッ!!美作くん…!!

「え、あ…安田お前…」
「あ、え?!…おなまえ…みょうじおなまえッ!!」
「みっくん、あの子だぁれ?」
「みょうじちゃんッ…!!」

私は飲み残したビールをそのままにして、困惑してるけど隣で怒ったオーラを見せてくれる美作くんと衝撃のあまり手に持ってた缶ビールをずるりとたたみの上に落としちゃった明日葉くんを置いて、桶からビールを3本ほど拝借して、走って、にげた。

汗がたれる。だぼっとした薄い生地のTシャツがべったりと背中に、胸に張り付く。短パンの中が蒸れて、パンツがべたっとおしりにひっつく。ビールを抱えてる腕だけが冷たくて、あと他のところは余すことなく熱く、腫れあがるようにじくじくと汗をかき、と同時に、この世の終わりの冷たさを感じてた。安田に新しい彼女が居る。私は?分かれた覚えは無い。だってそれ以前に会っても、話してもいない。ひさしぶりに安田に会えることを喜んでた自分がバカのようだ。間抜けなピエロだ。でも、美作くん達のあの様子からすると…知らなかったんだろうな…。中庭の池が見える縁側までにげてきて、ビールを飲む。のどにしみる。体にしみる。頭がガンガンする。目がギンギンと痛む。うまく呼吸が出来ないのにビールを飲むのをとめられない。だって飲んでなきゃやってやれない。ああ、このまま意識が飛んじゃうくらい酔っ払って眠って、起きたら全部忘れちゃってればいいのに。そしたらまた、遠くに引っ越すから。

気がついたら汗をかいてぬるくなったビールに囲まれて寝てた。汗で体中がベタベタする。目を開くと藤くんが居た。ああ、ごめんね。あんなふうに居なくなって、心配かけるよね、ていうか迷惑かけるよね。ごめんね、せっかくの楽しい行事なのに…。

「平気?」
「…」
「大丈夫?」

違うの、酒やけで声が出ないだけ。泣きそうになって声が詰まってるわけじゃないの。藤くん、だからそんな心配そうな顔で見ないで。私がかわいそうな人みたいに思えちゃう。藤くんに、みんなに甘えたくなっちゃう。だめだめ、これは私と安田の問題だ。

「悪ぃ…。安田、彼女連れてくるって…俺てっきりみょうじの事かと思って…」
「あー、いいよ。藤くんは悪くないから」
「…花巻たちも心配してる。戻ろうぜ?」
「ごめん…顔、こんなぐちゃぐちゃで行けないや」
「そんなの気にする仲じゃねぇだろ」
「…うん、ッうん…ッ!」
「…落ち着いたら、戻って来いよ?」
「…池、入っていい?足浸すだけだから」
「はぁ?池って…あれ?汚ぇよ?」
「いいよ、足冷やしてちょっと落ち着きたいだけ」
「…分かった。おばあにタオル用意してもらっとくから」
「うん、ありがとう」
「…溺れんなよ?」
「私体育5だよ」

安心したように、藤くんは部屋に戻っていった。別に私は自殺志願者じゃない。本当に足を冷やしたいだけなんだ。縁側から降りて、コケが生えた土の上を歩く。生臭い池独特のにおいを放つそこに足を浸すと、ああ、冷たい。気持ちがいい。何度かぬめりに足を滑らせてこけそうになる。中心に向かって歩いていくと、プールみたいにゆっくりと深くなってて、無性にもぐりたい気持ちになる。でもだめ。藤くんに、足だけって約束したんだ。足を大きく動かしてわざと池の水面をばしゃばしゃと騒ぎ立てる。あーたのしッ!!童心に返ったようだねッ!!って一人で酔いに任せて、ふぅふぅー!!ってテンション上げてたら、すぐそこの障子の向こう側で、女の人の変な声が聞こえた。びっくりして足を滑らす。ごぼごぼごぼごぼごぼ…へんなふやふやが浮いてる汚い池の水をがぶりと飲み込んじゃって気持ちが悪い、急いでいきあがるといろんなところに小さな水辺の昆虫がぺとりぺとりと引っ付いてた。でも、私はそんなの気にならなかった。気にしていられなかった。

「んぁッやぁ!みっくぅん」
「なに?人ん家で興奮してんの?」
「やッ、ちぃがぁうッん!みっくんがッじょーず、だかッあ」

ざばざばざば。私は池の中を走った。服も短パンも、ブラもパンツもベタベタではだにぺったり。ためらうことなく、そのままの格好で障子を突き破ってそのあんあんにゃんにゃんな部屋に飛び込んで、藤くんの伝統ある趣あるすばらしき木造建築!の神聖な一室で素っ裸で性器をこすりつけあってあんあんにゃんにゃんしてる二人の片方・安田の顔面に飛び膝蹴りをかました。歯がひざに当たる。痛い。安田は口の中をきったのか、それとも鼻血か知らないけど、出血して、女から抜けちゃったちんこまるだしにしたまま痛がった。私ははぁはぁと息するのでいっぱいで、驚いた女がでかい声で叫んだ。藤くんやシンヤちゃん達が走ってきてびっくり。私は安田を殴ろうとして一生懸命顔の血をぬぐってる安田に飛びかかろうとしたら藤くんに後ろから羽交い絞めにされて、シンヤちゃんに前から抱きつかれてとめられた。美作くん明日葉くん、花ちゃんが部屋の外で呆然と立ち尽くしてる。私は、こみ上げてくる気持ちを言葉を一切抑えることなく安田に向かって吐き出してやった。

「ばかッ!!安田のばか!!裏切り者ッ!!わた、わたしッ安田に会えるの楽しみにしてたのに…!!2年間さみしくっても頑張って、アルバムとか、昔のメールとか見てお前のこと思い出して、そうやって過ごしてきたのに!!ずっと忘れたことなんて無かったのに!!連絡してこないから忙しいのかなって思って連絡できなくて、それもすごい寂しかったのに!!でも安田の邪魔したくない迷惑かけたくないって思って…そう思って!!お前のこと思って我慢してたのに!!なんで裏切ったの?!信じられないッ!!藤くん達に迷惑かけてッ!!なんで!!もうお前なんて大ッ嫌いだッ!!お前も私と一緒だと思ってたのに!!同じくらい好きあってると思ってたのに!!安田なんて嫌いだッ!!しねッ!!もう二度と私の前にあらわれんなッ!!しねッ!!しねっ!!だいっきらいだッ!!その女とセックスのしすぎでしねッ!!おまえなんて、安田なんてだいっきらいだッ!!」

ぼろぼろ涙流しながら、足をばたつかせて腕を振り回して叫ぶ私を藤くんもシンヤちゃんも放してくれなかった。ああ、迷惑かけてるのは私だよね。ごめん、ごめん。むすっとした顔で私の叫びを聞いてた安田がぼそりと何かつぶやいた。なんて言ったかわかんない。ああ、だめだ。こんな風にみんなに迷惑かけるくらいなら、さっき藤くんに甘えておけばよかった。こんな池臭くて暴力であきらめの悪いかっこ悪い姿をさらすぐらいなら、みんなに迷惑かけるくらいなら…女の子みたいにすんすんしおらしく泣きながら、藤くんに抱きついて慰めてもらえばよかった。藤くんはきっとそのために来てくれたんだろう。ああ。なんて優しいんだろう。もっと涙が出た。暴れるのをやめると、藤くんとシンヤちゃんはゆっくりと私を放してくれた。その瞬間、私は走り出した。

服もベタベタのまま、髪も変な水草がついたまま、小さな虫をひっつけたまま。はだしで焼けるように熱い道路を走った。私からはぼたぼたと水が滴り落ちて、私が走った後を黒い反転で印した。ぼろり、ぼろりとまだ涙が出る。安田安田、お前なんて大嫌いだ。わたしはずっと、お前のことを思ってお前のことを待ってたのに、お前は私のことなんてすぐに忘れてほかのおっぱいに飛び込んでいったんだ。大嫌いだ裏切り者。大事な思い出が詰まった、大事な場所でお前は私と、私の大事なものをぶち壊したんだ。嫌いだ、大嫌いだ。しねばいいと、本当に思う。思う、思うはずなのに。大嫌いなお前のためにこぼれる涙が、いつまでたっても止まらないんだ。私は道路にうずくまって、酒やけ特有のあのがらがらという音で泣き喚いた。止まらない。私の思いも、涙も。お前も。

俺だって…おなまえのこと待ってたのに…

髪から滴った水滴が、道路に落ちて、しゅっと消えた。

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