ダークサイドにつれてくよ
忘れ物をとりに戻った教室午後4時47分。夕陽のオレンジを染み付けたその部屋には同じくオレンジに染まった机と椅子が使っている人達の人格を映して列を無視してぐちゃぐちゃになっていた。もうすぐ施錠時間。そのうちに誰か先生がかちゃかちゃと鍵を揺らして来るはずだ。

「あ。安田くん」
「お!!おう!!」

そこには安田くんがいた。安田貢広くん。私の席の前の席。机にへばりつくみたいな格好でなんか一生懸命に落書きしてる。

カンニングしたり女風呂覗いたり色々おいしい男子学生希代のエロリスト。アイドルオタクで頭春なエロリスト。面白いけど彼氏にはしたくないかっこいいけど関わりたくない藤くんの方がいいってみんなは言うけど私は安田くん好きだ。私に気付いた安田くんはびっくりして顔を真っ赤に汗だらだらにして変な笑いかたした。

「なにしてたの?」
「あ-、お前誰にも言わねェ?」
「…うん」
「あした小テストあるだろ?その準備だよ」
「またカンニング?」
「今度は自力だぜ!」

誇らしげに胸を張る安田くん。バカでかっこいい。好きだなあ…。前後の席に座ってカリカリ机に仕込みを続ける安田くんの背中を眺めている。細く見えてやっぱり男の子。たくましい。

「ねぇ」
「ん-?」
「もしもさ」
「もしも?」

話しかけても安田くんはこっちを向かない。かりかりかり。右の肩がたまにゆれるだけだ。返事はしてくれるけどどっか上の空。

「明日この世界が終るとしたら。安田くんならどうする?」

「はぁ?!なんだそれ」
「もしもだよ」

かりかりが止む。んむむって安田くんが悩む。シャーペンをくるくる回す。安田くんの細くて長い指はペン回しに向いてる。

「ん-!!家帰って保存してある熱子のグッズ全部出して愛でて…ぁあ!!わかんねェどうすっかな-美作達に会うかも…ん-だめだこれ以上悩むとまた病魔にとりつかれそう…」

そうやってなんか不完全燃焼した安田くんはまたかりかりをはじめる。

「みょうじなら何すんだよ?」
「私なら」

安田くんの背中に手を当てる。

「安田くんとえっちな事したいと思うよ」

ぼきっとシャーペンの芯が折れて安田くんの頭ががばあっと持ち上がった。ぐわっと体を椅子の上で回転させてやっとこっちを向いてくれた。顔がまっかだ。私もだけど。午後5時前の夕陽の所為だ。

「な、ななな!!おま」

「もしもだよ」

私は席を立って走って教室を出た。安田くんかっこよすぎて見てられない。明日の小テスト背中に答えなぞってあげようか?廊下をスキップしていると施錠当番のハデス先生とすれ違った。

「先生さよおなら!!」
「はい。みょうじさん、さよなら」

明日から新しい世界が始まる。良いも悪くも私にも貴方にも。



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