42
 振り返った先にはいつもの眠そうな表情のココーがいた。
「久しぶり、ちょっと友達捜しているんだよ」
「友達? ……臭いな」
「うるせー、この無職!」
 乏しい表情にあからさまな不快の色を浮かべるココーに、セツの怒りが炸裂する。
 そもそもそれぞれの配属を決めたのはココーである。彼のどう言った基準か分からぬ配置で、ケミは女中、クサカは執事、クロハエは騎士で、セツは庭師となった。
 ケミとクサカは不満は無いようだが、クロハエは面が入らないからと自慢のアフロを刈られたりという窮地に晒され、セツは見ての通りの結果となった。
 しかも、本人は「働きたくない」というふざけた理由で職に就いていない。セツの怒りが爆発するのも無理はない。
「言っただろう、俺は他者と関わるのが好きではないと」
「胸張って言うあんたの神経を疑うよ。そんなんだから、あんたは喋り方があれなんだ」
「だが、情報収集はしているぞ」
 鼻を鳴らすその姿がどこか得意げに見えて、セツは少しココーのことが可愛いなと思った。
 無論、腹は立っているが。
「じゃあさ、レイールって子がどこにいるか分かる? お姫様みたいな子」
「レイール? 姫なら五階だが、妃と旅行中で長らくいないぞ。離れの塔にならそんなのがいたが」
「あれ、お姫様じゃなかったのか」
「ところでセツ、友達と言ったな」
 不意にココーが顔を寄せる。が、やはり臭うのかまた離れる。
「お前が城に行く際に言ったな。人と深く関わるなと」
 確かに、それぞれが仕事に就く際、セツはココーに「人と深く関わるな」と、やけに真剣な口調で言われた。
 その事をすっかり忘れていたセツはしどろもどろな返答をしながら目を反らす。
「俺たちは潜入捜索をしている。万が一にでも情報が漏れたらどうなるか、分からない筈はないだろう」
「……分かっているよ」
「俺たちは奴らと違う。幾ら親しくなったとて、俺たちが魔物だと分かれば手の平を返してくる。不用意に、近づくな」
 改めて自分がヒトではない事実を突きつけられ、心が軋む。
「違うったって、そんなに変わらないじゃないか。姿も、形も、皆と変わらない」
「ヒトは暗闇で物が見えるか? 刀傷が一日二日で直るか? 特殊な能力を持っているか?」
「そ、それは……」
「人は昔から自分達とは異なる物を拒絶してきた。この世界を見てみろ。動物達は、例えば鳥でも沢山の種がいる。だが、人はたった一つだけだ。肌の色や髪の色は多少のばらつきがあるが、角が生えていたり、腕が多いといった種はいない。これが、奴らが排他的である何よりの証拠だろう」
 あまりの正論にぐうの音も出ない。
 けれど、このまま引き下がるわけにも行かなかった。
「んな事知るか!」
 勢いよく吠えると、セツは帽子をココーに投げつけた。
「そんなヒトと私たちの境界線何かクソ食らえだ! 私はレイールと仲良くしたい、それだけなんだよ。それに決まりも境界線も関係ない!」
「……惚れたのか?」
「ぅあほか!」
 とんでも発言に突っ込みより先に軍手が飛ぶ。
「あの子は、何か私に似ているんだよ。何だか心配で、放っておけない」
「そうか?」
「外見の話じゃないっての! 悪かったな、ちんちくりんで!」
 不思議そうに上から下まで観察するココーに突っ込みを入れ、セツは繋ぎを脱いで半袖とスパッツといった身軽な格好になる。
 臭いが染み込んだ繋ぎを脱いだおかげで、異臭は随分ましになった。
「とにかく、私はちゃんとレイールと話してくる。場所教えてくれてありがとう。あと、よろしければその服、私の家に持って行ってください。じゃ!」
 これ以上ココーの正論を聞いていれば、心が挫けてしまいそうだ。
 そう判断したセツはまくし立てるように意見を述べると、脱兎の速さで塔に向かって走り去る。
 残されたココーは周囲に散乱した服を手に取り、臭い。と、うんざりしたように呟いたのだった。

 ・

 無事に塔にたどり着いたセツは、やけに厳重な警備をかわしつつ、塔の東のバルコニーを目指して慎重に壁を登っていた。
 幸い、塔は古い煉瓦造りのため、よじ登りやすい。ただ、隠れる場所がないため、少しでも顔を上げられるとすぐ見つかってしまうという、決定的な短所があった。
 ともあれ、ここまで来れば、後は登るしかない。決心を固めたセツは、最悪目の前の湖に身投げをしようと考えて、バルコニーの縁を掴んだ。
「どうか、いますように……!」
 半ば願うようにして、セツは小石を部屋の窓へ向けて投げる。
 カン、カン……。乾いた音が続けて鳴り、そして部屋の奥からコツコツと足音が近づいてきた。
 カチャリ。
 鍵が開く音がして、誰かがバルコニーへと歩いてくる。
 バクバクと暴れる心臓を押さえつつゆっくりと顔を上げる。
 見上げた先には逆光に照らされた……、
「おかしいですね。確かに音はしたのに……」
 レイールとは似ても似つかぬ、銀髪碧眼の男であった。
 誰だよお前。心中で毒づきながら忌々しそうに男を睨む。と、ここでセツは男に面識があることを思い出した。
 銀髪碧眼のこの男は、セツがマニャーナ国に渡来する際に一緒に乗り合わせていたのだ。
 それならば何も問題はないのだが、男は船が魔物に襲われた際に魔物をマストに縛り付け、ナイフでダーツ代わりにして遊ぶという、あまりに残虐な遊びをしていたのだ。
 ーー何であの変態野郎がいるんだよ! しかも制服を見るに騎士団かよ!
 思いがけぬ再会に、望まぬ再会にフラストレーションがただただ溜まっていく。
 けれど、その思いも次に聞こえた声でかき消される。
「どうでした?」
「ああ、レイール様。何もありません。きっと風で小石でも当たったのでしょう」
「そうですか……」
 その涼やかなややハスキーな声は、間違いなくレイールのものであった。
 ああ、レイールの声だ。やっと、やっと会えたんだ。
 まだ顔を見ていないにも関わらず、歓喜の思いが胸にこみ上げる。
 しかしここで気を抜いて落ちでもしたら一大事である。そう思い、気を引き締めると耳に神経を集中させて、男が部屋から出ていくかどうかを探る。
 もう手も足も限界に近い。あと五分持つかどうかも怪しいところだ。
「では、失礼いたします」
 結晶で足場を作ってみようかという事案が浮かんだ頃、待ちに待った言葉と共に、男が去って行く足音が聞こえた。
 好機到来。
 残された僅かな筋力を使って、セツはバルコニーを乗り越える。硝子越しに見る二週間ぶりのレイールは心なしか痩せたように思えた。
 レイールは読書に夢中のようでこちらには気付いていない。再会の嬉しさと不安を抱きながら、セツはゆっくりと深呼吸をし、そして窓を軽くノックした。

『クロの約束』
 黒い獣と、少女の可愛らしい挿し絵が描かれているこの絵本は、レイールが母と過ごした塔から持ってきた数少ない荷物の中の一つであった。
 薄い微笑みを浮かべながら、レイールは年期の入った絵本をめくる。

 ーーある朝、少女の家の前で黒い獣が倒れていた。
 少女が手を差し伸べると、獣は牙を剥いて威嚇するが、弱っているためにすぐうずくまる。
 少女はその獣を知っていた。
 その獣は、お尋ね者の獣の一匹だったからだ。
 獣を役所に突き出せば、沢山のお金をもらえる。でも、少女は獣を何とか宥めると、役所ではなく自分の家の中へと連れて行った。
 少女が連れてきた獣を見て、お父さんとお母さんはとても驚いた。
 けれど、心優しい少女の両親は直ぐに獣に手当をして、暖かいご飯を与えた。
 家族の思いが通じたのか、初めは凶暴だった獣も、時間が経つにつれて家族に心を許し、大変良く懐いた。
 クロと名付けられた獣は怪我が治って群る際、少女に一つ約束をした。
 それは、少女を守ると言うこと。
 少女は別れに涙を浮かべながらも、クロの約束に嬉しそうに笑った。
 そんなある日、少女の家族は突然村の人々に捕まった。
 村人の一人が、少女の家族が獣を匿っていたのを見ていたのだ。
 元々、違う場所から越してきた少女の家族に、村の人々は冷たかった。
 少女たちを好いていない人々は、厄介者の排除だと言い、無抵抗の少女の家族を張り付けにして、矢で射殺す事にした。
 多くの村人が見る中、弓矢が引かれる。

 コン、コン。
 すっかり絵本に夢中になっていたレイールは、微かに聞こえた音に我に返る。
 何だろうとバルコニーの方へ顔を向けると、そこには二週間会うことを絶っていたセツの姿があった。

 ーー何故、どうして。
 震える手で鍵を開けて、ゆっくりと窓を開ける。
 僅かに開けると、セツはその隙間に手を差し入れて窓を力強く開けた。
 途端、大きな風が部屋へと舞い込み、レイールの美しい髪、カーテン、開けたままの本のページがパラパラとめくれた。
 風が止み、本のページはクロが射抜かれる直前の少女の前に立ちふさがる場面で止まる。
「久しぶり」
 二週間ぶりに見るセツは、以前と全く変わらない、太陽のような暖かさを持っていた。
 思っても見なかった再会に、望んでいなかった、けれどどこかで待ち望んでいた再会に、心が躍る。
「貴女がクロだったら……!」
 気がつけば、レイールはまだ窓際に立ったままのセツの体を、強く強く抱きしめた。
 当然、このような激しいスキンシップに慣れていないセツは粟を食ったかのように驚き、慌てふためく。けれどレイールは離さなかった。
 離せば、セツが消えていくようで。そして自分もまた、昔のように閉じこめられてしまうように思えたからだ。
 やがて観念したのか、セツは懸命に動かしていた腕をそっとレイールの肩に回す。そしてまるでやや子をあやすように、ポンポンと体を叩いてやる。
 途端、レイールの目から大粒の涙が流れ落ちた。
 それはレイールの頬を伝い、髪を伝い、そしてセツの上に落ちる。
「れ、レイール?」
「すみません、すみません、ごめんなさい。もう少しだけ、こうさせてください……!」
「……ん、分かった。泣け泣け、そして言いたいことあれば言え」
 セツの不器用な優しさに甘え、レイールは泣きに泣いた。レイールがこれほどまでに泣いたのは、母が亡くなって以来の事であった。

 ・

「落ち着いた?」
「はい、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません……。そしてその、会いに行けなくて、ごめんなさい」
 ひとしきり泣いたレイールは、部屋の中央のテーブルで目を真っ赤にして縮こまっていた。
 美人は泣き顔も綺麗なんだな。と、全く関係のないことを考えながら、セツはレイールが出してくれた紅茶を啜る。
 ちらちらと落ち着き無く視線を反らしているのは、先ほど抱きつかれたせいか、どうもレイールの顔を真っ直ぐ見る事が出来ないからである。
「本当は、誰にも言わないでおこうと思っていたんですけど、セツさんには言っておきたいことがあるんです」
 良い匂いだった、思ったより胸がなかった、髪の毛がくすぐったかった……雑念だらけのセツの手を握り、レイールは真剣な表情で見る。
 手を握られ、心臓が飛び出るかと思った。
「私は古い約束だと、以前言いましたよね。あれは聖戦後、三千年にも渡って守られている、この国の決まり事なんです」
「決まり事?」
「はい。この国には王家の子ども、ある特徴を持って生まれた子を人身御供にする習わしがあります。若き肉体と血潮を捧げ、賢者の力にあやかろうとするものが」
「何がどうなったら生け贄と賢者の力が結びつくのさ……」
 あまりに蛮族めいた行為にうんざりした様子のセツだが、不意にレイールが握る手に力が入った為に、慌てて正面を向く。
 何故か、レイールは顔面蒼白で、ガタガタと震えていた。
 慌てふためくセツの前で、レイールは思い詰めたように淡々と、けれど重々しく、今まで誰にも言えなかった胸の内を告白する。

「古い約束は、つまり賢者とこの国との約束、人身御供です。王家に生まれし、金色の髪、もしくは橙の目をした者を20の誕生日に捧げる。それが、古い約束である私の使命です」

 あまりに強烈な告白に、頭の中が真っ白になる。
 約束? 賢者との? 人身御供? レイールが、死ぬ?
 単語一つ一つがパズルのようにゆっくりと重ね合わされ、やがて一つの形になったとき、セツの胸に言いようのない怒りがこみ上げてきた。
 こみ上げた大きな怒りはセツの胸を荒らし、そして忘れられていた記憶を刺激する。
「また、また奪うのか! 私たちの命では物足りず、他の、レイールの命まで奪うのか! いい加減にしろよ、いつまで私の前に立ちふさがるんだ。ミーシャも、クレオも、カンナも、私は救えなかった……。守るって、約束したのに……っ!」
 気がつけば、セツは大粒の涙をこぼしていた。言いようのない感情に胸が圧迫されるようで、息さえまともに出来なくなる。 
 その脳裏には、群衆の中で血塗れになって倒れる、もはや原型さえ留めていない三人の躯があった。
 ミーシャ、クレオ、カンナ。彼らはセツがとても大事にしていた、守ると決めていた存在。しかし、セツが駆けつけた頃には、彼らは残虐な拷問の末に息絶えてしまっていた。
 何故、彼らを守ると決めたのかは思い出せない。けれど、確かにセツは約束したのだ。彼らを、守ると。
「約束を守れなかった私に、もう何も言う資格は無い。でも、でも、レイールは失いたくない。これ以上約束を破りたくない。レイールも守れないなんて、嫌だ……」
 まるで子どものように泣きじゃくるセツをそっと抱き、レイールは小さく呟いた。さっきとはまるで立場が逆になっている。
「母を失ってからというもの、今までの私はただ国のため、父のために死を待つ人形のようなものでした。生きていても、母のいない世界に、閉ざされた小さな世界に希望を持てない。ならば、母の待つ死後の世界に行った方が幸せだ。そう、思っていました」
 セツを抱く手に力がこもる。
 声が揺れる。
 体が震える。
 ああ、レイールも泣いているのだ。
「でも、セツさんに会って私は初めて生きたいと思いました。セツさんの語る世界を見たい、色々な物を知りたい、もっと、セツさんと一緒にいたい……。そう思えるようになったのです。だからこそ、父のために立派に古い約束としての役目を果たそうと思っていた私にとって、セツさんは重荷だったんです」
 まだ、生きたいと思ってしまうから。
 そう言ってレイールは体を離す。
 少し顔を見ていなかっただけなのに、レイールの顔は以前の頼りないものから、凛々しいものへと変わっていた。
 そしてそこから覗き見えたはっきりとした覚悟に、セツは心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。
 もし、レイールが約束を果たすと決めたなら……。
「セツさんは、私にとってクロなんです。だから、私は生きます。生きて、今まで諦めていた先を見たいんです」
『クロ!』
「ミーシャ……」
 にっこりと、夕日のように優しく微笑むレイールに、金髪の少女の顔が、声が重なる。セツが守れなかった少女は、レイールの中で面影として生きていた。
「うん、守るよ。今度こそ守る……! 生きようね、見えなかったこの先、絶対見ようね。見させてあげるからね」
「はい……!」
 輝く夕日のような目を見つめ、セツはレイールに、自分に向けて約束を結ぶ。
 それはとても美しく、力強い光景。けれど、セツはこの狭すぎる距離に戸惑いを感じていた。その証拠になにやら頻繁に身をよじっている。
 しかし、それに気付いていないのか、レイールはセツとの距離を開けない。否、むしろ狭めているように見える。
「あ、あの、レイールさん……!」
「レイール様、何やら騒がしいようですが……」
 互いの距離が鼻一つほどになった頃、遂に絶えかねたセツが悲鳴に似た疑問の声を上げる。
 と、ほぼ同時にしてレイールの部屋の扉が大きく開かれ、外から例の銀髪の騎士が入ってきた。

 その瞬間、室内の全ての者の動きが止まる。
 そして次の瞬間、動いたのは意外にもレイールであった。
「エウロペさん! ノックもせずに部屋に入るとは何事ですか! 今すぐ扉を閉めてください!」
「貴様なにや……! っ、レイール様!? ですが……!」
「お願いですから!」
 レイールの予想外の剣幕に圧され、エウロペと呼ばれた騎士は不満を言いながらも素直に扉を閉める。
 ただし、自分も室内に入りながら。
「どうして貴方まで入るのです……」
「え、あ、レイール様をお守りするのが自分の義務ですので」
「仕方ないですね。そこに座ってください」
「え、何この展開」
 マイペースに席を準備し、ごく自然に腰掛ける二人を見ながら、セツは思わず本音を漏らす。
 レイールとの距離が30センチ未満の自分、その隣で座る騎士。最早何がなんだか分からない。
 とりあえず自己紹介をしておき、セツはそっとエウロペの顔を見る。と、凄まじい勢いで睨まれたので、慌てて顔を逸らした。
 しかしどうも騎士が不条理なまでの警戒を放ってくるので、段々と腹が立ってきた。
「貴様、何故ここにいる」
「友達に会うのに理由なんかいる?」
「友達? 貴様のような下賤な輩がレイール様のような高貴な方と友人な訳がないだろう」
「エウロペさん、セツさんを卑下するような発言はお控えください」
「へっ、怒られてやーんの」
「セツさんも!」
 思いがけずレイールに叱責されたセツはバツが悪そうに舌を出す。
 しかし、この短期間でレイールは著しく成長した。以前の吹けば飛ぶような弱々しさは何処へやら、今では気品と気高さを備えた立派な大人だ。
 セツとエウロペが一触即発の険悪なムードを漂わせる中で、先に口を開いたのはエウロペであった。
「例えこの者がレイール様のご友人であったとしても、自分は年若き異性同士が部屋に二人きりになることは、見逃しがたいです」
「そ、それは」
「何で私とあんたが二人きりにならなきゃいけないんだよ」
「何を言っている。お前とレイール様のことだ……もしや」
 そこでエウロペは信じられないと言ったようにセツの顔を見る。
 まるで珍獣を見るような目に、船の一件もあってセツは非常に不快に思った。そんなセツを余所に、男は信じられない発言を口にする。
「お前、レイール様を女性だと思っているのか? レイール様は歴とした男性で在らせられるぞ」
 ああ、とうとうこいつは頭が浸食されたんだな。
 とんでも発言を真顔で口にするエウロペに哀れみの視線を送りながら、セツはレイールを見る。
 そこには案の定、ああ、エウロペさん……。と、あきれたように呟くレイールの姿が。
 と思ったが、レイールは恥ずかしそうに俯いて何も言わない。
 ーーおや、おかしいな。
 180度違うリアクションに、エウロペではなくセツに焦りが生まれる。
 いやいやいや、それはないだろう。だって、レイールはセツが今まで会った女性の中で、一番女の子らしい人なのだから。
「すまん、レイール!」
 自分が正しいと証明するため、セツは詫びを一言入れると、真っ直ぐに手を伸ばす。
 目指す先はそう、レイールの華奢な体の中央にある、女性ならば誰もが持つ、神秘の丘。
「……平らだ」
 しかし、セツの手に伝わったのは膨らみなど一切無い平野であった。女性にしてはあまりに無さすぎる傾斜に、むしろ男性で当たり前の板っぷりに、セツの中での何かが壊れた。
「あの、やっぱりセツさん……、私の事女性だと思っていたんですね……。私、男なんです」
 おずおずと、気まずそうに告白するレイール。その隣の、どこか勝ち誇ったようなエウロペ。
 次の瞬間、セツは窓から飛び出し、声にならぬ悲鳴を上げながらその場から走り去った。
 その姿は、二週間前のレイールと全く同じであった。


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