手折った純情 | ナノ



彼女が大学を出て、暫くぶりの来訪だった。久し振りの彼女はやはりどこまでも美しく、清らかだった。そんな彼女が、頬を染めて言った。
「恋人が出来たの」
走った衝撃は筆舌し難い。
スパークが引き裂かれんばかりの痛み。揺らぐ視界の中で、人間より遥かに優秀な瞳は、不幸にも捉えてしまう。彼女の首筋の赤い跡。散らばる所有印。瞬間、思考回路が弾け飛んだ。(汚されたなら、既に誰かのものになってしまったなら、構わないだろう?一度踏み潰された花園を、再び荒らした所で、誰が責められる?)
そして、彼らは犯した。長年の慕情を返すかのように、彼女を犯し続けた。
赤い目の者は手を出さないが止めもしない。無駄だと知っていたから。いつか壊れると分かっていたから。


彼女の身に宿るスパークか、はたまた神の気紛れか。彼女は妊娠した。優秀な軍医が軽く脳を操作すれば、最早彼女は自らの赤ん坊の存在を疑わなかった。信頼してきた仲間の裏切りは、彼女の記憶を奪うには十分過ぎた。


誰の子かなど、生まれるまで分からぬ。何も知らない彼女は、腹に巣食う化け物に、ただ愛だけを注ぎ、そして絶望するだろう。生まれた我が子の瞳の青さに。

「おめでとう、サム」
心からの言葉だった。遂に、遂に彼女は女神の座から引きずり降ろされたのだ。こんなに嬉しいことはない!
狂気に染まったの中で、彼女はどこまでも清らかに、何も知らないまま、声をあげて笑った。

幽谷に祈る花唄にて


――
やっちゃったA軍。




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