早世。その事実に例外はないのだ。
酷く重苦しい空気に喉を嚥下していく唾液が血液と絡まって、グレイは眉間に強くシワを寄せた。だだっ広い広間に集められたのは幾ばくかの人間のみ。囲まれてグレイは光を失わない瞳で虚空を睨んでいた。
グレイが生まれて早くに両親を失った。そして師範が死んだ。今度は自分の番だと、グレイはごちた。患った病は確実に身体を蝕んでゆく。ふと左胸に手を当ててみた。小さく弱々しく動く心臓。これがいつか止まるのか、とどこか他人ごとのように天井を眺めた。
「グレイ」
広間に新たに入って来た人物が、絞り出すような声でグレイを呼んだ。遅いと口にするとごめんと返ってくる。そばにいた仲間達はロキを見つけると皆一様に悲しげに瞳を伏せて、その場を離れていった。それを横目で眺めていると自分を見つめるロキの唇が動いた。
「グレイ、今日はもういいの?」
「あぁ」
そっかと呟くロキの目はゆらりと揺れて安堵しているようだった。
「グレイ?」
この病で自分が明日にでも死んだらロキはどうなるのだろう。ふとそんなことが頭をよぎった。
子供のように言葉を欲しがり、愛を欲しがるロキと、隠すことなくぶつけるグレイ。初めはロキがグレイに執着していた。だけど知らない内にグレイはロキから離れられなくなっていた。お互いがお互いの愛と欲望を欲しがり、ぶつける存在になっていたのだ。
ロキは自分が明日にでも死んだらどうなるのだろう。このまま変わらないのだろうか。泣くだろうか。叫ぶだろうか。
「なぁロキ
───俺が明日死んだらお前どうする?」
ロキの顔が歪んだ。
「俺がお前を放って死んだら、…お前は女に行っちまうのかな…」
外れたレールから戻って欲しいという気持ち。けれどそれを塗りつぶしてしまう自分以外は見て欲しくないという欲。
「女の子なんていらない。グレイさえいればいい」
「俺は死ぬって話を前提にしろよ」
「嫌だ。グレイは死なない」
長い腕が伸びてきて上半身を起こしたグレイの体を包む。半ば引きずられるようにして縮まった距離に息をのむ。
「グレイ、…死なないで。…置いていかないで…」
祈りにも似た響きの声に知らずグレイの胸がズキリと痛みを申し立てた。暖かいロキの体。目を閉じると聞こえるロキの心音。
「…ん、わかった。俺は死なないから…」
「うん」
何度も頷くロキの顔に、グレイはクシャリと顔を歪めてそっと唇を重ねた。ごめんね、と何度も心中で唱えた。重ねた唇に甘い痛みと嘘を重ねて。
─────────────
早世、その事実に例外はない。
翌朝、グレイは蝋燭の火が消えるように死んだ。昨夜重ねた唇は冷たくなり、そこからはもう嘘は紡がれなかった。
ロキから溢れた雫が、グレイの青白い陶器のような頬を濡らした。
「…ああ、やっぱり。…君は優しい嘘つきだ」
2012 0807
君がいない朝なのにいつもと変わらない世界