※グレイ酷い
「あーあ、ナツったらまたニヤニヤして。グレイさんとキスできたからってさ。」
ルーシィがからかうように言ったので、ナツはうるさいと叫ぶように返すも、その声にはどこか嬉々としたものが孕んでいた。
事実、ナツは幸福の絶頂にいるのだから仕方がない。それを見越してルーシィは突っ込んだ事を聞いた。
「てゆーか、アンタらまだキスなんだ?」
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「なんて言ってくんだぜ。あり得ねぇよな。」
ルーシィの遠慮のなさに文句を言いつつも、ナツはどこか楽しげであった。
それは今、彼の隣に彼の先輩であり、恋人でもあるグレイがいるのだから当然のことである。ナツはグレイの肩を掴むと人好きのする笑顔を見せた。
「グレイ、俺は周りなんて関係なく、俺達の感覚で進んでいければイイと思ってるし、付き合っているから必ず色々しなきゃいけないってこともないだろ?
お互い、初めてを大事にしような」
「はじめて?」
しかしながらその言葉を放った瞬間、グレイは何のことだと言わんばかりに首を傾げた。
「はっ?グレイもこういう経験無いだろ。」
「え、有るけど…」
「いや、そりゃあお前なら女の経験は有るだろうけど、男は」
「だから、有るって」
グレイは断言した。きょとんとした顔で首をかしげる。そんなグレイにナツは、絶句した。帰り道の河川敷を、冷たい風が通り抜けていく。ナツの頭には、もうすぐ秋がくるなあ、なんて今の場面には全く関係のないことが渦を巻いていた。
「ていうか、ナツって童貞だったんだな」
「…なんかおかしいかよ」
グレイの笑いを含んだ言葉に思考を元に戻し、やや食いぎみでナツが返せば、グレイはムキになるなよと笑った。
「なんか意外だなあって思ってな。ルーシィとかその辺の奴とヤってんのかと思った」
「は、なん…だよ、それ」
グレイの言葉にナツは頭痛を覚えた。その言い方は、自分が仮にグレイ以外の他人と行為をしても構わないと暗に言っているようであって。
「…グレイは、今までどれくらいの奴と…」
「お前、そんなこと気になるのか?」
「良いから答えろよ!」
少し強めに言うと、グレイは一呼吸置くと余裕たっぷりに、いち、にい、と声に出しながら指を折り始めた。最終的にグレイが数え止めた数字に、ナツは気持ちが悪くなった。
才色兼備文武両道の自慢の恋人が、裏ではこんなにも男をたぶらかしていただなんて、夢にも思わなかったのだ。
昔、グレイが飲みかけのペットボトルを渡してくれたとき、態度には出さないがあんなにも胸が高鳴ったと言うのに、あれが知らない男の精液を受け止めた口だったのかと思うと急に不潔なものを飲んでしまったという後悔が襲ってきた。
ナツが茫然としていると、グレイは両手でナツの頬を包み込み、その唇に噛み付いた。
「んんんっ!!!!」
ナツは必死に抵抗として歯を食い縛ったが、グレイは右手の親指を突っ込んで隙間をつくり、無理矢理に舌を入れてきた。
舌が合わさり、絡められ、歯列をなぞり吸い付く。それはもうナツの知らない口付けであった。鼻で呼吸をすることを知らず、息が苦しくなったナツはついにグレイを思いきり突き飛ばす。
衝撃でグレイは地面に叩きつけられるように倒れた。ナツは何も悪くないと言うのに、痛みに顔を歪めるグレイを見ると反射的に謝りそうになった。しかし、グレイの表情を見ると、ナツの謝罪は胸の内に引っ込んだ。
グレイはナツを小馬鹿にしたような、人の悪い笑みを浮かべると、可笑しくて堪らないといった様子で、こう告げた。
「お疲れ処女厨さん」
2012 0805
グレイはナツが好きとかそんなんじゃない。自分に踊らされる男の表情が好きなだけ。