「マジかよ!もうこんな時間!」



タコの形をしたウィンナーを詰める事で完成した弁当を包み、時計を見たグレイは針が指す時間に慌ててキッチンを飛び出し階段を駆け上がった。


「ロキ!!」


派手な音を立てて扉を開放ち、グレイは部屋の中へズカズカと入っていく。天蓋付きの巨大なキングベッドの上、肌触りのよいシーツを頭から被り山を作る人物の名前を叫ぶように呼び、そのシーツを引き剥がした。


「ん〜、」

「今日は仕事オフで、学校まで車で送るって言ったのロキだろ!はやくしねぇと遅刻する!!」


言いながらグレイはカーテンを開きにかかった。薄暗かった部屋に白い光が入り込む。突然の光に、窓から逃げるように背を向け寝返りを打つ人物、ロキをグレイが止めた。


「二度寝は許さねぇからな!」

「ん、僕の眠りを妨げる悪い子は誰かな?」

「バカな事言ってねぇで!早くしないと遅こっ、うわ!」


ロキの起床を促すためにその体をしつこく揺すっていたグレイの体が傾いた。原因はロキがグレイの腕を掴み引き込んだからである。グレイは重力に逆らう事なくロキの上に倒れ込む。
そのまま上半身を起こしたロキが、おはようとグレイに口づけた。


「ん…、ほら起きて飯…」

「その前にグレイを食べたいな。」

「はっ、ちょ、朝から盛るなっ!ていうか裸で寝るなぁっ!ん!」

「いいから。グレイは黙って僕とイイコトしてればいいの。」


良いわけあるかと思いつつも、惚れた弱み。キラキラ輝くロキの笑顔にしてやられ、グレイは降ってくる唇を瞳を綴じて受け止めた。






───────




「ロキの馬鹿やろう。完全に遅刻じゃねぇか。もう二限目始まってるし…。せっかく無遅刻無欠席だったのに。」

「だからこうやって車、回してやってるだろう?それに、何?馬鹿やろうって。このまま車の中でお仕置きされたいのかな。」

「な…っ、さっき散々したのにまだやる気かよ!」

「お望みとあらば、ね。ほら。お喋りしてる間についたよ。」


ブレーキ音を立てて停車した車から、グレイは礼を言いながら降りる。
学園は目の前に広がる坂道を進んだ所にあるのだが、道が狭いために車はここまでしか入れない。
ロキはカーウィンドウを開けると、ショルダーバッグを背負うグレイを呼んだ。


「いってらっしゃい、グレイ。」

「ん…行ってきます。」


小さくリップ音を響かせキスを送ったあと、ロキはグレイに微笑んで窓を閉めた。寂しさに駆られたグレイだったが、車が発進すると同時に切り替え、学園を目指し歩き出した。





「…マジかよ。」


しかしグレイの足は校舎に到着する前に止まる事となった。
校門が封鎖されている。校門脇にあるインターフォンを鳴らせば事務員が出てくるのでそうすればいい話なのだが、遅刻が初めてのグレイにそんな事分かる筈もなく。
途方に暮れたグレイは閉まりきった校門に背を向け寄っかかった。


「これどうやって中に…。だいたいこうなったのはロキが朝っぱらからあんな事するから!あのエロエロ男優!」

「おいお前。そこで何している。」

「ぎゃー!?」


突如聞こえた声に肩を揺らし振り向くと、端正な顔つきの男が立っていた。彼の左腕には生徒会長を示す腕章が巻かれている。グレイは焦った。


「あ、いや、あのー。ちょっと途中で道案内を…、そしたら遅れちゃって…」

「…、まあいい。今開けてやる。」

「へ?」


予想だにしなかった相手の言葉にグレイは唖然とした。
その間にも門は開錠される。


「何をしている。早く入れ。」

「え?あ!すみません、ありがとうございます…、」

「貴様、名前は。」

「?、グレイ・フルバスター…」

「学年は二年だな。」


学年によって色分けされたネクタイでグレイが二年だと判断した男は、舐めるようにグレイを見つめたあと、笑みを小さく零し口を開いた。


「俺はリオン・バスティア、見ての通り三年だ。よろしくなグレイ。貴様のおかげで学園生活が楽しくなりそうだ。」

「?そりゃどうも…。」

「ほら、早く行け。三限が始まるぞ。」

「あ!そうだった!えっと…ありがとうございました、失礼します」


不思議な野郎だと思いつつも今は三限に遅れてはならないと教室まで走り出したグレイ。その背中をリオンは笑みを深くし、見つめていた。














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