男同士のくせに。
そんな無粋な質問はこの際犬にでも喰わせておいてもらいたい。
そもそもどうして異性同士ではない恋人が異端として社会に迫害されているのか、忌むべきその思想の根元には某ペテン師発祥の世界宗教の概念が絡んでいるんだけど、ああこれ説明した方がいい?…やっぱり面倒くさいからやめておく。
それよりなにより今重要なのは、


(ロキさん、今日もかっこいい…)


レジカウンターでにこにこキラキラした笑顔を向ける本屋の店員、ロキさん。俺の初恋の人だ。
ロキさんはこの本屋の王子様的な存在で、いつも周りには女性店員やら女性客が群がっている。それを邪険にもせず優しく物腰柔らかに対応するもんだから、彼の人気は底がない。

そんな彼と俺の出会いは数ヶ月前に遡る。
参考書を買いにこの本屋へ訪れたのはいいのだが、肝心の参考書が並べられた陳列棚に、わずかながら身長が足りなかったのだ。腕をギリギリまでのばし、背伸びをしても背表紙には触れられない。足台を探してみても見つからず、届かない本棚に必死に格闘していたら、するりと後ろから奪われた目的の本。


「目的の品はこちらでよろしいですか?」


本当に、ベタで有り得なくて、単純だと自分でも思った。
けれど店員の瞳を見たとき、熱が集まった頬も高鳴る胸も。誤魔化す事などできないくらい、俺の心を塗りつぶしていった。
そう、眩しすぎる笑顔で参考書を手渡した店員に、俺は恋をしたのだった。




「だからって毎日これはねぇわな…」


それからというもの俺は放課後毎日この本屋に通っている。
欲しい本があるわけでもない。目的は、初恋の相手。ロキさん。
自分でも激しく痛いと思うが、自然足が向いてしまうのは仕方がない。けれど俺はこの気持ちをロキさんに伝えるつもりは毛頭ない。自分は高校生のガキであるし、何より男だ。あの彼女たちのように黄色い声を上げて周りに花を飛ばしながらロキさんに接する事はできない。それに思いを告げた所で実らない事など分かり切っているし、ロキさんに迷惑をかけたくない。
辛くないと言えば嘘になるが、こうして影からロキさんを眺めていられるだけで充分だ。
俺は、これで、いい。









─────────────


男同士だとか、そんなものこの際無視して海に捨ててやってもいいだろう。そもそも何故、同性同士の恋愛が偏見されてしまうのか。実に疑問だ。考えてみれば、すべての原因はあのペテン師にある。宗教にとらわれて周りが見えていないんだから腹立たしい。おっと、話が逸れてしまった。こんな事を言われても困るだろう。

それより問題なのは。


(あの子、今日も来てる。相変わらず可愛いなあ)


赤本を読んでいる、客である男子高校生くん。僕の一目惚れの相手だ。
男の子相手にこんな事言ったらすごく失礼だろうけど、言わせていただきたい。彼は美人だ。
日焼けを知らない白い肌に柔らかそうな艶のある黒髪。垂れがちな瞳はくっきりと二重で長い睫が悩ましい。
桜色の唇はすぐにでも塞いでやりたいし、あの華奢な身体を力いっぱい抱きしめて彼の香りを鼻孔いっぱいに吸い込みたい。
少々変態くさいが、仕方ないと思う。それくらい、彼は魅力的なのだから。証拠にほら、彼の横を通った女子高生たちが彼を見ながら頬を赤らめきゃあきゃあ言っている。本人は気付いているのだろうか。


そんな彼、男子高校生くんとの出会いは数ヶ月前に遡る事となる。
新書が出たあの日、僕は本棚を整理していた。最後のブースである参考書売り場に差し掛かったとき、僕は彼を見つけた。
一番上の陳列棚に必死になって手を伸ばし震える足で背伸びをする後ろ姿に、微笑ましいなあと思いつつ、彼の後ろから不意をつくように彼の目的であろう参考書を取ってやった。


「目的の品はこちらでよろしいですか?」


いつもの営業スマイルを向けそう言ったあと、彼の顔を見た瞬間、時が止まった。一目惚れだなんて、信じた事はなかったけれど。驚いたような照れたようなあの赤みの差した顔に、すっかり僕は骨抜きにされてしまったのだ。





「決めた。今日こそは…」



声を掛けよう。まずは名前を教えて聞いて、その後メアドを交換して。そこから徐々に彼を僕のものに。
はじめは年齢差とか性別とかに後ろめたさを感じていたが、今はもうそんな事に気をとられなくなるくらい彼の存在が大きい物になっていた。嫌われてしまったらと考えると不安だが、やって終わるのと、やらないで終わるのなら前者のほうが断絶いいし、仮にダメだったとしても諦めるつもりもない。
拳をぐっと握りしめ、一歩を踏み出す。年甲斐もなく緊張している自分に苦笑いを浮かべつつ、本を読む彼の肩を叩いた。



「ちょっといいかな」









2012 0815

恋のはじまり。
実は両思いだった。



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