飲食店でのアルバイトを終え、寒空の下ひとり歩いていたグレイはクラスメイトのルーシィを見つけた。
しかし声をかける事はない。何故なら彼女の隣には大学生から社会人と見受けられる男性がいたからだ。
それもその男性は親しげにルーシィの肩を抱き、当のルーシィも満面の笑顔を振り撒いている。
彼女の色恋沙汰を聞いた事はなく、今見ている光景は確実に大スクープだ。
グレイは好奇心のままに、二人の後をつけた。







──────





「こりゃ大事件だな。」




二人が向かった場所はホテル街だった。
おそらくルーシィはこれからあの男性と夜を過ごすのだろう。
しっかり二人がホテルに入っていくところを写メに収めたグレイは、明日が楽しみだと満足しつつ踵をかえした。
が、しかし。


「あれ、」


如何せん、高校生一人が来る場所ではない。すっかりグレイは道に迷ってしまった。
周りを見る限り、軒を連ねるどの店もネオンが眩しい水商売店で。
こんな時間にこんな場所。制服で一人ふらついていたら補導されかねないし、変な輩に絡まれたら大変だ。
人の恋路をネタにした罰だとグレイはため息をつき、とりあえず携帯のGPS機能を使おうとした、刹那。


「おにーさん可愛いね。」

「こんなとこに制服ってダメじゃない?」


複数の男に囲まれた。
うわ、やっぱり絡まれた。グレイは眉を潜めた。
こういった危ない輩は刺激しない方がいい。賢明な判断で、グレイは笑顔を作り対応する。


「あの、道に迷っちゃって…、」

「なら俺達が駅まで送ってあげる。」

「ほら、ワゴン停めてあるから早く行こ?」


まずい、これはリンチの危機だとグレイは感じた。
必死にこの場から逃れようと言葉を紡ぐ。


「いや、いいですから…。交番探すんで大丈夫です、ホント。…それじゃ!」

「ちょっと待った」

「わっ、」


ぐん、と腕を引かれグレイの身体が流れる。なんとか踏ん張り己を引っ張った男を見やると男はニッコリ笑った。


「じゃあもういいや。君好みなんだよね。だからヤらせて。」

「は…?」


こいつらソッチかよ!リンチの危機は貞操の危機へとその身を変えた。
グレイは二度目の溜め息を吐いて、自分を囲む男達に視線を投げ、一言。


「…すみません、俺、ブスはちょっと…」

「んだとこのガキ!」

「ちょっと美人だからって調子こいてんじゃねぇぞ!」


怒りに怒った男達は強引にグレイの腕を引っ張り、ワゴンに連れ込もうとした。
もがいても逃げ切れない。つい本音を口走ってしまった事を後悔し、諦めようと身体から力を抜いた矢先。


「何、やってるのかな」


突如として現れた明るい茶髪の男は、グレイの腕を掴んでいた輩を手刀で倒し、グレイの身体を守るように引き寄せた。
突然の事でグレイは目を白黒とさせていだが、鼻腔をくすぐる甘く爽やかな香水の香りに誘われ、顔を上げた。


「っ、」


自分を抱き寄せる茶髪の男の横顔に、グレイの心臓はトクリと高鳴る。頬は朱色に染まり、グレイはその横顔から目が離せなくなった。


「なんだテ、メ…」

「邪魔すんじゃ、ね…、っ!アンタは!」

「誰に口を利いてるのかな?」


グレイを襲った男達は、茶髪の顔を確認すると血相を変えた。とんでもない人間を敵にしてしまったと。
茶髪の男に夢中のグレイの瞳には映っていないが、確実に男達の顔面は蒼白している。


「妖精の尻尾のナンバーワン、レオ!」

「レオ様だろ?」

「ひ!すみません!!」


妖精の尻尾。
ここら一体のホストクラブの中でダントツの売上を誇り、バックには関東を占める極道までついている大物店だ。
茶髪の男はその妖精の尻尾のナンバーワンホスト、レオであった。
いわばこの域を牛耳るドン。
冷めた笑顔と瞳に、グレイを襲った男達は情けないほど弱気になりながら慌ててワゴンに乗り込み、暗い夜道に消えていった。


「大丈夫かい?」

「へ、あっ?、はい、」


とろんとした表情でレオを見つめていたグレイは、突然の声掛けにびくんと肩を揺らし、慌てて返答した。


「可哀想に…、手首が腫れてる。」

「あ、引っ張られた時に捻ったんだと思います、…その、ありがとうございました!」

「待って、店に寄っていきなよ。手当てした方がいい。そのあと家まで送るよ。」


襲った男達と同じ言葉を吐いても、レオには嫌悪感を抱かないし、怪しさもない。むしろ心から心配をしているようで、グレイは断れなかった。高鳴る鼓動と赤くなる頬を誤魔化すためにグレイは笑いを浮かべ礼を述べる。
レオはそんなグレイをじっと見つめ、悲しそうな顔をした。
不思議に思い、グレイがどうしたのか問い掛けようとしたその時。


「ごめん…」

「へ…?…!、っん、」


腰に腕を回され優しく抱き寄せられたかと思えば、愛しげに頬を撫で、塞がれた唇。
目の前いっぱいの端正な顔に、グレイはキスをされたことに気がついた。
触れるだけの、それでも慈愛のある暖かで長い口付け。
ただでさえ赤くなっていた頬がこれでもかと言うほど染まった。

嫌な気はしない。むしろ心が満たされ、身体がふわふわ浮いたような心地よさに、グレイはそっと瞳を綴じ、広い背中に腕を回した。
















012.07.25

つづきます^^
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