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なんで俺は寝ているのか。その前の記憶があやふやでよく覚えていない。

「俺、今日ちゃんと起きたよ、な…?」

ベッドから上半身を起こし、霞がかった記憶を辿ろうとすると頭がひどく傷んだ。ひどい痛みに頭を抱えると続いてやってきたのは激しい疲労感と虚脱感。
ぐらりと揺れる体を支えようと片手を床についたが体を支えきれなくてそのまま激しく体を殴打した。

「っ…!ッげほ…、…っ」

まともに打ち付けたのか肺に空気が入らなくて咳をすると視界がぐにゃりと歪む。
襲ってきた吐き気に咄嗟に手で口を塞いだ。
この身体は一体どうしてしまったのだろうか。

「…俺は、…」
「起きたか、グレイ」

背中から浴びせられた冷たい声に背筋がゾクリと戦慄いた。跳ねるように振り返った先には、

「ナツ」

水の入った桶を片手に抱えたナツが立っていた。冷たく、射抜くように俺を見つめる視線に、俺はたじろいでしまった。

「覚えてないのか?」
「…いきなりなんだよ」

抱えられて姿勢を戻すとナツの視線と交差する。その目はやはり怒気をを孕んでいて。

「…何怒ってるんだよナツ」
「グレイが悪い」
「は、?」
「倒れんだよ、お前。」
「倒れた…?」

かくりと糸の切れた人形のように首を振る。ナツは嘘をつけない真っ直ぐなやつだからどうやら本当のことらしい。

「その傷」

ワイシャツから見える肌を大きく隠した白い包帯。それを目にした瞬間記憶が鮮明によみがえってきた。
そう、これは昨晩のものだ。任務中、襲っていた盗賊から子供をかばった時のもの。

「思い出したか?」

うまくよけることもできずまともに喰らってしまった。俺の血で子供がさらに泣き喚いてしまったのを思い出した。
怪我は後回しに盗賊を倒してその後いろいろ片づけをやっていた先記憶がない。どうやらそのあたりで倒れたようだ。

「別に…気にすることじゃねぇよ。魔導師やってりゃそんなことよくあることだろ?ヘマしたのは悪かったけどよ、」

ベッドから抜け出そうとすると手を掴まれて体を縫い付けられた。再び見える天井とナツの顔を睨みつける。

「んだよ、放せ」
「みんな心配したんだぞ」
「どうなろうが俺の勝手、…っ?」

掴まれた手を見るとかすかに震えているのが分かった。

「グレイが倒れて、そのまま動かなくなって。死ぬのかと思った。」
「んな、大袈裟な…」
「グレイ」

腕を振りほどいて震える指に絡ませると強く握り返してくる細い指。殺菌の為にしてある手袋越しでもわかるほど冷たい指だ。
死んだら許さないと、蛇のように絡み付くナツの願い。ドロリと粘って呪詛のようにもなったそれが俺の体に刻まれていく。
「わかってるよ」

反射的に紡がれる言葉。

「グレイが死んだら生き返らせるからな」
「…禁忌にまで手を出しても俺を生き返らせるってのか?魔導師の面汚しだな」
「なんとでも言え。…お前はムカつく野郎だけど大事だってことには変わりねぇんだ」
「…ばか」

赤くなった頬を誤魔化すようにナツの顔を掴んで寄せる。
かすめるだけの口づけを送れば、ナツはそれを噛みつくような荒々しいものに変えた。けれどその中に隠れた暖かさが心地よく、俺の意識は再びまどろみの中に引きずり込まれていく。
その先に泣きそうな程にまでゆがめられたナツの顔が見えた。
その顔は昔、喧嘩して仲直りした時と何ら変わっていなくてまだそんな顔できたんだな。と小さく心の中で笑った。








12.08.6



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