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いつの間にかぎゅっと目を瞑ってしまってもいたようで、鎮まり返る空気が怖いと思いながらも瞼を持ち上げた。
そこには怒っているようで悲しそうなシンの表情がある。
どうしよう。またシンを拒んでしまった。何て言えばいいのか、何を言ってもいけない気がする。
「……そんなに嫌? オレに、触られたくない?」
「違うよ……」
「何が違うんだよ。はあ……」
シンは疲れた顔で溜め息を吐くとドスンと音を立ててソファーに腰を下ろす。
「おまえの事大事にしたいって思うけど、やっぱりあからさまに拒否されると傷付く」
シンに女として求められる事、ちょっとまだ怖いけど嬉しいと思うのに、どうして私は……
「……シンがいきなり男の人になっちゃうから。こんなに男の人だもん。どうしていいか分からないよ」
「…………」
ソファーから立ち上がったシンに抱きすくめられる。
流れではそんな抱き締められるような事言ってないから驚いたけど、すぐに手を背中に回して力を入れた。腕いっぱいにシンの匂い、少し低めの体温。
ドキドキするけど安心する。それが私がシンに対して抱く大きな感情。全然相容れない感情同士の組み合わせで何だかおかしかった。
「シンの匂い好き、シンの体温が好き。シンが好き……」
思った事を口にすればシンの肩がぴくりと少し揺れた。
いつだって足りてないのは私の伝える量。なかなか素直になれなくて、恥ずかしくて言えないけれど。
あんなに小さかった男の子がこんなに大きくなって、私をいつだって守ってくれる。
不思議だね。どんどんシンを好きになって、好きで好きでたまらなくなって、キス一つちゃんと出来ないの。
何だか昔を思い出すと全然想像出来なかった事をしてるのが、まだまだ私には恥ずかしいから。
「なあ、キスしていい」
疑問符の無い問い掛けですらない問い掛けに答えるように瞼を閉じると、裏腹に優しいキスが落とされる。
「はあ……いっぱいいっぱいになっちゃうよ」
「ああそう。オレはとっくにそんなの越えてるけど」
また私よりも余裕のある台詞を。
いつからシンに追い付けなくなってたのかすら分からない。
「シンは凄いよ。どうしていっぱいキス出来るの? 少しでもう溢れそうになるのに」
「……何が?」
「うう……だから、シンが好きで好きで仕方ないの! だからそんなにいっぱいしたらシンの事しか考えられなくなる。シンでいっぱいになっちゃうよ」
こんなのめちゃくちゃ恥ずかしい。
シンは目を見開いて一度瞬きしてからみるみる内に赤くなり出した。
「なんだよ、それ……それって……」
「私だってシンに触れたいの。でも怖くなる。こんなに馬鹿みたいに好きになっちゃってどうすればいいの。私はシンみたいに上手く出来ないよ……」
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