「孝支ぃ、エアコン下げて」
「ダーメ、節約するって昨日決めただろ?」
「うぅ……暑い…」

孝支と同棲を始めてから約一ヶ月。我が家のポストに先月の光熱費が記された領収書が入っていて、驚くべき桁の金額を目の当たりにしてしまった。そこから緊急会議が始まり、かくかくしかじかで今月は光熱費をできるだけ節約しようという約束になった。けれど節約といってもこの暑さだ。エアコンを点けるなと言っても限界がある。蒸し風呂のように湿気が溜まった部屋で、少しでも暑さを紛らわすためにフローリングの上で大の字になって寝てみる。が、効果はない。孝支は団扇を扇ぎながらバレーの雑誌をパラパラめくっている。親から毎月仕送りが来ても、やっぱり学生二人だけのバイト代で生活費を賄うのはいろいろと難しい。だからと言って不満ではない。でも、自分たちがまだ子供なんだなぁと思い知らされているみたいで、溜め息が洩れる。

「いつまでも気にしてても暑いのは変わらないぞー?」
「わかってるよ……」
「団扇いる?」
「孝支が扇いでくれるなら」
「名前は俺の彼女であって女王様じゃないんで」
「ケチ」

ゴロゴロと固い板の上を転がり、孝支を見上げる形になると、彼は雑誌に向けていた視線を私に向けた。にかっと目を細めると、"かわいい"系である孝支に似つかわしくない色気のある泣きぼくろが目立つ。 同時に色々とダメージを食らう私は、部屋の湿気とは違う要素で暑さを感じる。

「そんなに暑いんならアイス食べる?こないだ買ったボックスがまだ残ってたはずだったから」

じっと見つめていると、まだ暑さに対しての不満を訴えかけているように見えたらしく、妥協案としてアイスが出された。別にそういう意味で見ていたわけじゃないんだけどね…と言うわけにもいかず、素直に返事をして重たい体を冷蔵庫まで引っ張った。冷凍庫を開くと、奥底に溜まっていた冷気が肌を擽り、外へ逃げ出す。開けかけの10本入りアイスバーの箱を覗き込み、どの味をとるか選ぶ。いつもこういうパッケージものを買うときは偶数個のものを買う。これは二人で食べるときに引っ張り合いっこがないため。まぁ結局は私が譲ってもらう側だけど。

「孝支ー!何味がいいー?」
「じゃあみかんで!」
「おっけい。じゃあ私はグレープね」

キッチンからでも会話ができる。学生二人が住むにはちょうどいい広さで、ちっとも狭いだなんて思えない。むしろこんなに気持ちのいい狭さもあるんだと実感できる。
歩きながらアイスを一足先に頬張る。そして先ほどと違って孝支の隣に座ると肩に僅かな重みがかかる。きっとこれでも遠慮して少し頭を浮かせてくれてるんだろうなぁ、と孝支の細かい気遣いに微笑みながらぐいっと上から押し付ける。別に寄っかかっても潰れやしないから、もっと私を頼って。独り言のように洩らすと、「そっかそっか」と肩口から聞こえる嬉しそうな口調。ていうか、エアコンを点けるか否か以前に、こうして二人で仲良く体温を分け合っていたら一向に涼しくならない。

「結局アイス食べてるのにくっついてたら意味ないね」
「けど嫌じゃないだろ?」
「……まぁ」
「ははっ、素っ気ねぇな」

悪戯っ子のように笑う孝支はこれまた心臓に悪く、顔が熱くなるのを感じた。また、その熱が肩口にいる孝支にばれてしまわないかが心配で居ても立っても居られない。八方塞がりとはまさにこういうことを言うのかもしれない。けれどそれがきっとそうならば、とても幸せな塞がれ方だ。退かせるのはいや、けれど自分が緊張しているのが相手にバレるのがいや。孝支とは高校の頃からの付き合いのはずなのに、未だにこういうことには馴れない。孝支はいつも余裕の笑みを浮かべるのに、それが悔しくてたまに不貞腐れてしまう。

「名前、アイス交換する?」
孝支の優しい魔の声が誘惑する。そして、私はいとも簡単にその誘惑に乗せられてしまう。

「ん、ちょうだい?」


「うん、おいしい…」
「だべー?」



君のぬるい体温が欲しかっただけ

title 彼女の為に泣いた / writer 菓子パン

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