他人と同じ家に住む。なんて、無理だと思ってた。
ぜったいに、我慢できないことがでてきて、腹が立つと思ってた。そこまで心が広いわけではないから、例えばごみの分別が出来ないとか、洗面所とかの水場を濡らしたら拭かないままでいるとか、たぶん私にとっての当たり前ができない人がいたら、二日くらいでムリだから、他人と同じ家に住むとかは、本当に考えてもいなかった。
「っていうのに、もう一年ですよ、赤葦先輩」
「……俺も驚いてる」
二日酔いでグッタリしている赤葦先輩は、目元を暖めている蒸しタオルをずらさず、腕を組んだままの姿勢で答える。久しぶりにあった高校生時代の知り合いが実は蟒蛇のように酒豪だったようだ。付き合いがよすぎるにも程がある。
「最初の頃なんか、掃除の仕方で討論になりましたよねぇ。掃除機が先かコロコロが先かって……あとは、乾燥機使うかとか、部屋干しか外干しかとか、いやー。懐かしいですよねぇ」
「………ああ、うん」
普段は『京治さん』と名前で呼ぶ私が、今日に限って彼を『赤葦先輩』と呼ぶ理由を薄々は気づいているだろう。今から一年前、付き合い初めて三年目の年に同棲を始めた。見かけによらず『記念日』なんかを大事にしてくれるので、お互いの誕生日以外にも、事あるごとに記念日をつくってお祝いをして来た。マグカップの中に、普段はあまり飲まないコーヒーを淹れたのも、ちょっとした反抗心から。
もちろん、私がコーヒーを飲もうと飲むまいと、体制に影響はない。
「そうそう、母さんが栗を送ってくれたので昨日届いたんです。今茹でているのであとで剥いてあげますよ。それなりに大きいんですよね。ただ量が多いので使い道に困るんですが、まぁ、食べちゃいますよね」
あら、何だか爪伸びてるかなぁ……。ネイルしたいんだけど、仕事柄しづらいし、なんかなぁ。と京治さんに話し掛けているのか、でかい独り言なのか判断しがたいほど、話題をポンポンかえていく私を京治さんは漸く視界に入れた。
「蒸しタオル交換します?」
「……怒ってるよな?」
「そんなこと無いですよ、」
ニコリと笑うと、京治さんはゆっくり瞼をとじる。
「怒ってる時に『赤葦先輩』って呼ぶの、前からだったろ」
ゆっくりとした動作で後頭部に手を添えられる。緩い力で引き寄せられて、私の額は京治さんの胸板にゴツンと当たる。「ごめん」聞き取りづらい謝罪の言葉が耳を撫でた。
「きのう、だったんですよ」
「うん」
「一年目、昨日だったのに、」
お祝いしたかったのにぃ。小さく唸る私に、京治さんが、髪に唇を寄せながら囁く。

「明日、めいいっぱいお祝いしよう」

なんてことはない。ちょっとしたことでも、貴方が居るだけで全てが記念日に思えてしまうから、私はその都度お祝いをしたくなるのだ。



明日も記念日

writer 鉢屋

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