オフシーズンでも強化練や遠征なんてしょっちゅう。シーズン中は尚更、家を空けることの方が多い。一緒に暮らしてても、一緒に居られる時間は限られていて連休が取れたとしても今度は彼女が仕事。だとか、何かとサイクルが合わないから中々のんびり過ごすことが出来ない。
なんだかんだ言って、彼女とは高校の頃からの付き合いにはなるが。今でも変わらず、何も言わずにただ俺の隣で笑っていてくれる。それに安心しきって甘えてばかりいるから、昔からバレーばかりで、恋人らしいことなんて何ひとつしてやれなくて。ずっと、我慢ばかりさせてきたよなぁって思うと、とてもじゃないが申し訳なくて。そろそろ結婚も視野に入れる年齢になって、本当に彼女はこのまま俺と居てもいいのだろうか、とか。時々、考えるようになった。


海外遠征を終えて、久しぶりに帰国した日本に懐かしさがこみ上げてくる。別に不味くはないが、やっぱり自分の国の飯が一番美味い。名前の作る味噌汁がのみてぇな、なんて考えながら重たい荷物を乗せて車を走らせる。しばらく車を走らせると漸く見慣れた景色が顔をだし、マンションに着くと駐車場へと車を停める。今日帰国することはあえて伝えなかった。遅くなるし、彼女は明日も普段通り仕事があるはず。だから彼女はすでに夢の中だろう。
エレベーターを降り、エントランスを抜けてそろり音を立てないよう細心の注意を払って部屋に入る。案の定電気は消えていて、少し残念に思いながら荷物を置いてリビングのソファに腰を下ろす。着替えて寝ないといけないのに、どっと疲れが押し寄せて身体が言うことをきいてくれない。深く息を吐いて、ソファに置かれた俺と同じ匂いがする彼女のお気に入りのクッションを抱えゆっくり、瞼を閉じる。


「…こーたろ?」

いつの間にか寝ていたらしい。身体を揺すられる感覚と、彼女の声が聞こえてぱっと目を開ける。少し寝ぼけた様子の彼女が不思議そうに小首を傾げてソファで寝転ぶ俺を覗きこんでいた。

「かえって、?」
「あー…、うん。ついさっき帰ってきた」

起き上がり、彼女の手を取って見上げる。目を擦り、小さく欠伸をこぼした彼女は少しの間をあけた後、思考が追い付いてきたのか俺に詰め寄りどうして帰国する日にちを教えてくれなかったの。と、名前は拗ねたように唇を尖らせた。

「いやぁ、帰るのどうせ夜だし名前は寝てるだろーなーって思ったから」
「それでも私は教えてほしかった」
「うっ、」

むすり、珍しく不機嫌そうに顔を歪める彼女に言葉を詰まらせて素直に謝ると小さく溜め息をこぼし、俺の首に腕を回してそっと膝の上に乗った。その大胆な行動に動揺を隠せず。ぽかん、と口を開けて呆けているとこつんと優しく、彼女の額が俺の額にぶつかる。

「え、あの、名前サン…?」
「別に、怒ってる訳じゃないんだよ」

ただ、

「光太郎が帰ってきた時におかえりって言いたかっただけなの。」

私の我が儘だけどさ、"おかえり"って言われないのは寂しいでしょう?と、自分で言っといて照れくさいのか少しはにかんでから俺の首元に顔を埋めて隠してしまった名前が可愛くって、思わず頬が緩んだ。
彼女の存在を確かめるようにぎゅうっぎゅうっと回した腕に力を込める。それから耳元で彼女の名前を呼ぶ。薄暗い部屋ではハッキリと見えないけれど、そっと顔を上げた名前の頬は薄らと赤く染まっているのがわかる。ああ、どうしようもなくいじらしくて、愛おしい。
たまらず彼女の柔らかい唇を奪う。わざとらしくちゅ、とリップ音を鳴らしてからそっと唇を離し、もう一度名前を呼ぶ。

「名前」
「…っ、なに ?」

至近距離でかち合った名前の瞳は少しだけ潤んでいて、胸の奥がちりちりと熱くなって愛おしそさがこみ上げてくる。
ああ、やっぱり、名前を手放したくはない。


「ただいま」


一瞬、驚いたように目を瞬かせたがすぐに目をくしゃりと細めた彼女は"おかえり"と、笑ってみせた。



ぼくの好きな笑顔で待っていて

writer 慧

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