目の前に広がるは段ボール。白と青で塗られた眩しいそれは、今さっきまで居た引っ越し業者の人と一緒にこの部屋に運び込んだ物。


「まさかねぇ…」


高校時代の自分は家族じゃない人と一緒に生活するなんて耐えられなかっただろうに。変なところで神経質だったからなぁ、なんて思う。
段ボールは2人分の服や何やらが詰まっているのだ。量が量だけに荷ほどきが面倒。


「なにサボってんの」
「ふたくちー疲れた」
「はぁ?」


そういってちゃっかり隣に座る二口とは高校時代からの付き合いで、進路は違えど何だかんだで会っていて、気付いたらお付き合いをする仲にまでなっていた。そしてこの度は同棲です。まぁ今まで半同棲なトコもあったからあんまり実感ない。


「冷蔵庫とかテレビとかそなへんの配線終わったから此方来た」
「さすが工業高校出身、仕事が早いね」
「お前何もしてねぇだろ、これ。全然減ってない」


仕方ない、考え込んでいたし。


「つか絶対今眠いな?」
「そ…んなことないですー」
「…」
「っぎゃあ、ギブギブ」


ちょっとキレた二口が私に軽くヘッドロックをかける。目が覚めましたよ、ええ。
窓の外は暗くなっている。これは考え事してただけじゃなくて、意識飛んでたかもしれない。やっぱ寝てたのかね。


「もう夜だっつの、晩飯どうすんの」
「何もないからピザでも取る?」
「コーラ付けてくれんなら」
「仕方ないね」
「うっし」


電話して、すぐ来るピザに驚きながら、行儀悪く地べたに座って食べる。まぁ今日だけだから。テレビはまだチャンネルとかの設定していないので点けなかった。しん、とした中に2人分の飲み食いする音が響く。あぁこれから二人で暮らしていくんだなぁ。


「そんなにピザ美味しいの?」
「え?」
「泣いてる」
「あ、」


目からこぼれたソレは頬を流れて床に落ちた。


「なに?え、なに泣いてんの?え?俺、何かした?」
「うーふたくちー」
「え」


嬉しい、のかもしれない。じわじわと胸に広がる、ふわりとした思いはきっと幸せと呼ばれるものだ。


「嬉しい幸せ二口好き」
「…いきなり泣いたかと思えば今度は何なの、デレ期?」
「二人で暮らすからさ、家族みたいで幸せ」
「あのな、ゆくゆくはちゃんと家族になる」
「…さらっと言うね」
「そんときは名字あげる。」
「くっそ、泣くじゃん。二口のバカ」
「いい加減名前で呼べよ」
「…堅治」
「なぁに」
「私に名字ちょうだい」


ねだる様に左手を差し出す。その手を掴んで引き寄せて二口、じゃなくて堅治は言った。


「空けとけよ」


笑った堅治だって泣きそうなのは言わないでおくから。
一緒に生きてください。



宵の夭折

writer 東雲涼

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