深夜二時。玄関から、ガタガタと物音がする。

犯人は、同棲中の及川徹だ。布団から出て「おかえり」なんて言いに行く気力はない。もう寝るモードだし、わざわざ涼しいこの部屋から蒸し暑いリビングに出ていくこともない。


「名前ー?うっわ、何この部屋。涼しっ!」

ゆっくりとドアノブが回った後、リビングの明かりが寝室に入って来てすこし眩しい。及川は何がオカシイのかケタケタと笑っている。お酒くさい。


「おーい、おーい。寝てるの?」

「………」

「ふぅーん、じゃあ。いいよね?」

狸寝入り。バレてるのか、バレてないのかはわからないけど及川は私の布団に潜って私のパジャマをまさぐった。


「ひゃっぁ」

「やっぱ、起きてた」

続きをしようとする及川の手をつねると、さして痛くもないクセに大げさに「痛い痛い」と言いながら、私のパジャマから手を離した。枕元に置いてあるリモコンで電気をつける。そして、同じく枕元にあった眼鏡ケースから眼鏡を取り出してから及川をギロリと睨むと及川は慌てて起き上がって正座をした。


「ほんっと、お酒臭い」

「ゴメンナサイ」

「飲みに出るときは電話してって言ってるのに」

「…ゴメンナサイ」

「一ちゃんが電話くれたんだよ。どうせ及川はまた電話しないだろうからって」

「知ってます…」

「もー、毎回言ってるのにさ。なんで電話の一本ができないワケ?!ご飯無駄になっちゃうじゃん!!」

「いやー、えーっとさ…毎回、誘われてもね。一杯だけって思うんだよね?愛しの名前が待ってるからってサー。うん、…そうなんだけど」

ハァー、わざとらしくため息をつくと及川の肩はビクリと揺れた。昔言っていたけど、眼鏡をかけた私には頭が上がらないらしい。なんか、先生に見えてしまうんだとか。とかなんとか理由をつけて前回変なプレイをさせられかけたのは記憶に新しい。


「本当にゴメンね。だからと言っちゃなんだけど、コンビニスイーツ買ってきた」

思わず反応してしまった私に、及川はニッコリと微笑んで「二人で二次会でも、どう?」と言った。及川はずるい。


降ろしていた髪をまとめながらリビングに行くと、そこには及川がコンビニで買ってきたワインとコンビニスイーツがたくさん置いてあった。


「バカ及川。こんな食べれるわけないじゃん」

「えー、でも新作いっぱい出てたから」

「もう、とりあえずグラスとコレ冷やしとくからお風呂入ってきなって」

「ハーイ」

浴室のドアがパタンと閉まったのを確認してコンビニ袋にグチャグチャに詰め込まれたシュークリームやらプリンやらをひとつずつ取り出す。バカ及川め、どうせ振り回しながら帰ってきたんだろう。とりあえず冷蔵庫の中にワインを入れて戸棚からワイングラスを探していると鼻歌と一緒にドアが開く音がした。

カラスの行水とはまさにこのことだ。普段は一度お風呂に入ったらこっちがイライラするぐらい長風呂のくせに、本当そういうとこ子供みたい。

ヘタクソな鼻歌を歌いながら、水をポタポタ垂らしながら歩いてくる及川。確信した、コイツは見た目だけ大人で中身はデカい子供だ。拭いてとでも言うみたいに私の前にタオルを持ってきた及川の頭をガシガシと拭くと「痛い」と言いながら笑っていた。ドライヤー持ってくるねーと言って洗面所まで走って行ったので夜中だと言うと、小走りになった。


リビングのソファに座って私の足元に座る及川の髪の毛をドライヤーで乾かす。及川は気持ちいいのか、またわけのわからない鼻歌を歌っていた。


「それなんの歌」

「知らない。帰り道のどっかで流れてたけど」

「ふぅん」

及川の鼻歌と、テレビから流れる芸人たちの声、ドライヤーの音。聞こえないと思って呟いた一言はしっかり及川の耳にも聞こえていたみたいで、いきなり振り返った及川に唇を奪われた。


「俺も、好き」



さみしいって気持ちをくれたひと

title 不眠症のラベンダー / writer マミー

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