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白い手は着物の間からつう、と流れ出る紅をやさしく拭ってくれた。わたしは恥ずかしいやら情けないやらで消えてしまいたい気持ちに駆られる。「どうしたんです」彼は手拭いを絞る手を止めてうつむいたままのわたしを見た。(桶の中は紅が糸を引いていて、わたしはその不気味な様に嫌悪が込み上げ目を逸らした)「おめでたいことじゃないですか」それは諭すような言い方で。「大人に一歩近づいたんですよ」今夜は赤飯を炊きましょう、ね、冗談じゃないとわたしは思う。(すこしもおめでたくなんかない)それでも彼が提案してくれたことだから、わたしはこくりと頷いた。心配そうだった彼がやっと安堵の表情を浮かべる。「じゃあこれからすぐに用意しますね」わたしは返事をしなかった。彼は拗ねていると思ったのだろう、あやすように微笑んでやさしく頭を撫でてくれた。(ついこの間まで大きかった掌は、ただ細くか弱いだけだった)「なまえは美人ですからあと四年もしたらたいそう縁談が舞い込むでしょうねえ」楽しみですね、そう言った彼の美しい笑顔はひどく残酷だと思った。わたしが年頃になって、大人になって、老婆になっても彼は変わらずこの姿のままであろう。
彼の腕の中で揺蕩う紅がただひたすらに忌々しかった。






吾亦紅
【花言葉】移ろい行く日々
20100308
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