現代 朝の電車は相変わらず人が多い。息苦しい。こういうとき人より高い身長がほしいと思う。 「ねえ」 せっかくお気に入りの作家の新作を鞄に携えてきたのにこんな混雑じゃおちおち読めやしない。 「ちょっと」 「………」 「ちょっとあんた」 「…へ、僕?」 「そうよ!今あたしのお尻触ったでしょ!」 いきなり妙な難癖をつけてきたのは僕より頭一つ分ちいさい女の子だった。僕の頭は状況についていけない。彼女は強気な目で僕を睨んでいる。(けっこう迫力がある) 油断していた。自慢じゃないが今までに痴漢されたことなら何度かある。(男女とも) しかし誓って言うが、生まれてこの方痴漢したことは一度もない。ほんとに一度も。 まったく油断していた。女子高生の近くに乗ったのが運の尽きだったのか。 「いや触ったって、それ勘違い、」 「とにかく次で降りてもらうから」 頭を鈍器で殴られたようだ。彼女の言葉は大げさでなく、僕の耳にはあたかも死刑判決のように響いた。これから僕は痴漢犯罪者の汚名を着せられて学校では噂されご近所にはうしろ指をさされ、(ああお父さんお母さんごめんなさい) 「降りて」 無理やり腕を引かれて下りたのは一つ前の駅だった。そういえば女の子の着ている制服はこの駅にある名門お嬢様学校のものだ。 彼女は僕を引っ張るのをやめるとくるりと向きなおった。(よく見るとけっこうかわいい) 「あんた、わたしを痴漢したわね」 「いやしてな、」 「警察に突き出されても文句はないわよね」 「いや、」 「まあわたしは心が広いから、」 わたしと付き合うんなら考えてあげる 「………は?」 目を白黒させる僕とは対照的に、彼女はにんまりと笑っていた。 狂言的確信犯 (図られた………!) 20100227 |