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「いざやくんいざやくん」
「なに?」
「人は死んだらどこにいくのかなあ」

屋上のフェンスから突き出した足をぷらぷらさせながら、なまえは唐突なことを聞く。
なまえはいわゆる電波というか、ちょっとネジが緩いところがあって、いつも唐突に、たとえば「地球はどうして丸いの?」だとか「天使ってどんな姿をしているの?」だとか、まるで小学生のような質問をぶつけてくる。
まあそんななまえでも人間には違いないので、俺はなまえも他の奴らと同様に愛している。

「灰になるんだよ」
「天国にはいかないの?」
「生憎自分の目で見たものしか信じない主義なんだ」
「ふーんつまんないの」
「どうでもいいけど下からパンツ見えるよ」

なまえはいざやくんのえっちー、とけらけら笑って振り返った。
私のパンツ見たい?、と聞かれたが正直まったく見たくないので素直に遠慮しとくと答えたら唇を尖らして、えーと抗議された。

「私はいざやくんのパンツ見たいのに」
「なにそれセクハラ発言」
「ねえねえ見せ合いっこしよー」
「聞いてないし」

なまえはフェンスから脚を引き抜くと、てくてくと歩いてきて俺の手から読みかけの雑誌を取り上げて向かい合う形で脚の上に座った。

「なにすんの」
「えい」

ぺろりとシャツの裾を捲られる。赤色の布地が顔を出して、なまえがまたけらけらと笑い声を立てる。

「セクハラ」
「わー勝負下着」
「普段から着てるやつだけど」
「赤とか超ウケるー」
「ほっといてくれる」
「私は勝負下着だよー」

なまえが躊躇いなく紺のスカートを捲ると黒のレースのえぐい下着が現れた。はっきり言ってなまえには不釣り合いのかなり際どいデザインだ。

「うわ」
「えへへーセクシーでしょ」
「まったくそそらないのがすごい」
「いざやくんの嘘つき」
「うーん。ま、俺も健全な男子高生だからねえ」

相変わらずけらけら笑うなまえの口を塞ぐ。笑いながら同時に舌を絡める器用ななまえに少し感心しながら唇を離すとまだなまえは笑っていた。

「なに、なんか可笑しかった?」
「あのねえいざやくん。私ね人間は死んだらなくなっちゃうと思う」
「へえ」
「だからこうやって男も女も必死に生きてた証を残そうとするんだよう、きっと」
「そうかもね」

なまえの言うことは一理あるかもしれない。恐らく小学生並の感性のなまえですら立派にこんな行為をしていることに照らせば、太古の昔から人間(を含む動物)は必死に生きた証を残そうとしたのかもしれない。

「不純異性交遊って変な言い方だよねえ」
「なに突然」
「だってすごく純粋な動機の行為だもん。純粋異性交遊のほうが正しいよお絶対」
「ああ、そうかもしれない」
「ねえねえいざやくん」
「なに?」
「私のことすき?」
「すきだよ。なまえは人間だから」

なまえはやはりけらけらと笑った。笑いながら私もいざやくんすき、と言ってまた笑った。
たぶん俺たちの間にいわゆる恋人同士のような感情はない。
あるのはきっと、もっと純粋で単純な動機だろう。

「ねえいざやくん」
「なに」
「私たち、生きてるよね」

なまえが確認するように発したこの言葉こそ、この行為の原理に違いない。

20110418
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