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凛とした立ち居振る舞いだとか聖母のような笑みだとか、法に忠実な正義感だとか、ふと見せる厳しくも愛情に溢れる母親の顔だとか。そういうもの全部、尊敬していて、愛しい。



「あれ、秤さん。もう帰るんですか?」

いそいそと荷物をまとめはじめている秤さんに声をかけると、わざわざ手を止めて振り返り、いつも通りの柔らかい笑みを浮かべてくれた。(秤さんのこういうところが、すきだ)

「今日は詩紋が早く帰ってくるのよ」
「あら珍しいですね。詩紋君、人気者だから忙しいでしょう」

大怪獣ボルモスの映画出演以来、雑誌やテレビで詩紋君をみかけることが増えた。つまりはそれほど売れっ子だということで。

「そうね。と言ってもまだまだ売れ始めたばかりなのだけどね」

そう言いつつ秤さんは嬉しそう。普段は冷静な秤さんだけど息子のことになると親ばか全開になる彼女をとても可愛らしいと思う。

「じゃあ久々の親子水入らずですか。いいですね。美味しいものでも食べに行くんですか?」
「ふふ。今日は家で詩紋の好物を作るつもりなの」
「秤さんの手料理かあ。詩紋君、いいなあ」

半分本気で羨ましがると、お世辞と取ったらしい秤さんはくすくすと笑ってじゃあお先に、と心なしか足取り軽く出ていってしまった。
…よほど詩紋君と過ごせることが嬉しいのだろう。
秤さんの一番の優先順位は考えるまでもなく、詩紋君で。
きっと詩紋君が大きくなるまでは恋愛なんて眼中にもないんだろうなあと、思う。
それは私にとっては喜ばしいことなのだけれど、そして私が好きなのはそんな秤さんなのだけれど、だからこそ詩紋君が大きくなって秤さんのもとから巣立つのが恐い。(そうしたら秤さんの中心が詩紋君から恋に移る可能性だって、当然に否定できない)
このままずっとなにもかも変化しないまま彼女の傍でそっと見守っていたいだなんて、控えめなようできっと世界一図々しい願い事だ。






20110211
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