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自分で言うのもなんだが、僕は良識ある常識人であると思う。会社では非常識な上司のお守りに尻拭い、「ほんと小野さんて頼りになるわよね」「小野さんがいてくれて助かるわあ」なあんて言われることもしょっちゅう。まあお世辞だろうけどいくらかの本音も混じっているに違いないと自負している。つまりなにが言いたいかと言うと、僕がひどく常識人であるということ、それに尽きる。



今日もお疲れさま、という日常の挨拶に、お疲れと返してそそくさと席を立つ。「ねえ小野さあん。たまには飲みに行きましょうよう」、鼻にかかった声で誘ってきた女子社員を予定があるからと笑顔でかわすと「つれないんだからあ」と女子社員は頬を膨らました。「彼女ですかあ?」「まあね」「もう。また今度行きましょうね」という言葉には曖昧に頷いておいた。



プルル…プルル…
プッ…只今留守にしております。ご用件のある方はFAXかピーっという音の後にご用件を…
彼女の電話はいつも留守だ。慣れたもので、いつも通りにメッセージを吹き込む。
「もしもし」「ねえどうして昨日来てくれなかったの」「僕昨日ずっと待ってたのに」「ああ大丈夫怒ってないよ」「また明日。おやすみ」
忙しいんだろうな。体、壊さないといいけど。心配だなあ。薬、買って持っていこうかな。きっとまた留守だからポストに入れておこうっと。



仕事終わりにまた例の女子社員が擦り寄ってきた。「小野さあん。まだ彼女と別れないんですかあ」「まあね」「別れたらいつでも言ってくださいね。私、空いてますから」「はは…」猛烈なアプローチに乾いた笑いを洩らした。恋人がいると言っている男にアタックするなんて彼女には常識という二文字がないんだろうなあと思った。



プルル…プルル…
プッ…只今留守にしております。ご用件のある方は…
「お疲れさま」「体大丈夫?疲れてない?」「そういえば今日カフェに行ったよね?」「僕もいたんだよ気付いてた?」「声くらいかけてくれたらよかったのに」「それじゃまた明日。おやすみ」



「妹子。どうしたぼーっとして」我に返ったら上司が覗き込んでいた。「え…あ…いえ」「まあいいがこれも頼む。明後日までにな」そこそこ厚みのある書類束を渡される。「はい」「あ、それとこれとこれも」どさどさと机に重ねられた量は先ほど渡されたものの二倍はある。「…はい」「明日までにな」「明日?!…はい」まったくうちの上司は本当に常識というものが欠落している。



プルル…プルル…
プッ…只今留守にしております…
「ねえ」「今日さあ」「隣にいた男…誰?」「なんかすごく仲良さそうだったけど」「まさか…」「浮気なんてしてないよね?」「信じてるから」



「妹子最近元気ないな」「えっ」上司の突然の言葉に驚く。「…そんなことないですよ」「さては恋だな、恋煩いだな。よし私に話してみろ」「違いますって。…だいたいなんで上司に恋愛相談なんかしなきゃならないんですか」「冷たいな」「冷たくて結構です」そもそも仕事中に恋愛の話なんて非常識だ。そう思った僕は黙々と作業に戻った。



プルル…プルル…
プッ…只今留守に…
「ねえ」「なんで弁解してくれないの」「そういえば今日花屋の前を通ったら君の好きな花があってさ」「花束を買ったんだ」「今から届けに…」
プッ…
「あ…」やっと出てくれ…「いい加減にして!誰なのよ毎日毎日っ…!気持ち悪い…もう二度と電話してこないで!」
ガチャッ…ツー…ツー…
あれおかしいなあなんでだって僕は気持ち悪がられることなんて何もしてないのにただたまたま見かけた彼女が綺麗だなあと思ってなんの接点もなかったから名前とか住所とか電話番号とかいろいろ調べて昼休みはカフェをいくつも渡り歩いて彼女を探すようになっていていつからか行動パターンも読めるようになってすきならそれは当然のことでそれから毎日電話するようになって仲良くなっていやたしかに一方的だったけど彼女だって録音を聞いているはずだし忙しい彼女の支えになれているに違いなくてでもなんで彼女はあんな態度取ったんだろう…ああそうかなんだ、
「きっと照れてるんだ」
だって常識で考えたらそれしか考えられないしそうだ花束届けに行かなくちゃ喜んでくれるかなあ彼女のすきなガーベラの花束






20100925
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