小説 | ナノ


『今日もふつうに授業受けてクラサメ隊長とご飯行った。それで今日はクラサメ隊長と一緒にとうぎじょうで訓練。そのあとワールドマップに出て実せん訓練。マジクラサメ隊長つえかったわ。そのあとわたし怪我しちゃって、ふたりともケアル装備してなかったからあせったけど、ポーションあったからなんとかなった。けどまだ足イテーと思いながら魔導院まで歩いてたらクラサメ隊長が気づいてくれてなんかおぶられた。これから氷結の死神じゃなくて頼れる指揮隊長☆クラサメくんにした方が良いと思う。そんで、おぶられながらクラサメ隊長に今度決行するらしいでかい作戦の話をした。またいっぱい死ぬんだろうな嫌だなあって隊長に行ったら、隊長は戦場に死者は付き物だと言われた。わかってはいるんだけどなあ…嫌だわ。以上。』


読んでから、下の方に紙が挟まっているのに気づいた。次のページで引っ掛かっているらしいそれを引っ張って取り出すと、開いてみる。そこにはわたしの文字で五行くらいなにかが書いてあった。


『あとからこの日記クラサメ隊長に見られるから恥ずかしくて書けないことをここに書いとくわ。クラサメ隊長ちょっと最近かっこよすぎやしないか?わたしだけか?わたしだけなのか?おぶられた時とか、ドキッとしちゃったんだが。ラブコメか。似合わないぞわたし。以上』


恥ずかしくて書けなくてほかの紙にはさんどくなんてわたしらしいなあ。はは。わたしはちょっと笑いつつ紙を元にもどした。でもクラサメ隊長に見せるのに恥ずかしい紙がなんで挟まってんだろ… わたし馬鹿だな。その答えは読んでいるうちにわかった。


『リフレなう。クラサメ隊長は今日もマスクだった。いつもしてるけど。あーあ明日はビッグブリッジ作戦。わたしたちの組は平気だろうけど、他の組の人はいっぱい死んじゃうんだろうなあ… なんか他の組に友達作りたくなくなってきた。
↑上のことをクラサメ隊長に話してみた。したらばクラサメ隊長は、個人的な意見を言うなら自分が死ぬ前にたくさんの人に知ってもらうのもいいんじゃね的なことを言ってきた。確かにそうかもしれない。 クラサメ隊長にまた夜にテラスに呼び出しされたなう!何事か!


昨日テラス行ってきた。さいあくなきぶん。とにかくやけくそで書くわ。クラサメ隊長、明日死ぬんだって。明日ルシ・セツナの軍神召喚のために魔力を捧げて死ぬんだって。だから日記はもういいって。ばかみたい。隊長なのに、いなくなってどうすんだろ。ほんとにばかみたいだ。わたしはいやだ。わたしは泣いた。クラサメ隊長にいやだって泣いた。これからもご飯一緒に食べてくれるって言ったじゃん。訓練もしてくれるって言ったじゃん。ばか。ばかばかばかばかばかばかばか!わたしはクラサメ隊長に抱きついた。クラサメ隊長はわたしをだきしめ返してくれた。うれしくて涙がでた。最後にお願いをひとつ聞いてやるって言われたからマスク取ってって言ったら取ってくれた。おっきな傷があった。痛々しいようで愛おしかった。
隊長はそれから、わたしに優しいキスをしてくれた。
クラサメ隊長は、お前といて楽しかった、好きだと言った。楽しかったのなら、好きならまだ一緒にいようよ。ばかクラサメ。



だいすきだ。


わたしはクラサメ隊長がだいすきだ。すきだ。大好きだ。わたしはクラサメ隊長を忘れたくない。隊長が笑うとかわいいこと、一緒にご飯食べたこと、訓練したこと、隊長は実は優しいこと、かっこいいこと、抱きしめてくれたこと、マスク取ってくれたこと、優しいキスをくれたこと、わたしを愛してくれたこと。
クラサメ隊長、わたし忘れたくないよ。隊長がこんなに好きだったことや思いでを、忘れたくないよ。クラサメ隊長はわたしがなに言ってもだめだった。隊長はもう戦場へ行ってしまった。



わたしがこんなに隊長を好きだったこと、忘れたくないから、ここに思いを書き留めます。


わたしはいまでも、隊長が大好きです。
隊長がわたしを愛してくれたこと、わたしが隊長を愛していたことを忘れないで。



じゃあ、行ってきます』













それは、やけくそに書いた乱雑な文字で、ところどころ涙でインクが消えてしまっていた読みにくい、きたない文だった。だけどわたしの心揺さぶるには十分すぎる文だった。
ぽつり。紙の上に、水滴が一滴落ちた。あれ。おかしいな。悲しくなんか、ないのに…
拭いても拭いても、涙が止まらなかった。キングが報告書を回収しに部屋に来るまで、わたしは泣きつづけた。

わたしは忘れてしまっていた。わたしのクラサメ隊長への、忘れたくない必死の思いを。わたしは、もう、顔も思い出せないのだ。クラサメ隊長は笑うとかわいいこと、一緒にご飯食べたこと、一緒に訓練したことも、隊長は実は優しいこと、かっこいいことも、抱きしめてくれたことも、マスク取ってくれたことも、優しいキスをくれたこと、わたしを愛してくれたことも、みんな、もう、忘れてしまった。思い出せない。
わたしはひたすら泣いた。わたしが愛した、わたしの知らない人のために。








もう君を思い出せない/クラサメ
20111115