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カチカチカチ。携帯をいじってメールをする。相手は私の幼なじみである晴矢だ。今日暇だからあいつが持ってるゲームをやってやろうと思ったのだ。


To:晴矢
件名:なし
本文:

今日晴矢ん家行くからー
ゲームしに行くからよろ



送信っと。よし。送信完了。携帯を閉じてポケットにしまった。返事はまだだけどまあ平気だろ。帰ったらすぐ晴矢ん家行こう。するとすぐに携帯が鳴ってメールが来た。開くとやっぱり晴矢だった。


From:晴矢
件名:Re:
本文:お前あのゲーム何回やれば気が済むんだよw
別にいいけど、今日母さんいないから飯はないぞ


ふむ。今日は晴矢のお母さんのご飯食べられないのか… 私は今から行くとメールを送信して、携帯をポケットにしまった。もうめんどくさいからご飯はコンビニで買って、家帰らないで直接行こう。




晴矢の家につくとインターフォンを鳴らした。ばたばたという足音が聞こえて、がちゃりとドアが開く。赤い髪が視界に入った。


「なにお前。制服かよ」
「着替えるのめんどくさかったからそのまま来ちゃった。おじゃましまーす」


晴矢の家に入ると、嗅ぎ慣れた晴矢の匂いが鼻をついた。落ち着く匂い。来慣れているので、晴矢の案内もなしにずかずかと二階の晴矢の部屋に上がり込んだ。ドアを開けると、いつもより汚い晴矢の部屋が。


「汚っ!」
「しょーがねぇだろ。お前いきなり来んだもん」
「なにそれ。私が来る時いつも綺麗にしてんの?」
「まあそこそこに」


今更そんな気を使うこともなかろうに… まあいいやゲーム出来ればそれで。「ゲームどこー」「ここ」聞けば晴矢はベッドの上からゲームを取って私に渡した。私はそれを受け取るとベッドの上にあった晴矢の服とかを床に投げ捨て寝そべった。


「おい名前。勝手に投げるな俺の服」
「いーじゃん別に。今日こそウィダーシン倒そうっと」


電源をつけてゲームを始める。前からこのラスボスと戦っているがいっこうに勝てない。私もうなんだかんだで30回ぐらいテレジアと運命共にしてるわ。早く倒して2やりてぇ。あ、グミ買い忘れた。なんてゲームの世界に浸っていると晴矢が邪魔だと言って私の背中を叩いた。


「これ俺のベッド」
「私今忙しいんだってば」
「知るかどけ」


半ば強引にベッドの隅に追いやられた私は、端っこでゲームをやるという肩身の狭い思いをされられた。晴矢め。晴矢は私をどかすと私の隣に仰向け寝転がった。手にはメンズ雑誌。晴矢こういうの見るようになったのか。そういえばまた彼女出来たらしいから。
そしたらなんかむかっとしたから、晴矢のお腹に頭を置いてやった。


「いてっ、なんだよ」
「いや、枕が欲しかったさあ」
「重…お前太ったんじゃねぇの?」
「女の子に向かって失礼な!」


ゲームに集中しながら、ちょっと思い出した。ずっと前に、晴矢が前の前の彼女と別れた。その原因が私だった。私と晴矢が異様に仲がいいのに嫉妬した彼女が晴矢に言い寄り、それをうざがった晴矢が別れを切り出した。それを知ってから私は、晴矢に次の彼女が出来た時、晴矢を避けることにした。だけどそれに早くも気づいた晴矢は、「お前にそういう気を遣わせるぐらいなら俺は別れる」と言ってきた。晴矢は、私のことが別に好きというわけではない。なのによく彼女よりも私を優先させたりする。どうしてなのか聞くと、幼なじみだからという答えが返ってきた。ただの幼なじみなのにそんなこと普通するか?私はその時こそ疑問に思ったが、晴矢はそういう奴なんだと自分に納得させた。ところで、晴矢が私のことを好きではないのに彼女よりも私を優先するのは、私にとって嬉しいことであると同時に、切なくもあった。なぜかというと、他でもない、私は晴矢のことが好きなのだった。いつからかとは覚えてない。ただ意識し始めたのは中学に入ってからだ。小学生の時女みたいにお化けを怖がっていた晴矢は、中学に入ってからだんだん男らしくなっていった。一方私も胸が膨らんできたりして、女の子らしくなってきていた。私が晴矢を幼なじみとしてではなく、男として意識するのは当たり前のことだと思う。だが晴矢はそんなの気にしなかった。晴矢の前に立つとドキドキしてしまう私に、なにボケッとしてんだと晴矢は気兼ねなく私に言った。そしたら私は一人で晴矢を意識してるようだった。そのことを知った時、恥ずかしくて、同時に馬鹿らしくも感じた。だから私は出来るだけ晴矢を意識しないようになった。そしたらいつの間にか、私は晴矢を好きになっていたのだ。
お腹に頭を置いたことを晴矢は最初文句を言ってたけど、無視してそのままゲームをしていると何も言わなくなった。
こいつほんと、私のことどう思ってんのかな。横目でちらりと晴矢を見てみる。今度はメンズ雑誌じゃなくて携帯をいじくっていた。彼女とメールでもしてんのかな。そう思うと胸がちくりと痛んだ。晴矢はこんなに近くにいるのに、すごく遠くにいる気がした。私は涙が出そうになるのをぐっとこらえて、気をまぎわらすためにゲームに集中した。








しばらくゲームをやっていると飽きてきた。やっぱウィダーシン倒せない。強い。


「はるやあ、暇ぁ」
「お前今日こそ倒すんじゃなかったのかよ」
「無理だった。また今度やるわ」
「お前には一生無理だな」


晴矢は携帯をいじるのをやめた。お前そろそろどけよ、と言われたが嫌だあと言って晴矢のお腹に顔を埋めてやった。何か言って来るかと思ったけど意外に晴矢は何も言って来なかった。晴矢あったかい。ぎゅっとベッドのシーツを握り締める。あーあ、こんなことはさせてくれるのに、彼女にはならせてくれないんだろうなあ。しばらくそうしていたけど、顔をあげて晴矢に問い掛けた。


「ねー晴矢。彼女どうなった?」
「あー?別れた」
「またあ!?早過ぎだろ!」「なんかうざかったから」
「うざいってあんたねぇ…」
「お前パンツ見えてるぞ」
「いーよ別に。いっしょにお風呂入った仲じゃん」
「おまっ、ガキの頃の話だろ。変な風に言うな」
「晴矢照れちゃって。かわいー」
「照れてねぇ!……つーかお前は。彼氏つくんねぇの?」
「えぇー、いいよ別に。要らない」
「つまんねー女だな。まあこんな女相手に勃つモンも勃たねぇよな」
「なにそれ。私じゃ勃たないとか晴矢死んだ方がいい」
「なんだよ、じゃあお前勃たせたことあんのかよ?」
「それはないけど…この前隣のクラスの池谷くんに告られたよ」
「は?」


晴矢がびっくりしたように上半身を起こした。え、なんでそんなびっくりしてんの… 晴矢はびっくりした顔で私を見ている。…もしかしてお前程度の女に告る奴とかいたのかよとか思ってんのかこいつ。


「お前それガチ?」
「ガチだよ。なんでわざわざそんな嘘つかなきゃなんないの」
「マジかよ…」
「晴矢どうせこの程度の女に告る奴とかいたのかよとか思ってるでしょ」
「あ?…よくわかったな」
「うざ!」


腹いせに晴矢のお腹から足の方までごろごろと転がってやった。何回か往復する。三回目ぐらいにお腹に来た時さすがに晴矢に止められた。


「お前それやめろ。うざい」
「晴矢の方がうぜぇ」
「お前そんな口悪いから彼氏出来ねぇんだよ」
「うるさいっ 晴矢のがうつったの」


なんかムカついたので起き上がって晴矢の耳に噛み付いてやった。ガブリ。甘噛みだが晴矢はびくっとなった。こいつもしかしてビビった?


「なに晴矢ビビったの?」
「…るせっ、ビビってねぇ!」
「ビビってんじゃん」
「ビビってねぇ!」


晴矢は後ろを向いてしまった。ビビったのからかったせいでいじけちゃったようだ。やれやれ。可愛い奴だ。
私は仕方ないので晴矢に構ってあげることにした。だが顔が緩んで仕方ない。笑いながら私は背を向けた晴矢に話し掛ける。


「晴矢ごめんごめん。からかってごめんね〜」
「うるせぇ帰れ」
「ごめんってばぁ」


謝ったものの笑いながら言ったから誠意は伝わっていないだろう。晴矢あ。名前を呼びながら晴矢の顔を覗こうとしたら、晴矢は必死に顔を反らしてきた。私も意地になって負けずと晴矢の顔を見ようとする。そんな攻防がしばらく続いた時、私はあるものに目が止まった。
晴矢の、股間に位置するあたり。そこが異様に膨らんでいた。ここはどこかは女の私でもわかる。口を開けてポカンとそこを見ていると、晴矢がだああああ!といきなり叫んだからびっくりした。晴矢を見ると顔が赤かった。だから見られたくなかったのか…


「は、晴矢?」
「帰れ!」
「私じゃ勃たないじゃなかったの?」
「うるせぇ帰れ!」


私は晴矢に無理矢理部屋から追い出されてしまった。ご飯まだ食ってないのに… 「晴矢!」「帰れ!」目の前でバタンとドアが閉じられた。は、晴矢…耳を甘噛みしてびくってなったのは感じちゃったからだったのか… 悪いことしたなあ。「晴矢、ごめんね。私帰るね」といって私は階段を――降りなかったここで帰る私ではない。階段を降りるふりして足跡をたてた。私は知っているのだよ晴矢。晴矢のクロゼットの中にエロ本が何冊かあることを!
私は帰ったふりして晴矢の部屋の前で待機した。しばらくつっ立っていると、「名前?」と晴矢の呼ぶ声がした。もちろん返事はしない。もうしばらく待っていると、クロゼットの開く音がしたので、私はフッと笑って音をたてないように階段を降りていった。




Acting cozy./南雲
20110823