小説 | ナノ



「告白しようと思うんだ」


混み合うリフレッシュルーム、運良く座れたカウンターで、俺はカレーを食べながら真面目に言った。隣のジャックは俺の決意表明に大して驚いた様子こそ見せなかったが、へぇ〜とにやついてナポリタンをフォークに巻きはじめた。


「いいんじゃない?」
「でもこれでフラれたら俺0組にもう顔出せないんだよな」
「フラれないと思うけどなあ〜」
「なんでだよ」
「なんとなく」


なんとなくか。ジャックはそう言うが現実はどうかわからない。俺はカレーに入っているにんじんをスプーンで細かくしながら考えた。
俺は努力の末名前と仲良くなれた。今では気軽に話し掛けられるほどに。時間はかかったが距離は確実に縮められたので上出来だと思う。そして俺はついに名前に告白しようと決めた。ということで今に至るわけだが。しかし名前に告白 するにも、いつどうやってというのが全く決まってない。しかも名前がいつミッションでいつ暇なのかもわからない。まったくの不安定な状態だ。


「ていうかいつ告るの〜?今日?」
「んなわけないだろ。決まってないんだ」
「へ?違うの?」
「違う違う。なんだよ?なんかあんのか?」
「いや実はさあ〜、0組って明日の朝からミッションなんだよね〜」
「え、」
「しかも長期の。しばらく会えないだろうな〜」
「ええええ!」


俺は思わず叫んだ。まわりの候補生が俺達を不審な目で見てきたので恥ずかしくなって慌てて座った。


「ま、まあでも別に名前が帰って来てからでも…ちなみにいつ帰ってくんだ?」
「だいたい二週間ぐらいかな〜?」
「…ん?二週間後て確か…」


俺は考えた。明後日ミッションがあって、次のミッションが確か二週間後…?


「俺のミッション初日じゃねーか…?」


う、嘘だ… しかし0組と俺のミッションの日時を思い出して照らし合わせると確かにそうなる。待てよ、ということは名前と次に会えるのは1ヶ月と一週間後ということに…?俺は再び立ち上がった。「どこ行くの〜?」「名前んとこ」カレー片付けるの忘れたがジャックがなんとかしてくれるだろう。多分。俺は魔法陣を踏んだ。しゅんと視界が白くなり、次の瞬間にはエントランスについていた。教室に向かいながら、名前に告白すると言ったもののなんて言えばいいのか全く決まってなかったので考えた。好きです付き合ってください…いやこれは違うな。他になんかないのか。俺は必死に考えたが思い付かない。気づくともう教室の前にいた。もうこうなったら流れで行くか。教室のドアを開ける。心臓がドキドキ高鳴っていた。うわ、なんでこんな俺キンチョーしてんだろ…。手には脂汗かいてるし。俺こんなんでちゃんと告れるのかな…。キンチョーしながら教室に入り、名前を探す。「…あれ」きょろきょろと見回すが名前の姿が見当たらない。俺がきょろきょろしているのを見てエースが声をかけてきた。


「どうかしたのか?」
「いや、名前知らないか?」
「名前?さっきまでいたんだけどな… あ、さっきチョコボの話してたからチョコボ牧場にいるんじゃないか?」
「チョコボ牧場…わかった。さんきゅ」


告白する場所がチョコボ牧場というのもなんだかロマンに欠けたが、会えるならとりあえずどこでもいいかと思いまたチョコボ牧場に足を運んだ。
しかしチョコボ牧場にも名前の姿はない。途中でマキナを見かけたので名前知らないかと聞くと、さっきサロンで見かけたと言われたので今度はサロンに向かった。が、サロンにも姿が見えない。そのあとテラスに行ったが見つからず、魔法局、闘技場やクリスタリウムにまで行ったが見当たらない。探しているうちに夕方になってしまい俺は慌て始めた。エントランスで立ち止まり、必死に名前が他に行きそうなところを考えた。寮の部屋にもいなかったし、思い付くような場所は他にない。他は、他は…


「あれ〜?ナギ?」


聞き慣れた声に振り向くと、ジャックがいた。


「あぁ、ジャックか」
「名前のとこ行ったんじゃないの〜?」
「いや実はさあ、名前が見当たらなくてよ」
「へ?さっき教室にいたけど…」
「教室に?」


さっき教室は見たはずだからそんなはずは… あっ、裏庭か!そういえば見てなかった。裏庭と0組って直結してたんだよなあ。忘れてた。


「もしかしてまだ会ってないのお?」
「まあな…見つからなくて」
「も〜、早く行ってあげなよ。まだ教室にいると思うよ」
「あ〜…ありがと。行ってみる」


ジャックと別れて教室へ向かう。なんかここまで来るのに時間かかったなあ… それゃあ魔導院一周近くしたんだから時間もかかるか。少しキンチョーしながら教室のドアを開く。教室に入って名前の姿を探した。が。(…あっれ〜?)見当たらない。まさしくデジャヴュだ。いやそれどころじゃない。俺はもしかしたらと裏庭に行ったが、やはりどこにもいない。裏庭でキングと会ったので名前知らないかと聞いてみると、驚きの一言が。


「ああ、ついさっきまでいたんだが、またどこかに行ってしまった」
「なにぃいぃぃ」














わたしはテラスにいた。風が冷たくて少し肌寒かったが、逆にそれが気持ちいい気がした。噴水広場を見下ろすと、何人かの生徒が歩いているのが見えた。中には手を繋いで歩いているカップルもいて、なんだかちょっと羨ましい気分になる。ふとナギと自分が手を繋いでいるのを想像した。手、繋いで、一緒に歩いて、一緒にご飯食べたりして… 考えいててちょっと恥ずかしくなった。ひとりで顔を赤くしていると、「名前!」後ろから名前を呼ばれた。振り向くとそこには息を切らしたナギがいて、さっきまでナギのことで妄想していたわたしの体温は上昇した。ナギは「あーやっと会えた」と言いながらこっちにやって来た。やっと会えたって、わたしを探してくれてたってこと?うれしくなってさらにちょっと顔が赤くなった気がした。するとわっとナギが悲鳴をあげて転んだ。どうやら段差につまづいたようだった。わたしは慌てて四つん這いのナギのところまで行ってしゃがみ込んだ。


「だ、だいじょぶ?」
「あ、だ、だいじょうぶ…」


ナギは照れたように下を向いた。わたしはそんなナギが可愛く思えて、クスクスと笑った。ナギは最初ちょっとむっとした顔をして、わたしの頬を両手で掴んできた。


「コラ。なに笑ってんだ」
「ふへへへっ」


わたしは笑いながらナギを見た。多分ナギから見たら両手で顔を掴まれたぶさいくな顔になっているんだろうけど、わたしはなんだかおかしくて笑ってしまう。するとナギがふと真面目な顔したもんだから、わたしは笑うのをやめてしまった。


「お前さあ、」
「ん?」
「かわいいよなぁ」


ぽんと体温が上昇した。かかかかわいいよなぁってななななにいきなり。わたしがはわはわしていると「あ、いや」ナギも照れたような顔をして手を頬からどかせた。ちょっとの沈黙。わたしは口を開いた。


「あのさっ」
「なあっ」


ナギもわたしと同じタイミングで口を開いたもんだからまた慌てた。「あ、ナギからどうぞ」「い、いや名前から」「いいやナギから」「そ、そっかえっと…」ナギは自分から言い出したくせに照れたような顔してなかなか言い出さなかった(でも多分わたしも同じような顔してる)。


「あの…さ、名前、好きな奴とか、いるんだっけ?」
「ふぇ、ええと、いるっちゃいるけど、その…」
「あ…いるんだな…」あなたですとか言えるわけがない。 いやでもナギに他の奴好きって思われるのも嫌だなあ…!これが怖くてこの手の話はしないようにしていたんだけどまさかのナギから吹っかけて来るとは思わなかった。


「それってジャック?」
「ちっ…違うよ!」


慌てて否定する。それだけは勘弁だ。いやジャックが嫌いとかいう意味ではなく、ナギにそう思われたくないから。ナギは納得したようだったけど、わたしはどうも他に好きな奴がいると思われてるのが気にかかった。


「あ、ていうかナギ、わたしになんか用事あったんじゃないの?」
「あ、いや、その…」
「なに?」
「…名前、いま好きな奴いるんだよな?」
「ま、まあ一応…」
「あのさ、嫌ならフツーに断っていいんだけどよ、」


わたしはそこでようやくナギの顔が赤いことに気づいた。初めてみるくらい真っ赤だ。わたしがナギに見とれてると、ナギが信じられないことを言ってきた。


「俺と付き合わね?」
「……え?」


最初意味がわからなかった。が、ちょっと経ってからわたしの体温がぼんと上昇し、さらに心臓が死ぬほど跳ね上がった。ななななに!多分いまわたしの顔が真っ赤だ。あまりのことに目の端には涙が若干たまっている。「あ、あの、えええと」髪の毛いじったりしてひとりであわあわしていると、ナギがわたしの頭にぽんと手を乗せてきた。


「わりぃ」
「へっ?」
「お前好きな奴いるのにな。困らせてわりぃ」


ナギがそう言いながら去って行こうとしたのでわたしはかなり慌てた。「まままま待って!」ナギの服を掴もうとして、興奮したわたしはがしっと両手で抱きしめるように服を掴んでしまった。「名前?」びっくりしたナギの声が上から聞こえてきた。逆にナギの顔が見えなくてよかった。わたしはさりげなくナギの背中に顔を押し付けながら、下をむいて言った。


「あのナギ、」
「ど、どうしたんだ?」
「……すき」
「え?」
「好き」
「…え?」
「好き」


わたしはばかみたいにずっと好きだと言い続けた。ナギが慌てていたけど後ろから抱きしめて顔を見させないようにしていたが、ナギがわたしを引きはがしてわたしの正面を向いたからわたしは下を向いた。「名前」ナギがわたしの名前を呼んでわたしの顔を覗いてきたからわたしは必死に顔を反らした。


「名前、顔、見せてくれ」
「やだ」
「見たいんだ」
「やだ!」


子供みたいにやだやだとわがままを言う。するとさっきと同じように頬を両手で掴んできた。「名前」名前を呼ばれて、ようやく顔をあげた。心なしか顔が少し赤いナギと目が合った。まあわたしのほうがずっと赤いんだろうけど。


「好きな奴って、俺のこと…だったのか?」
「……うん」
「俺のこと、好きなのか?」
「…うん」


頬の感触がなくなったと思ったらばっと抱きしめられた。わたしはびっくりして「なななナギ」と放れようとしたが何しろ男女の力差じゃ引きはがせるわけがない。強い力で抱きしめられて、(いや全然嫌じゃないんだよむしろ嬉しいんだよでも恥ずかしいしだれか来るかもしれないじゃんあああナギいい匂いする)もうわたしは爆発しそうだった。心臓がばっこんばっこんいっててナギに聞こえているんじゃないかって心配だ。いや多分聞こえてるんだろうけど。


「ああああのナギ」
「ん、なんだ?」
「だだだ誰か来ちゃうかもしれないしあのそろそろ、」
「やだ」
「えっ」
「もうちょい。いいだろ?」


いいだろ…じゃなくて。わたしはなんとか引きはがそうとしたがやはり無理だった。しかたないのでしばらくそうしていると、ようやくナギの力が抜けていって解放された。


「あ、わりぃ苦しかったか?」
「あ、大丈夫」
「そっか…」


するとふとナギの顔が近寄ってきたと思うと頬に温かい感触。頬にキスされたとわかるのに時間はかからなかった。


「っわ、びっくりした」
「今のは餞別。あともう一ヶ月くらい会えないからな」
「ええ!?なんで?」


どうやらわたしとナギのミッションがすれ違うようになってしまっているようで、約一ヶ月くらい会えないらしい。ようやく付き合えたのになあ… ん?ていうかわたしたち付き合ってるの?わたしが頬を押さえて下をむいていると、今度は額にキスされた。


「ま、かわいー彼女が出来たから、そんぐらい我慢出来るか」


わたしが照れ笑いを浮かべると、ナギは今度はわたしの唇にキスをした。
…手を繋いで噴水広場を歩くのもそう遠くないかも、と思った。妄想が現実になるなんてそうないよね。…まあ少し、時間はかかるかもしれないけど。






ティーンエイジャー/ナギ
20111222