小説 | ナノ
※下ネタあり
愛酒主義の続き














「この前はよくもまあ人の家でお楽しみやがって…」


わたしはぎくりとしてカップラーメンを食べていた手を止め、テレビからキングに視線を移した。キングの顔には怒りの感情が滲み出ている。まさかばれた…?物的証拠はすべて持ち帰ったしないはず。なのにまさかばれたのか…?わたしは視線をテレビに戻して再度カップラーメンを食べはじめた。


「ナンノ話デスカ?」
「しらばっくれるな」


キングはわたしの頭を持っていた雑誌でスコーンと叩いた。カップラーメンこぼしそうになったが必死に汁を守ってなんとか死守した。わたしはキングを睨みつけながらカップラーメンを頬張る。


「クソなんでばれた」
「人のもの勝手に使うな。さすがにばれるだろ」


と言ってキングがわたしの目の前に突き付けてきたのは避妊具の箱。確かにあの時持ち合わせてなくてキングのを勝手に使った。なるほど。キングの家のゴムの場所なんて知ってるのはわたしぐらいだ(もしかしたらキングの彼女も知ってるのかもだけど)。一個くらい使ってもばれないと思っていたのになんでゴムの数覚えてんだよネチネチしやがってきもいわ。


「あとティッシュの数が異常に減ってた」
「あーそればっかりはしょうがないな」
「しょうがなくないだろう」


スコーン。二度目だ。痛くはないのだがいかんせん衝撃が強くてカップラーメンこぼれそうになる。危ない。こぼしたら汚れて怒るのはキングのくせに。
わたしは今キングの家にいた。なぜかというとわたしが家の鍵をケイトの家に忘れるという失態をおかして家に入れないからである。ケイトの家まで電車で約40分。取りに戻ろうと思ったのだが電車がもうなかった。ナインの家に泊まろうかと思ったがナインの家も電車じゃなきゃ遠すぎて行けない。ジャックの家はは歩いて一時間くらいで着くが、キングの家の方が歩いて5分というお手軽さだったので当たり前ながらわたしはキングの家へ行った。そして半ば強制的に家にねじ入りカップラーメンを勝手に食べているわけだ。


「お前俺ん家にいて大丈夫なのか」
「は?なんで?」
「ナインに怒られるだろ。というか俺ん家来ないで最初っからナインに頼れよ」
「あー、いいのいいの。ナインん家は遠いしわがまま言って迷惑かけたくないんだよね」
「別にあいつは迷惑だとか思わないと思うけどな。浮気とか疑われたらどうすんだよ」
「いーの。別に浮気してるわけじゃないからいいじゃん。つかキングと浮気とか吐く」
「ああ俺もそれは吐くな」
「てかキングは?彼女いんのにいいの?」
「別れた」
「音速!キモイ!」


スコーン。三回目だ。あっ、カップラーメンこぼれた。

















翌日ケイトの家に行き鍵を回収して自宅に帰ってからソッコーで寝た。キングん家で飲んでしまい一睡も出来なかったのだ。わたしはキングにだる絡みをして頭を叩かれるということをひたすら繰り返していたということしか覚えてない。
目を覚ますと食べ物のいい匂いがした。あーお腹減ったなぁ… なんか食べなきゃ… と思ったが、いやわたししかいないのに匂いっておかしくね?と思ってばっと体を起こした。慌てて辺りを見回すとわたしがいるのが寝室ではなくリビングだと気づいた。そういや昨日寝室行くのめんどくさくってテレビ見ながら寝ちゃったんだ。体を動かすと毛布がかけてあるのに気づいた。どうやら誰かがかけてくれたらしい。
キッチンを見ると、長身で金髪の後ろ姿でなにか作っているのが見えた。一瞬キングかと思ったが髪型が違う。ってことはナインだ。わたしの家の鍵持ってるのわたし以外にナインしかいないから。そういえば今日来るとか言ってたな。わたし完全に家着な上に髪ボサボサだよ。わたしはささっと髪を手櫛で簡単に直すとナインのところまで歩いた。


「おはよ〜」
「あ、起きたか。おはよ」


どうやら野菜炒めを作ってくれているようだった。いい匂いの原因はこれか。


「お腹減った」
「そう思って作っといてやったぜコラァ」
「ナインありがとうマジ愛してる」
「おう」


軽くあしらわれた。最初は照れてたけど回が重なる度に態度がフツーになっている。あーあ最初は照れて可愛かったのになぁ… じっとナインを見つめるとなんだよとちょっと照れたようにそっぽを向かれてしまった。あっやっぱり可愛い。


「あ、醤油とソースどっちがいい?」
「醤油」


わたしは答えるとトイレに向かった。てか今何時だろ。ちらりと時計を見ると夕方だった。うわ、また睡眠時間ずれた。わたしがトイレから帰って来ると野菜炒めはもう出来ていて、皿に盛られてテーブルの上に出されていた。ホントナインは良い主夫になるよ。


「ナインありがとー。あ、わたしご飯盛るね」
「おう。任せた」


ご飯盛りながらなんか新婚さんみたいな会話だなあと幸せに浸る。ご飯を持ってテーブルに置く。あ、箸がない。わたしは棚から箸を取り出してテーブルに置いた。ナインが飲み物を出してくれていて、じゃあもういいかとわたしは席についた。


「食べよーよ」
「ああ」


ナインも席に着き、いただきますとご飯を食べはじめた。わたしはもぐもぐ食べながらテレビのリモコンをテキトーに回す。面白そうなバラエティ番組がやっていたのでそれにする。しばらくテレビを見ているとナインが口を開いた。


「つーかよぉ、お前なんでリビングで寝てたんだ?」
「あー昨日寝てなくてさ、帰って来てソッコー寝ちゃった」
「アァン?寝てない?」
「うん。実はさ、ケイトん家に家の鍵忘れちゃってさぁ、終電もなくって」
「それでどうしたんだ?」
「しょうがないからキングん家に泊まっ…たんだ…け…ど……」


言ってから、ヤバイと中途半端に言葉を切った。しかし時すでに遅し。からんとナインが箸を落とす音がした。わたしがおそるおそる振り向くと、ナインが怒りと驚きの表情を浮かべてわたしを見ていのでわたしは慌てて弁解を始めた。


「ごっ、ごめん。でもべつに何もなかったし、ほら考えてもみなよあのキングだよ?なにかあるわけないじゃんあいつ彼女いるしっ」
「…あいつ別れたろ」
「えっ、あっそうなんだ。いやでもホント大丈夫だったからさ。ほら他に家近い知り合いいなかったしその時わたしお金なくて」


ナインがテーブルを叩いた。わたしはビクッとのけ反る。怖い。ビクビクしながらナインを見ると、表情が完全に怒っていた。怖い。ふざけんな、というナインが小さくつぶやく声が場違いのバラエティ番組の音と混ざって聞こえた。


「な、ナインあの、」
「なんで行った」
「え…」
「なんでキングん家行った?」
「だ、だって終電なくて、他に家近い知り合いいなかったし…」
「…だからってキングん家行ったのかアァン?俺に黙って」
「……ごめん」
「ハッ。結局俺はお前にとってそんな存在かよ」
「ちっ、違うよ」
「なにがちげぇんだよ!」


バン!とさっきとは比べものにならないくらい大きな音でナインはテーブルを叩いた。テーブルの上にあった麦茶の入ったコップが倒れてわたしとは反対側の方向に麦茶がこぼれた。いつもなら急いで慌ててテーブルを拭くのだが、今はそれどころじゃない。
ナインに怒鳴られ、わたしの視界はじわじわとにじんでいった。違う。違うよ。言いたいことが言えなくて、代わりに目から涙が溢れ出した。わたしはボロボロ泣きながら謝った。「ご、ごめっ…」でも嗚咽が邪魔をして上手く喋れない。


「……泣けば良いってもんじゃねぇだろうが」
「っ、ごめ…ごめんなさい…」
「…チッ」


ナインは機嫌悪そうに舌打ちをすると立ち上がった。ダウンジャケットを持って玄関に向かったのでわたしは泣きながら必死に「どこ行くのっ?」と聞いた。ナインは一瞬靴を履く動作をやめると、たっぷり時間をかけてから、「帰る」と一言。わたしが引き留める言葉を言い出す前にガチャンと音をたてて家を出て行ってしまった。
ナインが帰った後もわたしは泣いた。軽く考えていた。ナインの気持ちを。考えてみれば、ナインとどれだけ仲が良くて気のない幼なじみの女の子でも、ナインと同じ家に一晩泊まるなんて絶対に嫌だ。わたしはわたしがされて絶対に嫌なことをナインにしてしまったのだ。最低だ。別れてと言われたらどうしよう。嫌だ。でもわたしが悪いんだからどうしようもない。わたしは一人でわんわん泣いた。わたしは誰よりもナインが大好きだ。だから別れたくないよ。でもそれを伝えて拒否されるのが怖くて、連絡はできなかった。わたしはもう、泣くことしかできなかった。














わたしはいつの間にか寝ていたようだった。目を覚まして最初に感じたのは寒さで、起き上がって腕を触ると体温が氷みたいになっていた。
両手で自身を抱きしめて温めつつ、わたしは家の中を探した。ナインが戻って来てるかもというわたしの淡い期待はどうやら無駄だったようだった。ナインが戻ってきてる形跡はなく、靴もなかった。代わりにあったのはテーブルの上とこぼれた麦茶と倒れたコップ、すっかり冷えてしまった二人分の野菜炒めとかぴかぴに固くなったご飯だった。それとつけっぱなしのテレビ。わたしはそれを見てじんわりと浮かんで来た涙を拭いて、痛む心を無視してテーブルの上を片付けた。
片付けた後、携帯を開いたら夜中だということがわかった。それとメールが3件来ていた。無駄だとわかっていても期待した。メールのうち2件は友達からで、もう1件は購読している友達のブログのメールだった。わたしは落ち込み、気を紛らすために家事をやることにした。皿洗いに洗濯物。それに掃除機。洗濯物をたたんでいる時に気晴らしに聞いていた曲の中に失恋ソングが入っていて泣けてきたので音楽を聴くのをやめてテレビをつけておくことにした。
真夜中の時間になっても眠くならなかったので深夜アニメを見ていたら、恋愛ものだったので途中で辛くなってやめてチャンネルを変えたが、どれもこれもつまらなかったり辛くなったりして見れたものじゃなかった。仕方ないから音楽プレイヤーから恋愛要素のない曲を選んで聴いた。けどどんなに音量を上げても結局ナインのことを考えてしまって、泣けてきたから音楽を聴くのをやめた。
ねぇナイン。ナインがいない一日ってこんなにつまらなくて悲しくて寂しいんだね。付き合う前はこんなことなかったのに、やっぱり人間一度幸せを感じてしまうとどうしても幸せと比べてしまうんだね。ナインと過ごしてきた時間は、すごく幸せだったんだね。どうして気づかなかったんだろう。今更気づくなんてほんとにバカだね、わたし。
もう一緒にご飯を食べたり、出掛けたり出来ないんだと思ったら泣けてきた。もう止める術も気もなかったから、わたしは静か泣いた。やけくそで失恋ソングを聴いたら、体中の水分が全部なくなるんじゃないかってくらい泣いた。涙が枯れるという経験を初めてした。


























夢を見た。ナインがわたしにキスをしてくれる夢だった。唇の感触が妙にリアルで、わたしはその夢がずっと続けばいいのにと思った。夢の中のナインは悲しい顔をしていて今にも泣きそうだった。わたしはナインが悲しい顔をしているのが嫌で、なんとかその顔を笑顔にしようとナインの顔に手を伸ばした。夢の中のナインはびくりとして一瞬体を引いたが、わたしの手は温かなナインの頬に触れていた。


「ナイン、泣かないで…」


ナインの顔が一瞬驚き、そして緩んだ気がした。わたしは嬉しくて笑った。わたしの手が力無くナインの頬から落ちようとしたが、ナインがわたしの手をとってくれて落ちなかった。わたしはそれが嬉しくて、ナインが握ってくれている手に力を入れた。するとナインもわたしの手を握る力を強めてくれて、わたしは自然に自分の気持ちを口にした。


「好きだよ」


ああ、俺もだぜ。わたしの大好きな心地好い低いバストーンに、わたしは口元を緩めた。ナインがまたわたしにキスをしてくれて、わたしはなんていい夢なんだろう、と深い幸福を感じた。わたしは幸せだ。ずっとこのまま目を覚まさずにいればいいのに。ナインと喧嘩をした最悪な現実よりも、ナインが優しくキスをしてくれるこの夢の方が、ずっと良い。


「いい夢…」


嬉しくて涙が出た。夢でいいから、ずっと覚めなくていいから、どうかずっとこのままナインと一緒にいさせて。ぎゅっとナインの手を強く握ると、ふと夢の中のナインが意地悪そうに笑って口を開いた。











「夢じゃねぇし」











「…へ?」


頬の痛みで一気に現実に引き戻された。


「いった…!」


強い痛みにわたしが飛び起きると夢の中にいたはずのナインが目の前にいて目をかっ開いた。わたしは混乱して意味のわからないことを言うとあまりに驚いてナインからのけ反った。


「えっなっ、なんでナインが、だって夢、ちょっと待っ、なにこれナインなにこれっ」
「意味わかんねぇよ」


意味がわからないのはこっちだ。だって待ってよ、ナインに会ってたのは夢の中じゃないの?いやしかし目の前にいるナインは本物で今わたしは現実にいるということを本能が告げていた。ちょっと待ってよだとしたらさっきのは全部… わたしはナインの手に握られているわたしの手を見ると、ナインとしばし見つめ合った。そしてわたしはようやく全てを理解した。


「えええええ!」
「うるせぇ」
「だ、だって、わたし、夢かと思って… ええええ」
「お前フツーに喋ってたくせになんで夢なんだよ。バカかコラァ」
「うぅ…」


わたしはなんだか泣けてきて、視界をじんわりとにじませながらナインに抱き着いた。男臭いこの匂いは明らかにナインのものだ。わたしはたまらなくなって泣きながら抱きしめた。


「もう会えないかと思った…」
「バカ。そんなことあってたまるか」


ナインも抱きしめ返してくれて、わたしは嬉しくてボロボロ泣いた。会えなかったのはたった一日なのに、一年間ぐらい会ってないような気がしてたまらなかった。わたしはやっぱりナインがいないとダメなんだということを実感した。



「…悪かった」
「え?」
「昨日は言い過ぎた。マジでごめん」
「ううん、わたしもごめんね。わたし自分がされて嫌なことナインにしてた。ホントにごめん」
「俺も悪かった。ごめん」


二人で謝って、わたしたちはしばらく抱き合った。わたしは嬉しくてたまらなくて、幸せを実感したかった。あんまり嬉しくて涙が出てくるぐらいだ。しばらく経ってからようやく離れた(手は繋いだままだったけど)。


「ナイン、ホントにごめんね。わたしもう絶対ナイン以外の男の人の家には行かないよ」
「あ、いや、ちげぇんだ。それじゃない」
「へ?」
「あ、あのな」
「?…うん」
「俺、あの時怒ったの、別にキングん家に泊まったからじゃねぇんだよ。キングは信用してっから別にいいんだ」
「え?じゃあ何に怒ったの?」
「お前が俺じゃなくって、キングを頼ったのが許せなかったんだ」
「…そうなの?」
「頼られなかったのが悔しくてお前に八つ当たりで怒った。だから俺が悪ぃんだ。マジでごめん」
「でもわたしも悪いよ。ナインに黙ってキングん家泊まったりして。ホントごめん」
「だから謝んなくていいって」
「で、でも…」
「名前、目赤ぇぞ?」


ナインがわたしの頬に触れた。目の辺りをくすぐるように触るのでわたしはくすぐったくてふふっと笑った。


「くすぐったいよ」
「あ、わりぃ。つかお前、もしかしてずっと泣いてたのか?」
「う、うんまあ…」
「俺のことでか?」
「うん」
「…バッカじゃねぇのお前。俺のせいなのに」
「…だって」
「あーっ泣くな泣くな!」


こぼれそうになった涙をナインが服の袖で拭った。乱暴に擦るからちょっと痛かった。でもおかげでわたしはすぐ泣き止んで、それを見てナインは満足そうに笑ってわたしを抱きしめた。そのまましばらく抱きしめ合った。ナインと一日離れていたからかいつもよりずっと幸せに感じる。多分一分くらいの短いだったと思うけど、わたしにはなんだかもっと長い時間に感じた。たった一日だ。たった一日、喧嘩して会わなかっただけでこんなにもナインが恋しくて苦しくなるなんて思わなかった。わたしはわたしが思っていたよりナインのことが好きだったみたいだ。
しばらくしてからナインはわたしからそっと離れて行った。わたしが少し名残惜しいなと思ったのが顔に出ていたのか、ナインはわたしを見てふっと笑うとキスをしてくれた。わたしはそれが嬉しくて嬉しくて、夢中でキスをした。ナインが口でキスしていたのが頬にキスしたり額にキスしたり、それがくすぐったくてわたしがクスクス笑ったり、しばらくずっとそんなことをしていた。いわゆるイチャイチャというやつである。だがあんまりナインを調子に乗らすと本番まで持ち込まれるので、明日予定ある時などはよくわたしが制止する。なので今回も服の中に手を突っ込まれたのでわたしはナインの手首を掴んだ。


「だめ。明日予定あるから」
「アァン?いいだろ別に。今日くらい」
「いやだからナインはいいかもだけどわたしは明日っひゃあ!」


思わず奇声をあげた。ナインがわたしの耳元に舌を這わせてきたからである。すぐ耳元で聞こえる生々しい水音にわたしはある意味ぞっとして体を反らして逃げようとした。しかしそれを妨げるようにナインはわたしの首筋を舐めた。「ばかっダメって言ってんじゃんっ」「るせぇなぁ」抵抗するがナインは当たり前だがわたしより遥かに力が強い。わたしの抵抗など無駄だし、ナインが恋しくて仕方なかったわたしは駄目だとわかっていても無意識に抵抗を緩めて、行為に肯定的になってしまう。案の定その隙をナインは見逃さず、わたしの手首を掴んで押し倒して来た。反論をしようと口を開いたら狙ったのかタイミング良く深いキスが降ってきた。それがあんまり長いのでわたしは息が出来ないのを脚をばたつかせて訴えたらようやく唇を離してくれた。わたしが再度反論しようと口を開くとナインが手で口を塞いできたので、わたしは首を傾げた。ナインは黙ってわたしの耳に唇を近づけると、わたしが言われたら絶対に敵わなくなる言葉をそっとささやいて、わたしを縛り付けるたのだ。


「好きだ」






マイ・スイートハート/ナイン
201201124