ロストガール | ナノ



「源田、宿題やった?」

「まぁやったはやったけどな」

「見せて、というか写させて」

「合ってるかわかんないぞ」

「別にいいよ。こんなもんやれゃあそれでいいんだから」



転入から1ヶ月。私は日常らしい日常を送れていた。バレることもなく部活も休まずに全て出れた。体育と部活、口調さえなんとかすれば案外バレないものだった。何か問題があったとすれば、前にクラスの女子から、その、いわゆるラブレターというものをもらってしまったということだ。もちろん丁重にお断りしたけど、なんだか騙してる気分で嫌だなと思った。いや、実際騙してるんだけど。私が必死に源田の数学の宿題を写していると、後ろから元気な声がした。



「なあ、なあ桃原!」

「あーもう、なんだよ。今忙しいんだけど」

「あのさ、今度遊びに行かね?」

「はあ?遊びとか時間ないじゃん。部活どうすんだよ」

「今度の日曜!部活オフらしいんだよ。鬼道が言ってた」

「そうなのか?」



これには源田も初耳だったらしく驚いていた。この帝国学園は強豪校だけあって、日曜日も部活があるのだ。だが佐久間は日曜日の部活がオフだと言った。さらに鬼道の名前を出したのだから説得力がぐんと高まる。どうやら本当らしい。佐久間は機嫌よさそうに私と源田に席を近づけて座った。



「で?桃原来んの?」

「別にいいけど。どこいくの?」

「カラオケ」

「カラオケか…」



別に音痴とかじゃないが、ずっと行ってないから歌えるか不安だ。しかも考えたら私の歌う曲のジャンルが完全に女の子のジャンルだ。女向けの曲を一曲とか二曲ならまだしも何曲も歌われたら変に思うんじゃないか?対策として行かない、という手もあるが、最近はずっと遊びに行ってなかったから行きたいし、大した曲を歌わなきゃ大丈夫だろう。



「なんだよ?まさか音痴とかじゃないよな?」

「いや、そういう訳じゃない。行くよ」

「おっマジで?やった。じゃあ源田は行けるか?」

「俺はいい。めんどくさいし」

「えぇー、行こうぜ」



佐久間が源田を誘ってる間、私はずっと何を歌おうか考えながら宿題を写していた。男性アーティストはあんまり知らない。私はどっちかっていうと若い女性向けの切ない歌が好きなのだ。まあ別に、佐久間だからその曲を歌ったって大丈夫だとは思うけど。





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