ロストガール | ナノ


ばさ、とクローゼットから学校の制服を取り出した。新品で、一度も着たことのない男子用の制服。私はそれに袖を通すと、慣れない手つきで制服を着た。私は、今日から帝国学園の男子生徒になる。私の名前は桃原未来。正真正銘、女だ。その女の私は、ある理由で男として帝国学園に転入することになった。その理由はひとつ。サッカー部に入るためだ。私は昔からサッカーが大好きで、たくさんの大会に出て、たくさん勝利を手にしてきた。私がサッカーで勝つと、みんなが喜んでくれた。だから私も嬉しくなって、一生懸命に頑張ってきた。だけど中学生になると、私が女というだけでみんな私を差別するようになった。「女だから駄目だ」「だってお前、女だろ?」「女は入ってくるな」みんな口々にそう言って私を女として差別した。女だから、女は駄目だ。女の何がいけないのか私にはわからなかったけど、女だとサッカーは駄目だということを学んだ。ずっと前にフットボールフロンティアという全国大会に出ていたサッカーチームに女を見かけることがあった。だけどそのチームがフットボールフロンティアインターナショナル、FFIに出た時はその子はいなかった。それどころか、FFIに出ていたサッカーチーム全てにおいて女のプレイヤーはいなかったのだ。そこで私は思った。サッカーをするには、女じゃ駄目なんだ、と。でもどうしてもサッカーがやりたかった。サッカーがどうしようもなく好きだった。考えに考えた私は、男になろうと決意した。女を捨てる。サッカーを続けるにはそれしかなかった。私は親に相談した。親はそれを認めてくれた。親は私が女ということにコンプレックスを持っていることを知っていたし、私の決意を否定なんてしなかったのだ。そこで私はどこの学校に転入するか考えて、帝国学園という最強サッカーチームがある学校を見つけた。迷わず私は電話してその学校に決めた。さすがに最強サッカーチームであるから、サッカー部に入るには試験を受けないと駄目だった。でも女だという事実を隠して受けれる試験ではなかった。諦めるしかないのか。そんな風に絶望しかけた私の前に現れたのは影山零治という男だった。その人は帝国学園の総師で、私が女だと知りながら帝国学園に招いてくれた。だけど私は女としてではなく、男として転入したかった。女だと見下され、差別されるから。それは私の女としての最後の意地でもあった。だけど総師はその条件を受け入れ、私は晴れて帝国学園に転入することが出来たのだ。私は制服を着終えるとふと思い付いて、鏡の前に立ってみる。全身が映る大きな鏡に映ったのは細身で小柄の、中性的な顔立ちをした少年だった。


(大丈夫、だよね…?)


特に変なところはない。私はよし、とスクールバッグを掴んで玄関に出て靴を履いた。ぎゅっ、と強く靴ひもを結ぶと、同時に気分が引き締まったような気がした。私は気合いを入れるとドアノブを捻って外に出た。明るい太陽の日射しに思わず目を伏せる。



今日から、の新しい生活が始まる。




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