ロストガール | ナノ



どうやら俺の予想は外れていたようだ。今の質問からして多分、源田は桃原の秘密を知っている。多分桃原が更衣室で着替えていたあの時、見てしまったのだろう。源田は女の手さえ握ったことすらなさそうな奴だから(あくまで予想だが)、桃原の秘密はかなり衝撃的だったと思う。とりあえず、今してきた源田の質問にどう答えようか。俺は焦る気持ちを必死に隠しながら、平然を装って源田に言った。



「いきなりなんだ?」

「い、いや、もしもの話だよ。別に特に意味はないし」



源田は焦ったようにそう付け足した。いつもなら馬鹿にして答えないだろうが、今は色々と状況が違う。俺は少し考えると、「……そうだな」と口を開いた。



「俺がそいつを庇うなら、黙って誰にも言わないし、相談もしないな」

「……」

「もしバレたりしたらそいつは即退学だろう。そんなことになったらそいつだって自分だって嫌だろう」

「………」



源田は少しぽかんとした後、「う、うん。やっぱりそうだよな」と一人でぶつぶつ呟くと、席に戻ってしまった。俺は内心でほっとした。素直に納得してくれて良かった。すると、「鬼道、」ふと、横から話しかけられた。見ると話しかけてきたのは桃原で、俺はぎくりとした。もしかして今の会話を聞いていたのだろうか。俺がどきどきしていると、桃原から口を開いた。


「源田、なんかあったのか?すごい焦ってたけど」

「ああ、なんでもない。大丈夫だ」

「…なあ、なんかここんとこ源田の様子おかしくないか?今日の朝だって俺、源田に微妙に避けられてたみたいだし…俺嫌われてんのかな」



どうやら源田の様子がおかしいことに桃原も薄々気づいてはいたらしい。ただ、嫌われているというのは間違いだが。だがまあそう考えてしまうのは自然だろう。だって相手はあの不器用な源田だし、桃原の秘密を知った今、どんなふうに桃原と接すればいいのかわからなくなっているのだろう。俺は仕方ない、と思い、源田をフォローすることにした。



「それはないだろうな」「いやいや、多分そうだって。だって目も合わせてくれないんだぜ?」

「まあ、源田も色々あるみたいだからな。俺もあまり目なんか合わせてくれなかったし、気にするな」



俺の言葉に桃原はそうか?と首を傾げたが、どうやら納得したらしい。それ以上は何も言って来なかった。ただ、俺は二人の真実を知る者として、桃原に源田が桃原の秘密を知っていることを言うべきか悩んだ。多分、桃原はものすごく驚くだろう。ばれてないと思っているのだから。でも桃原は鈍いからもしかして、俺の知らないところで誰かに秘密を見られてたりしていないだろうか。源田のことも考えれば十分有り得ることだ。これはちょっと警戒した方が良いのかもしれない。というか、こいつにはちゃんと警戒心を持ってもらわなければ。また同じようなことがあってはたまらない。俺は桃原を叱るような口調で、口を開いたのだった。


「お前、もっと警戒心を持て」




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