ロストガール | ナノ



部活でトレーニングをしていたら、部員が二人ほど足りないということに気づいた。ひとりは理由を知っているから良いが、もう一人の方は理由も何も聞いていない。俺は近くにいた佐久間に聞いてみた。



「佐久間、源田はどこいった?」

「ああ、なんか桃原呼びにいったぜ」

「桃原を?」



聞き返してから、それがまずいことにすぐに気づいた。桃原は今、多分着替えているだろう。それに源田が呼びにいったということは―――
思わず冷や汗をかいた。桃原は今日、体操着を着てきていないと言っていた。だから生着替えになるのだろう。そこに源田が桃原を呼びに行ったというのだから、それは相当まずい。俺は佐久間に「先に練習していろ!」と叫ぶように言うと(佐久間がかなりびっくりしていた)、源田が行ったと思われる更衣室に向かってダッシュした。源田を早く止めなくては。上履きに乱暴に履くと廊下を走り、階段を一気にかけ上がった。更衣室は二階。もうすぐだ。二階に繋がる階段を途中までかけ上がったところで、思わず足を止めた。



「源田!?」

「あ、え、鬼道…?」



更衣室の前の階段に、源田がぼーっと突っ立っていた。考え事をしていたのか、俺が話しかけるとハッとしたようにこっちを向いた。



「どうした?」

「あ、いや、別に」

「…桃原とは会ったのか?」

「あ、え、えーと、ま、まだだ」



答えを聞いた瞬間に、俺はほっとした。まだ源田は桃原とまだ接触していないようだ。俺は源田に「先に練習に行け。桃原は俺が呼んでくる」と言って源田を先に練習に行かせると、ちらりと桃原のいる更衣室に目を向けた。まったく馬鹿じゃないのか。今日はほとんどの部活が休みで他の生徒はほぼいないのにも関わらず、何故男子更衣室で着替えるのか。普通に女子更衣室で着替えればいいのに。俺は眉をひそめてこめかみに手を当てるとハァ、とため息をついた。源田に見つからなかったから良いものを。すると、がちゃりと更衣室のドアが開いた。ユニフォームに着替えた桃原と目が合う。桃原は俺を見て一瞬ぎくっとしたが、俺とわかるとすぐにほっと顔を和らげた。俺はぐっと眉をひそめた。警戒心が無さすぎる。なんでもっとこう、男装している自覚がこいつにはないんだ!



「……お前は」

「え、なに?」



急に俺の声のトーンが低くなったのに桃原が気づいて首をかしげた。どうやら源田が近くに来ていたことにも気づいていなかったらしい。それに俺はさらに眉をひそめると、桃原の頭に向けて思いっきり手を振り下ろした。



「お前は馬鹿かあああぁぁぁあああぁぁぁ!!」



そういえば女を思いっきり殴ったのは始めてだと思った。






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