ロストガール | ナノ
「源田キモいんだけど」
気持ち悪いものを見たような顔の佐久間に言われて俺は「はっ?何が?」と聞き返した。すると佐久間は「自覚ないのかよ」とますます表情を強くした。キモいって何がキモいのだろうか。俺は考えたのだが何一つ思いつかなかった。
「なにがキモいんだよ?」
「お前の顔」
「俺の顔?」
「さっきからずっとニヤついてキモい」
…ニヤついて?言われて俺はさっきまで自分がしていたことを思い返した。さっきまで俺は、昨日桃原と一緒にいたことを思い出していたが、一体それが―――「あ」そういえば昨日のことを思い出して、顔の筋肉が緩んでいたような気が。佐久間は俺が気づいたのを見ると、「ますますキモい」といってきた。
「なんでそんなニヤついてたんだよキモいな」
「いや…ちょっとな」
「もしかして桃原か?」
ギクリと心臓が高鳴った。思わず表情が思いっきり顔に出てしまった。佐久間は「あーやっぱりなあ」なんて呟いた。佐久間はこういうのだけ鋭い。
「なにがあったんだ?」
「べ、別になにも」
「別に隠さなくてもいいだろ。誰にもいわねぇよ」
「………」
俺はちょっと悩んだあと、佐久間に言うことにした。別に佐久間なら良いだろう。
「昨日、桃原と一緒にアイス食べたんだけどな」
「うん」
「アイス交換して食べた」
「…つまりは間接キスか」
そう。実はあの時、俺は桃原とアイスを交換して一口食べあったのだ。提案は俺で、桃原は言われてちょっとびっくりしていたが、すぐに了承してくれた。桃原や佐久間にとっては小さいことだったかもしれないが、俺にとっては大きな幸運になった。思い出すたびに顔の筋肉が緩む。そしたらまたニヤついていたようで、佐久間に「キモい」と言われてしまった。昨日の事を深く思い出して、顔の筋肉が引き締まった。佐久間の顔色が変わる。佐久間から見たら俺の笑みが引っ込んで真剣な表情になったように見えるのだろう。佐久間はぐっと眉間にシワを寄せた。
「どうした?」
「いや、昨日ちょっと…」
「なんだよ?また桃原?」
「まあそうなんだけどな」
「何かあったんだろ?教えろよ」
「気のせいかもしれないんだけど、桃原がちょっとおかしい気がしたんだよ」
「桃原が?」
「不自然っていうのか?なんか緊張してるみたいでおかしかった」
「緊張ぉ?」
「でも気のせいかもしれないからわからない」
「ふーん」
佐久間は大して興味なさそうな反応をした。俺はやっぱり気のせいだったか?と考えてため息をついた。そしてふと時間割を見ると、「あ」次、体育だった。