ロストガール | ナノ



「はい。ソーダでいいんだよね」

「ああ。ありがとう」



学校の帰り、私と源田はコンビニの前で約束通り、アイスを食べようとしていた。源田はソーダ味の棒つきアイスで、私はソフトクリームのアイスを選んだ。ついでだし、私も食べることにしたのだ。コンビニの前に立ってアイスにかじりつきながら、私と源田はぽつぽつと会話した。



「さっきの佐久間面白かったね」

「確かにあれは傑作だった」



源田は思い出したようにくつくつと笑った。私もつられて笑う。さっき佐久間が鬼道の机に「妹命」と彫ってきたのを二人で見てきたのだ。周りの目を気にして、必死にガリガリと鬼道の机に文字を彫っている佐久間は事情を知っているものからするとかなり笑えた。しかもその後佐久間は鬼道にバレて追いかけられていて、私と源田はそれを見てしばらく爆笑していた。いま思い出しても笑えるぐらいだ。



「あ、良い忘れてたけどありがとうな、源田」

「え?何が?」

「勉強。教えてくれて。俺が勝ったら源田も罰ゲーム受けてたのにさ」

「ああいや、俺は、その、好きで教えてたから別に」

「いや、どっちにしろありがとう。結構良い点数とれたし」



源田は良い奴だと思う。というか優しい人だと思う。気配り上手いし、優しいし、しかもイケメンだしモテるし。もう女子の中では理想中の理想な男子だろう。真面目で優しいイケメンなんてそうそういない。私が女として会っていたら惚れていたかもしれない。考えてからその考えに自分でドキッとした。今、女として会っていたら惚れていたかもしれない、といったけど、今の私も正真正銘、女なのだ。源田は友達として見ているつもりだけど、もしかしたら私は今、源田を男として見ていたかもしれない。そう考えると少しドキドキする。もし私が源田の事を好きになっても、あくまでも世間的には私は女、源田は男なのだ。叶う訳がない。そういう考えで考えれば、佐久間は完全に友達として見れている。いくら私が女でもあれは男として見れないし、男として向き合うより友達として向き合った方が絶対気が合う。そこでまた私の心臓がドキッと高鳴った気がした。あれ?佐久間は友達として見れる。けど、私は源田は友達として見ているのか?ややこしいけど、簡単にいえば英語でcanとcan'tの違いだ。佐久間は男としてはcan'tだけど、友達としてはcanだ。それで問題の源田は、友達としてはcan、そして、男として、は。それで私の思考は止まってしまった。もしかしたら、いや、多分確実に、私は、



「なあ、桃原」

「えっ!?」



考えているところに源田の声が入ってきて私はびくりとした。源田は「な、なんでそんな驚いてるんだよ」と逆にこっちがびっくりしたとでも言いそうな顔をした。



「ご、ごめん。考え事してたから。で、なに?」

「桃原ってさ、前の学校どこ?」

「あ、えーとね、」



私は完全に嘘の学校名を源田に言った。本当に前にいた学校名なんて言える訳がない。だって私は男装をしていて、もし本当の学校を言ったりして調べられでもしたらおしまいだからだ。



「聞いたことないな」

「まあ遠いからね」



それからまたぽつぽつと源田と会話が始まった。本当に他愛ない会話だったと思う。誕生日とか、血液型とか、あと過去のこととか。でも、そんな他愛ない会話でも私は源田を意識してしまっていたから、いや、源田を意識していることに気づいてしまったから、あまり自然な会話ができなかった。といってもほとんど表明には出してなかったから、多分大丈夫だとは思う。私の微妙な変化に、源田は気づいてくれているだろうか。




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